緊急銃猟の体制はどう作る?新潟・胎内市と長野・大町市の備えを比較

緊急銃猟の体制はどう作る?新潟・胎内市と長野・大町市の備えを比較 獣害対策

最終更新: 2026-10-23

緊急銃猟は、クマなどが人の生活圏に出没した際に市町村長の判断で銃猟ができる制度で、判断主体が「市町村長」であることは法律上決まっています。しかし、実際に住宅地のそばにクマが現れたとき、市町村長一人がその場で全てを判断できるわけではありません。通報を受けてから発砲までの間に、誰が現場の危険度を見極め、誰が住民への周知や警察との連携を仕切るのか、その具体的な体制づくりは自治体ごとに大きく異なります。

NHKは2026年10月22日、この「誰がいつ撃つのか」という実務上の課題を、新潟県胎内市と長野県大町市の2つの事例を通じて報じました。この記事では、両市の対応の記録を基に、現場主導で動く胎内市の実例と、専用アプリと広域連携で備えを固めようとする大町市の取り組みを比較し、緊急銃猟の体制づくりに何が必要なのかを整理します。緊急銃猟そのものの制度設計(4つの要件や損失補償の仕組み)については「緊急銃猟とは」で詳しく解説しているので、制度の基本を確認したい方はそちらもご覧ください。

緊急銃猟の「誰が撃つか」は決まっているが、「どう動くか」は自治体次第

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改正鳥獣保護管理法に基づく緊急銃猟は、2025年9月1日に施行されました。制度上、発動の判断主体は市町村長と定められていますが、実際の現場では、通報の受理、危険度の判定、住民周知、警察との交通規制の調整、ハンターの手配といった複数の作業を同時並行で進める必要があります。これらを誰がどう分担するかという運用面の体制は、法律では細かく定められておらず、各自治体が独自に組み立てているのが実情です。

項目 内容
制度上の判断主体 市町村長(法律で規定)
実務上の課題 通報受理・危険度判定・住民周知・警察連携・ハンター手配の同時進行
体制づくりの方法 法律に規定なし。自治体ごとに個別に整備

出典: NHK「クマ対策最前線 緊急銃猟『誰がいつ撃つのか』新潟県胎内市や長野県大町市の取り組みとは」(2026年10月22日)

新潟県胎内市:現場の危険度判定を起点に短時間で実施した事例

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胎内市では2025年11月14日の朝、下赤谷地区の空き地で、市が設置したわなに体長約1.2メートルのクマがかかっているのを住民が発見し、午前7時30分ごろに市へ通報しました。現場は鳥坂神社に近く、民家もすぐそばにあったため、市は人の生活圏内で危険性が高いと判断し、午前9時過ぎに緊急銃猟でクマを駆除しました。通報から駆除完了まで、おおよそ1時間半という短時間での対応でした。

項目 内容
発生日 2025年11月14日
現場 胎内市下赤谷地区(鳥坂神社付近、民家が近接)
きっかけ 市が設置したわなにクマ(体長約1.2m)がかかる
通報から駆除まで 約1時間半(午前7時30分通報、午前9時過ぎに駆除)
位置づけ 新潟県内で6例目の緊急銃猟

出典: 新潟日報「胎内市で初の緊急銃猟、クマ1頭駆除 市が設置のわなにかかる」、UX新潟テレビ21報道(2025年11月)

このケースの特徴は、わなにかかって動きが限定された個体だったこと、そして現場が民家に近接していたことから、危険性の判定自体にそれほど時間がかからなかった点にあります。胎内市は新潟県内でも緊急銃猟の実施件数が多い地域の一つで、過去の対応経験の積み重ねが、今回の速やかな判断につながったとみられます。ただし、この事例は「わなにかかった個体」という比較的対応しやすい状況だったことも踏まえておく必要があります。移動中の個体が市街地に現れた場合、同じ速さで判断できるとは限りません。

