最終更新: 2026-05-28
農林水産省の令和5年度調査によると、ジビエ食肉処理施設への搬入量はシカが5,605トン、イノシシが1,467トンにのぼります(e-Stat 統計表ID: 0002119971)。これだけの獣肉が処理される一方で、「せっかく獲った獲物を無駄なく使い切りたい」「長期保存できる方法が知りたい」と考える猟師は少なくありません。
ジャーキーは、そんな悩みを解決する保存食の代表格です。この記事では、鹿肉やイノシシ肉を使ったジビエジャーキーの作り方を、下処理から乾燥・保存まで5つのステップでお伝えします。まず必要な道具と衛生管理の基本を押さえ、次に肉の種類別の下味レシピ、そして乾燥方法と保存のコツまで順を追って解説します。
ジビエジャーキーの全体像:始める前に知っておくこと
ジビエジャーキーとは、シカやイノシシなどの野生獣肉を薄くスライスし、調味液に漬け込んだ後に低温で長時間乾燥させた保存食です。市販のビーフジャーキーと原理は同じですが、ジビエならではの注意点がいくつかあります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 所要時間 | 下処理30分 + 漬け込み8〜24時間 + 乾燥6〜20時間 |
| 費用(道具) | 3,000〜15,000円(フードドライヤーの場合) |
| 難易度 | 初心者でも挑戦しやすい |
| 必要なもの | 獣肉(鹿・猪など)、包丁、調味料、乾燥用機器 |
ジビエは家畜肉と異なり、E型肝炎ウイルスや寄生虫のリスクがあります。厚生労働省の「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」では、中心部の温度が75℃で1分間以上の加熱を推奨しています。ジャーキー作りでも、この基準を意識した乾燥温度の設定が欠かせません。衛生管理の詳細はジビエの衛生管理ガイドラインまとめで解説しています。
鹿肉と猪肉、どちらが向いている?
結論から言えば、どちらでもおいしいジャーキーが作れます。ただし、肉質の違いを知っておくと仕上がりに差が出ます。
| 比較項目 | 鹿肉(シカ) | 猪肉(イノシシ) |
|---|---|---|
| 脂肪量 | 少ない(赤身が多い) | やや多い(脂身あり) |
| ジャーキー適性 | 非常に向いている | 脂身を除けば向いている |
| 味わい | さっぱり、上品 | 濃厚、野性的 |
| 臭みの出やすさ | 比較的少ない | 下処理が重要 |
| 乾燥のしやすさ | 均一に乾燥しやすい | 脂肪部分が乾きにくい |
鹿肉は脂肪が少なく均一に乾燥するため、初心者にはまず鹿肉から試すことをおすすめします。猪肉を使う場合は、脂身をしっかり取り除くことが成功のカギです。イノシシ肉の下処理と臭み取りの方法も合わせて確認しておくとよいでしょう。
ジビエジャーキーの作り方【5ステップ解説】
Step 1: 肉の選定と下処理
ジャーキーに使う部位は、脂肪の少ない赤身が適しています。鹿肉ならモモやロース、猪肉ならロースの赤身部分を選びましょう。
まず、肉を半冷凍の状態にします。冷凍庫に1〜2時間入れて、表面がやや固くなった状態がベストです。完全に凍らせると包丁が入りにくく、常温だと薄くスライスしにくいためです。
半冷凍の肉を、繊維に対して直角に3〜5mmの厚さでスライスします。繊維に逆らって切ることで、乾燥後に食べやすい食感になります。厚さが均一でないと乾燥ムラが生じるため、できるだけ一定の厚みを保つことが大切です。
スライスした肉はキッチンペーパーで血液や余分な水分をしっかり拭き取ります。水分が残っていると、漬け込み液が薄まったり、乾燥時間が余計にかかったりする原因になります。
獣肉の解体から精肉までの手順を事前に確認しておくと、部位の見分け方がスムーズになります。
Step 2: 漬け込み液(ソミュール液)の準備
ジビエジャーキーの味を決めるのが漬け込み液です。ここでは鹿肉用と猪肉用の2つのレシピを紹介します。
鹿肉用(さっぱり和風味)の配合は次のとおりです。
| 材料 | 分量(肉500gあたり) |
|---|---|
| 醤油 | 大さじ3 |
| みりん | 大さじ2 |
| 料理酒 | 大さじ2 |
| おろしニンニク | 小さじ1 |
| おろしショウガ | 小さじ1 |
| 黒コショウ | 小さじ1/2 |
| 砂糖 | 小さじ1 |
猪肉用(スパイシー洋風味)の配合は次のとおりです。
