最終更新: 2026-10-26
クマが捕獲されたとき、現場では「放獣」か「殺処分」かの判断が迫られます。神奈川県秦野市では2026年10月、フン分析で「有害性は低い」と判断して山奥に放ったツキノワグマが、わずか3日で元の場所付近に戻ってくる事例が起きました。何を基準に放すか殺すかが決まるのか、秦野市の経緯と公表されている判断基準から整理します。
何が起きたのか:秦野市の経緯

秦野市では2026年10月11日ごろから、市内の権現山付近でツキノワグマの目撃が相次ぎました。市は10月14日に権現山・浅間山の登山道を一時閉鎖し、10月20日に現地でクマ1頭(体長1.36メートル)の捕獲を確認しました。
市はこの個体について、フンの分析から主にドングリなどの植物を食べていたことを確認し、「有害性は低い」と判断。放獣時にGPS発信器を取り付けたうえで、丹沢山地の奥地に放しました。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 10月11日ごろ〜 | 権現山付近でクマの目撃が相次ぐ |
| 10月14日 | 権現山・浅間山の登山道を一時閉鎖 |
| 10月20日 | 現地で捕獲を確認。フン分析から有害性低いと判断し、GPS発信器を装着して丹沢山地奥地へ放獣 |
| 10月22日20時41分 | 市が「捕獲した個体以外の生息を確認できず危険性は除去できた」として対応終了を発表 |
| 10月23日昼 | 登山道閉鎖を解除 |
| 10月23日20時45分ごろ | 善波峠のセンサーカメラに同一個体と見られるクマが撮影される(GPS発信器の電波で同一個体と確認) |
| 10月24日 | 浅間山・弘法山・権現山の3登山道を再び閉鎖。県・市は捕殺も視野に対応を検討 |
登山道の閉鎖を解いたその日のうちに、同じ個体が戻ってきたことになります。
なぜ「放獣」が選ばれたのか

秦野市が殺処分ではなく放獣を選んだ背景には、神奈川県内のツキノワグマの生息数の少なさがあります。主な生息地である丹沢山地の生息数は約80頭と推定され、神奈川県のレッドデータブックでも絶滅危惧種に区分されています。そのため県・市は、人身被害の恐れが切迫していない個体については保護を優先する方針をとっており、今回のクマも「有害性が低い」という判定を踏まえて放獣されました。
放獣か殺処分かはどう判断されるのか

クマの捕獲後の措置は、都道府県・市町村が独自に定める基準に沿って判断されます。栃木県那須町が公表している資料では、捕獲後の対応を「学習放獣対象個体」と「殺処分対象個体」に分け、次のような基準を示しています。
| 区分 | 主な基準 |
|---|---|
| 殺処分対象個体(捕獲許可申請時) | 人身被害(登山道などでの偶発的被害を除く)を発生させた個体/人家侵入を起こした個体/電気柵設置等の対策を実施済みでも執着し被害を発生させた個体/過去に人身被害が発生した地区で住民の恐怖心が強い等、特別な配慮を要する場合 |
| 殺処分対象個体(捕獲確認時の追加基準) | 学習放獣を予定していたが、有害獣として2度以上捕獲された個体/家畜・家禽に被害を発生させたことがある個体/わなが壊れそうになるなど学習放獣の実施が困難と現場で判断された場合 |
今回の記事で確認したように「再び同じ場所に出没し、その場所への執着性が高いと判断される個体」は、人との接触の危険性が高まるため殺処分の選択肢が出てくると秦野市は説明しています。ただし、この基準は全国一律ではありません。クマの放獣と殺処分の判断基準は都道府県によって異なり、山形県から秋田県へ約50キロ移動して再出没した個体が、別の自治体では「再被害を起こした個体」として駆除に至った例も報じられています。同じ「再出没」でも、どの自治体の基準に当てはめるかで結論が変わりうる点には注意が必要です。
まとめ:秦野市のケースから読み取れること
- 秦野市は「有害性が低い」と判断したクマを丹沢山地奥地へ放獣したが、登山道閉鎖解除の当日に同一個体が再出没した
- 放獣が選ばれた背景には、神奈川県内のツキノワグマが約80頭と推定され絶滅危惧種に区分されていることがある
- 捕獲後の措置基準は自治体ごとに定められており、「再出没」「執着性」をどう評価するかで放獣か殺処分かの結論が変わる
- 緊急銃猟など住宅地での駆除の仕組みについては、あわせて制度解説の記事を確認するとわかりやすい
緊急銃猟の4つの要件や全国の実施状況は「緊急銃猟とは?4つの要件・市町村長の権限・施行1年で81件の実態と課題を解説」、自治体がクマ対応の体制をどう整えているかは「緊急銃猟の体制はどう作る?新潟・胎内市と長野・大町市の備えを比較」もあわせてご覧ください。狩猟・獣害対策の最新データは狩猟・ジビエ業界データまとめで定期更新しています。
参考情報
- 秦野市ホームページ「ツキノワグマ目撃情報」 — 目撃・閉鎖・対応状況について参照(確認日: 2026年10月26日)
- 「有害性低い」と放したクマ 市街地近くに再び現れる 神奈川・秦野(朝日新聞)|Yahoo!ニュース — 放獣理由・再出没の経緯について参照(2026年10月24日配信)
- クマ「駆除せず放獣」秦野市の対応に称賛の声 なぜ捕殺しない?再出没なら?市が明かした対応方針|J-CASTニュース — 捕獲日・体長・再出没の経緯・今後の方針について参照(2026年10月24日配信)
- 秦野市、クマに関係する対応終了 捕獲ツキノワグマ以外の個体生息確認なく|カナロコ(神奈川新聞) — 10月22日の対応終了発表について参照(2026年10月22日配信)
- 秦野のクマ、20日の放獣から23日の善波峠再出没までの経緯|リアルタイムニュースNAVI — GPS発信器による同一個体確認・登山道閉鎖解除の時刻について参照
- 別表4 クマ捕獲後の措置に関する基準|栃木県那須町 — 学習放獣対象個体・殺処分対象個体の基準について参照
- クマが山形から秋田まで50キロ移動し再出没 放獣か、捕殺か…判断基準は県によってバラバラ|日刊ゲンダイDIGITAL — 自治体ごとの判断基準の違いについて参照


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