長野県大町市:専用アプリと広域連携で体制を整備する取り組み

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一方、大町市は、まだ現実の出没事案で緊急銃猟を実施した実績そのものよりも、「いざという時に本当に動けるか」を事前に検証する取り組みに力を入れています。

専用アプリで条件確認を共有

大町市は2025年9月の制度施行を受けて、市内のIT企業と協力し、緊急銃猟の実施条件を満たしているかどうかを担当者間で共有できる専用アプリの開発を進めました。2025年10月17日に市役所でこのアプリを使った最初の訓練を実施し、同年11月4日にも訓練を重ねています。

市街地を想定した机上訓練で見えた高いハードル

2026年6月9日早朝、市役所近くの県道でクマが目撃される出没が発生しました。これを受けて大町市は6月17日、市中心部にクマが出没した場合を想定した机上訓練を実施しました。訓練では、関係施設への連絡や周辺の通行規制など膨大な作業が同時に発生することが明らかになり、担当者は「市街地での実行には高いハードルがある」と痛感したと報じられています。当時、長野県は北アルプス地域に「ツキノワグマ出没注意報」を発令していました。

信州ガバメントハンター協議会による広域連携

大町市は2026年3月21日、近隣の小諸市と共同で「信州ガバメントハンター協議会」を設立しました。狩猟免許を持つ自治体職員(ガバメントハンター)同士が自治体の枠を超えてノウハウを共有し、担当職員の専門性向上と負担軽減を図ることが目的です。協議会では大町市が開発したアプリを活用したプラットフォームの運用も始まり、他の市町村にも参加を呼びかけています。2026年4月には小諸市でも、県内の目撃情報が1か月で20件に達する中、同じ支援システムを使った訓練が行われました。

項目 内容
アプリ開発開始 2025年9月の制度施行後、市内IT企業と協力して着手
最初の訓練 2025年10月17日(市役所)
追加訓練 2025年11月4日
市街地想定の机上訓練 2026年6月17日(6月9日の目撃を受けて実施)
訓練で浮上した課題 関係施設連絡・通行規制など「膨大な作業」、市街地実行の「高いハードル」
広域連携の枠組み 信州ガバメントハンター協議会(2026年3月21日設立、小諸市と共同)

出典: 信濃毎日新聞デジタル、テレビ信州・NBS長野放送・abn長野朝日放送の各報道(2025年10月〜2026年6月)

2つの自治体の備え方を比較する

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胎内市と大町市は、どちらも改正鳥獣保護管理法という同じ制度のもとで動いていますが、体制づくりの重心は異なります。胎内市は過去の実施経験を踏まえた現場判断の速さが強みで、大町市はまだ本番の出没事案が少ない分、訓練とデジタルツールで事前に手順を固めておく方向に力を入れています。

比較項目 胎内市 大町市
主な強み 過去の実施経験に基づく現場判断の速さ 訓練とアプリによる事前の手順整備
今回取り上げた事例 実際の出没・駆除事案(2025年11月) 机上訓練・広域連携の構築過程
課題として見えたこと わなにかかった個体以外では同じ速さを保てるかは未知数 市街地での実行には「高いハードル」があると自ら認識
広域連携 記事内では確認できず 信州ガバメントハンター協議会で小諸市と連携

出典: NHK報道(2026年10月22日)、各自治体の個別報道をもとに編集部作成

どちらの方法が優れているというより、出没の頻度や地理的条件によって自治体が選ぶアプローチが変わっていると見るのが実情に近いでしょう。緊急銃猟の実施件数が全国で増えている新潟県のように出没・実施事案が多い地域では、現場の経験が積み重なりやすい一方、まだ実施件数が少ない地域では、大町市のように訓練とツールで備えを固める必要性が高くなります。全国の実施状況や施行1年の課題は「緊急銃猟とは」で解説した「判断から発砲までの時間」「対応できるハンターの不足」「自治体ごとの体制の差」という3つの課題にも直結します。大町市の机上訓練が示した「高いハードル」は、まさにこの3つ目の課題そのものだと言えます。