| 材料 | 分量(肉500gあたり) |
|---|---|
| 塩 | 大さじ1 |
| 砂糖 | 小さじ2 |
| ブラックペッパー | 小さじ1 |
| ガーリックパウダー | 小さじ1 |
| パプリカパウダー | 小さじ1/2 |
| オニオンパウダー | 小さじ1/2 |
| ウスターソース | 大さじ1 |
| 赤ワインまたはブランデー | 大さじ1 |
材料を混ぜ合わせ、スライスした肉をジッパー付き保存袋に入れて漬け込みます。冷蔵庫で最低8時間、できれば18〜24時間寝かせましょう。途中で1〜2回、袋をもみほぐして味を均一になじませてください。
ジビエ特有の臭みが気になる場合は、漬け込み前に牛乳や塩水に30分ほど浸けておく方法も有効です。ジビエの臭み取り方法ではさらに詳しいテクニックを紹介しています。
Step 3: 水分の拭き取りと並べ方
漬け込みが終わったら、肉を取り出してキッチンペーパーで表面の水分と余分な調味液を丁寧に拭き取ります。この工程を怠ると、乾燥中に表面がベタつき、仕上がりが悪くなります。
乾燥用の網やトレイに肉を重ならないように1枚ずつ並べます。肉同士が接触していると、接触面が乾燥しにくくなるためです。
Step 4: 乾燥(3つの方法から選ぶ)
ジビエジャーキーの乾燥方法は、主に3つあります。環境や設備に合わせて選んでください。
方法1はフードドライヤー(食品乾燥機)を使う方法です。温度を65〜70℃に設定し、8〜12時間かけて乾燥させます。途中で一度、肉の上下を返すと均一に仕上がります。最も安定した仕上がりが得られるため、初心者にはこの方法が最適です。
方法2はオーブンを使う方法です。オーブンを最低温度(100〜120℃程度)に設定し、扉を少し開けた状態で3〜6時間乾燥させます。30分おきに様子を確認し、焦げないよう注意してください。オーブンの機種によって温度のクセがあるため、最初は短めの時間で様子を見るのが安全です。
方法3は天日干し(寒干し)を使う方法です。気温10℃以下の乾燥した冬場に、干しかごやネットに入れて3〜5日間、寒風にさらします。猟期中の山間部のように気温が低い環境であれば、昔ながらのこの方法が使えます。ただし、ハエや虫を防ぐための干しかごは必須です。気温が高い時期には衛生上のリスクが高まるため避けましょう。
| 乾燥方法 | 温度 | 時間 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| フードドライヤー | 65〜70℃ | 8〜12時間 | 安定した仕上がり | 機器の購入が必要 |
| オーブン | 100〜120℃ | 3〜6時間 | 家庭にあるもので可能 | 焦げやすい、電気代 |
| 天日干し(寒干し) | 外気温10℃以下 | 3〜5日 | 道具が最小限 | 季節・天候に左右される |
乾燥の完了は、肉を手で曲げたときにひび割れるが折れない状態が目安です。パリパリに硬くなるまで乾燥させると長期保存に向きますが、しっとりとした半生タイプが好みなら乾燥時間を短めにしてください。半生タイプの場合は保存期間が短くなるため、早めに食べ切るか冷凍保存してください。
Step 5: 燻製(任意)と保存
より深い風味を出したい場合は、乾燥後に燻製をかける方法があります。サクラチップやヒッコリーチップを使い、60〜80℃で1〜2時間スモークすると、市販品にも負けない本格的な味わいになります。燻製は必須ではなく、乾燥だけでも十分においしく仕上がります。
保存方法ごとの目安は次のとおりです。
| 保存方法 | 保存期間の目安 | 注意点 |
|---|---|---|
| 常温(湿気を避けて) | 2〜4週間 | シリカゲル(乾燥剤)を同封 |
| 冷蔵 | 1〜2か月 | 密閉容器またはジッパー袋で保管 |
| 冷凍 | 3〜6か月 | 小分けにして真空パックが理想 |
ここで注意すべきは、完全に水分が抜けたハードタイプのジャーキーは常温でも比較的長持ちしますが、半生タイプは冷蔵・冷凍が必須ということです。どちらの場合も、開封後は早めに食べ切りましょう。
失敗しないためのコツ・注意点
ジビエジャーキー作りでよくある失敗と、その対策をまとめました。
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 肉が硬すぎる | スライスが厚い、乾燥しすぎ | 3〜5mmの均一なスライスを心がけ、乾燥時間を調整 |
