「もう撃ちたくない一発」緊急銃猟の現場でハンターが抱える重圧

「もう撃ちたくない一発」緊急銃猟の現場でハンターが抱える重圧 猟師の暮らし

最終更新: 2026-10-09

2025年9月に施行された「緊急銃猟」制度は、市町村長の判断があれば市街地でもクマなどを銃で駆除できる仕組みです。2025年10月、この制度が北海道で初めて使われました。実際に発砲したハンターが講演で語った言葉は「もう撃ちたくない一発」。制度そのものの仕組みは別記事で解説していますが、この記事では「現場で実際に何が起きているか」を、報道された一次情報に基づいて整理します。

北海道初の緊急銃猟:何が起きたか

2026 10 09 kinkyu juryo hunter juuatsu genba guide h2 00

2025年10月、札幌市西区の住宅街にある公園で、体長80センチほどの子グマ2頭が連日目撃されました。札幌市は「市民に緊急の危険があり、銃猟以外に危険を排除できない」と判断し、北海道で初めて緊急銃猟制度を利用した駆除を実施しました(HBCニュース北海道、Yahoo!ニュース配信)。

発砲したのは、北海道猟友会札幌支部理事でヒグマ防除隊隊長の玉木康雄さん(64)。午後2時36分に発砲し、2発で2頭を仕留めました。

ハンターが語った「重圧」

2026 10 09 kinkyu juryo hunter juuatsu genba guide h2 01

玉木さんは後の講演会で、当時の心境を次のように語っています。

> 市街地で発砲する場合は確実にしとめないといけない。ここでの一発は、重圧以外何もない。もう撃ちたくない一発

山での狩猟であれば、仕留められなかった場合でもクマは山に逃げていきます。しかし住宅街での発砲は、一発で確実に仕留められなければ、クマが暴れて逃げ回る事態になりかねません。周囲に住民がいる以上、失敗が許されないという重圧が、山の猟とは質的に異なることをこの発言は示しています。

「地域住民の協力」が成立条件だった

2026 10 09 kinkyu juryo hunter juuatsu genba guide h2 02

玉木さんはもう一つ、重要な点を指摘しています。

> 札幌市や警察、我々、そして地域住民の協力がないと緊急銃猟は成立しない。地域住民の協力がないと安全な捕獲はできない

実際、発砲の前日には捕獲の準備が整っていたものの、規制区域に住民が入ってしまったために、その日の実施は急きょ中止になりました。緊急銃猟は「市町村が許可すれば発砲できる」という制度上の話だけでなく、現場では住民が規制区域に立ち入らないという協力が成立の前提になっていたことがわかります。

なぜハンターは不安を抱えるのか:2018年の砂川事件

2026 10 09 kinkyu juryo hunter juuatsu genba guide h2 03

緊急銃猟の現場でハンターが抱える不安の背景には、2018年に北海道砂川市で起きた「砂川事件」があります。

当時、クマ駆除の要請を受けた猟友会支部長・池上治男さん(70、狩猟経歴30年)が子グマを射殺したところ、警察は「弾の先に建物があった」として書類送検しました。現場には8メートルの土手があり、実際には建物を視認できない状況だったにもかかわらず、地図上の平面位置だけで危険と判断されたといいます。検察は不起訴とし、北海道も免許を取り消さず、市も駆除員としての任命を継続しましたが、池上さんは2021年に札幌地裁で「著しく妥当性を欠き違法」として勝訴した後、2024年の高裁では逆転敗訴となり、合計6年にわたる法廷闘争を強いられました。

この事件は、「要請を受けて駆除しても、後から『危険な発砲だった』と責任を問われるかもしれない」という不安を、現場のハンターに残しています。猟友会関係者からは、緊急銃猟制度について「警察が発砲の責任を自治体に押し付けられる、使い勝手の良い制度になっている」という指摘や、「私はクマを殺すために猟友会に入ったわけじゃない」という声も報じられています。

駆除にあたる際の報酬は数万円程度にとどまる一方、事故が起きた場合の刑事責任や長期の裁判リスクは個人が負うことになります。このリスクと報酬の不均衡が、免許を持っていても実際には出動をためらう「ペーパーハンター」を増やす一因になっているとも指摘されています。

制度の仕組みを知りたい方へ

2026 10 09 kinkyu juryo hunter juuatsu genba guide h2 04

緊急銃猟そのものの制度設計(4つの発動要件、市町村長の権限、施行1年間で14道県81件という実績)については、既存記事「緊急銃猟とは?」で詳しく解説しています。あわせて、ハンター育成の取り組みについては「埼玉県のクマ緊急銃猟・ハンター育成」も参考になります。

まとめ:制度があっても「現場の重圧」は残る

  • 2025年10月、札幌市西区で北海道初の緊急銃猟が発動。玉木康雄さんが2発で子グマ2頭を駆除
  • 玉木さんは「市街地での一発は重圧以外何もない」「もう撃ちたくない一発」と証言
  • 発砲の前日には住民が規制区域に入り実施が中止になった経緯があり、住民の協力が成立条件だった
  • 2018年の砂川事件(書類送検・不起訴・6年の法廷闘争)が、現場ハンターの「撃てば責任を問われるかもしれない」という不安の背景にある
  • 報酬と責任リスクの不均衡が、免許保有者の出動をためらわせる一因になっている

制度の仕組みを整えるだけでは、現場のハンターの不安は解消されません。クマ対策の人手不足という構造的な課題については「クマ対応の狩猟者が20年で6割に減少|福井の事例と広域連携策」でも取り上げています。

参考情報


コメント

タイトルとURLをコピーしました