自治体ごとの体制差は、他の地域の取り組みにも表れている

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自治体ごとの体制の差は、胎内市・大町市以外の事例でも確認できます。新潟県内では新発田市・村上市・三条市・妙高市の4市で狩猟免許を持つ自治体職員「ガバメントハンター」の導入が進んでいますが、この4市に胎内市は含まれておらず、同じ県内でも人材育成の進め方は一様ではありません。三重県では「M-BEST」という66人体制のクマ緊急対応チームを県レベルで組織する動きもあり、市町村単位ではなく都道府県単位で広域の対応力を高める別のアプローチも存在します。兵庫県丹波市や東京都八王子市、新潟県魚沼市の各事例では、それぞれ異なる個別の出没対応の経過が報告されており、体制づくりの巧拙がそのまま対応時間の差につながっていることがうかがえます。

猟師を志す人や、自治体での鳥獣対策に関わりたい人にとって、こうした体制づくりの違いは「どの自治体が人材を求めているか」を見極める手がかりにもなります。訓練や協議会による人材育成に力を入れている自治体は、今後ガバメントハンターや委託ハンターの受け入れを広げていく可能性が高いと考えられます。自治体職員としてこの分野に関わる道筋は「認定鳥獣捕獲等事業者とは」や「新潟県でガバメントハンター導入が加速」でも紹介しています。

まとめ:緊急銃猟は「誰が撃つか」より「どう備えるか」が地域ごとの課題

  • 緊急銃猟の判断主体は法律上市町村長だが、現場での実務の分担は自治体ごとに独自に整備されている
  • 胎内市は2025年11月の事例で、わなにかかった個体という状況もあり、通報から約1時間半で駆除を完了した
  • 大町市は専用アプリの開発と訓練、信州ガバメントハンター協議会による広域連携で、市街地出没への備えを段階的に固めている
  • 2026年6月の机上訓練では、大町市自身が「市街地での実行には高いハードルがある」と認識しており、体制が整っていても課題は残る
  • 出没頻度や地理的条件によって、現場経験重視か事前訓練重視かのアプローチは分かれる

緊急銃猟という制度そのものについてさらに知りたい方は「緊急銃猟とは」を、個別の自治体の対応時間に関する課題は「緊急銃猟はなぜ時間がかかる?八王子市の事例と課題」をあわせてご覧ください。

業界全体の捕獲数や体制づくりの最新データは狩猟・ジビエ業界の統計まとめでも定期的に更新しています。

参考情報

  • NHK「クマ対策最前線 緊急銃猟『誰がいつ撃つのか』新潟県胎内市や長野県大町市の取り組みとは」(2026年10月22日) https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261022de63328
  • 新潟日報「胎内市で初の緊急銃猟、クマ1頭駆除 市が設置のわなにかかる」(2025年11月) https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/728607
  • 信濃毎日新聞デジタル「大町市が『緊急銃猟』の専用アプリ開発 条件満たしたかを共有」(2025年10月20日) https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2025101800149
  • 信濃毎日新聞デジタル「市街地に熊、そのとき本当に『緊急銃猟』できるのか 大町市が訓練で直面した課題」(2026年6月23日) https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01d8sgooin8tfj5flu4re0
  • NBS長野放送「クマ被害…『緊急銃猟制度』で『公務員ハンター』が注目 小諸市と大町市が協議会を設立」(2026年3月) https://www.nbs-tv.co.jp/news/articles/?cid=27483
  • 信濃毎日新聞デジタル「『公務員ハンター』集まり熊対策を強化 小諸市と大町市が協議会設立」(2026年3月) https://www.shinmai.co.jp/news/article/gf01d6v88od6su5o0j61k9ng


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