| 臭みが残る | 下処理不足 | 血抜き・牛乳漬けを丁寧に行う |
| 乾燥ムラがある | 肉の重なり、厚さの不均一 | 1枚ずつ間隔を空けて並べる |
| カビが生える | 水分が残っている | 十分に乾燥させ、保存時に乾燥剤を同封 |
| 味が薄い | 漬け込み時間が短い | 最低8時間、理想は18〜24時間漬け込む |
特に重要なのは衛生管理です。ジビエには家畜肉と異なる感染リスクがあるため、以下の3つを徹底してください。
1つ目は、まな板・包丁の使い分けです。生肉用と他の食材用を分け、使用後は熱湯消毒します。
2つ目は、乾燥温度の管理です。フードドライヤーやオーブンで65℃以上を維持し、内部まで確実に熱を通します。厚生労働省のガイドラインでは中心温度75℃で1分以上の加熱を推奨しています(2026年5月時点)。
3つ目は、異常のある肉は使わないことです。捕獲時に疾病の兆候があった個体の肉は、ジャーキーに限らず食用にしないでください。
費用・コストの目安
ジビエジャーキーを自作する場合、主なコストは乾燥機器と調味料です。自分で獲った獲物を使えば、肉のコストはゼロに近くなります。
| 項目 | 費用相場 | 備考 |
|---|---|---|
| フードドライヤー | 5,000〜15,000円 | 家庭用の5段トレイタイプが使いやすい |
| 燻製チップ(サクラ) | 300〜500円 | 500g入りで数回分 |
| 調味料一式 | 500〜1,000円 | 醤油・塩・スパイス類 |
| 干しかご | 500〜1,500円 | 天日干しの場合 |
| ジッパー付き保存袋 | 200〜400円 | 漬け込み・保存用 |
自分で捕獲したジビエ肉を使う場合、乾燥機器の初期投資を除けば1回あたりの材料費は500〜1,500円程度で済みます。一方、通販やジビエ販売店で鹿肉を購入する場合は、モモ肉で1kgあたり2,000〜4,000円が相場です(2026年5月時点)。
猟師がジビエジャーキーを作る3つのメリット
ここでは、競合記事ではあまり触れられていない「猟師にとってのジャーキー」という視点からお伝えします。
1つ目は、獲物の有効活用です。農林水産省の令和5年度調査によると、ジビエ食肉処理施設全体の食肉販売金額は約44億円で、そのうちシカが約25.7億円、イノシシが約16.4億円を占めています(e-Stat 統計表ID: 0002119974)。しかしこの統計に含まれない個人消費分も多く、端肉や余った部位をジャーキーにすることで廃棄を大幅に減らせます。ジャーキーに適した赤身のモモ肉は、ステーキやローストには少し使いにくい筋の多い部位でも活用できるのが利点です。
2つ目は、山での行動食になることです。猟期中の山歩きでは、軽量で高タンパク、常温保存可能な行動食が欠かせません。ジビエジャーキーは、自分で仕留めた獲物を自分の行動食に変えるという、猟師ならではの贅沢ができる保存食です。実際に山での猟の合間にジャーキーを食べている猟師は少なくありません。猟師の1日のスケジュールでも紹介しているように、長時間の山歩きでは手軽にエネルギーを補給できる携行食が重宝します。
3つ目は、周囲へのおすそ分けに最適であることです。猟友会の仲間や近所の方への手土産として、手作りジャーキーは非常に喜ばれます。「自分で獲って、自分で作った」という背景がギフトとしての価値を高めてくれます。
ジビエジャーキーの販売を考えている方への注意事項
自家消費用のジャーキーは自由に作れますが、販売する場合は法的な手続きが必要です。
ジャーキーを含む乾燥食肉製品を製造・販売するには、食品衛生法に基づく「食肉製品製造業」の営業許可が必要です。加えて、食品衛生管理者の配置や、製造基準・成分規格への適合も求められます(2026年5月時点)。
また、原料となるジビエ肉も、食肉処理業の営業許可を受けた施設で処理されたものでなければなりません。自宅の裏庭で解体した肉をジャーキーにして販売することはできないということです。ジビエの販売許可と個人での申請方法では、必要な許認可について詳しく解説しています。
一方、ペット用ジャーキー(犬・猫のおやつ)として販売する場合は、愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)に基づく届出が必要です。農林水産省と環境省への届出を忘れないようにしてください。
よくある質問
Q1: ジビエジャーキーは生で食べても大丈夫ですか?
いいえ。ジビエ肉には寄生虫やE型肝炎ウイルスのリスクがあるため、必ず加熱処理を行ってから食べてください。ジャーキー作りの乾燥工程で65℃以上を長時間維持すれば安全性は高まりますが、厚生労働省は中心温度75℃で1分以上の加熱を推奨しています。半生タイプのジャーキーを作る場合でも、この基準を満たす温度で十分に加熱してください。
Q2: 鹿肉以外にどんなジビエでジャーキーが作れますか?
鹿肉とイノシシ肉が最も一般的ですが、鴨肉やキジ肉でもジャーキーを作ることができます。ただし、鳥肉は哺乳類の肉に比べて薄いため、スライスの仕方や乾燥時間の調整が必要です。熊肉は脂肪が多く、ジャーキーにはあまり向いていません。各獣肉の特徴は[鹿肉の簡単レシピまとめ](https://kariudo.jp/gibier/venison-recipe-easy/)や[鴨肉のジビエ調理法](https://kariudo.jp/gibier/kamo-gibier-cooking/)も参考にしてください。
Q3: フードドライヤーがない場合、代用できるものはありますか?
オーブンを最低温度に設定して扉を少し開けた状態で乾燥させる方法が最も手軽な代替手段です。また、冬場であれば天日干し(寒干し)も可能です。ほかに、ホットプレートを最低温度にしてアルミホイルの上に並べる方法もありますが、温度管理が難しいためおすすめしません。
Q4: ジビエジャーキーを犬のおやつにしても大丈夫ですか?
調味料を一切使わず、肉だけを乾燥させたプレーンなジャーキーであれば、犬のおやつとして与えられます。塩分や香辛料は犬の健康に悪影響を与えるため、ペット用は必ず無添加で作ってください。販売する場合はペットフード安全法に基づく届出が必要です。
Q5: 乾燥中にカビが生えてしまいました。食べられますか?
カビが生えた場合は食べないでください。カビの生えた部分だけ取り除いても、目に見えない菌糸が肉全体に広がっている可能性があります。カビの原因は水分の拭き取り不足や乾燥温度の不足です。次回は漬け込み後の水分拭き取りを丁寧に行い、乾燥温度を65℃以上に保ってください。
Q6: 市販のビーフジャーキーとの違いは何ですか?
ジビエジャーキーは市販のビーフジャーキーと比べて脂肪分が少なく、高タンパクです。鹿肉は100gあたりの脂質が約4gで、牛肉の約25gと比較すると約6分の1です(日本食品標準成分表)。高タンパク・低脂質でヘルシーな点が特徴です。また、野生の獣肉ならではの深みのある味わいは、飼育された牛肉にはない独特の魅力があります。一方で、臭み取りや衛生管理など、ジビエ特有の注意点があることも覚えておいてください。
関連記事: ジビエとは?種類・栄養・市場データまで初心者向けに徹底解説
まとめ:ジビエジャーキーの作り方のポイント
ジビエジャーキー作りの要点を振り返ります。
- 肉は脂肪の少ない赤身を選び、半冷凍の状態で3〜5mmにスライスする
- 漬け込み液には最低8時間、できれば18〜24時間浸ける
- 乾燥は65〜70℃で8〜12時間が目安。初心者にはフードドライヤーがおすすめ
- ジビエの衛生管理は必須。中心温度75℃で1分以上の加熱基準を意識する
- 保存は密閉容器に乾燥剤を入れ、冷蔵で1〜2か月が安全
まずは鹿肉のモモ肉500gから試してみましょう。フードドライヤーがなくても、オーブンの最低温度設定で十分に挑戦できます。
ジビエ料理のレパートリーを広げたい方は、ジビエの臭み取り方法まとめや鹿肉の簡単レシピ集もぜひご覧ください。
参考情報
- 厚生労働省「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000032628.html)
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」(e-Stat 統計表ID: 0002119971, 0002119974)
- 農林水産省「産地でシカ・イノシシなどを捕獲し、ジビエとして流通させたり、加工品としての販売をお考えの方へ」(https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/hanbai.html)
- 静岡製機「シカ肉ジャーキー乾燥ガイド」(https://www.shizuoka-seiki.co.jp/products/agriculture/electricdehydrator/drappy-guide/jerky/)
- 国産ジビエ認証制度(https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/ninsyou.html)

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