1859年開港の港町に、なぜジビエが根付いたのか

横浜は1859年(安政6年)の開港以来、世界中の食文化が流入してきた街だ。フランス料理、イタリア料理、中華料理、アメリカンフードが横浜の食を豊かにしてきた歴史がある。それと同時に、背後に広がる丹沢山地や三浦半島の里山では、古くからシカやイノシシが生息してきた。
そのふたつが交わったのが、横浜の「ジビエ×洋食」という独自文化だ。東京の有名ジビエレストランが和食や創作料理中心なのに対し、横浜ではイタリアン・フレンチのシェフたちが野生の素材を積極的に取り込んでいる。それは港から入ってきたヨーロッパの食文化と、丹沢・箱根の山岳地帯が生む野性の素材が出会った必然とも言える。
さらに近年では、神奈川県秦野市が「丹沢ジビエ」として捕獲したシカ・イノシシの食肉利用を本格化させており、横浜の名店が地元産の食材を積極的に活用するようになった。捕獲・処理・料理という全工程が神奈川県内で完結するサプライチェーンが、今まさに形成されようとしている。
「ジビエは山奥の料理」というイメージを覆す、横浜ならではのジビエ体験をこのガイドで紹介する。
横浜・神奈川のジビエ基礎知識

神奈川県のシカ・イノシシ生息状況
神奈川県では特に丹沢山地を中心にニホンジカの個体数が増加しており、農林業被害が深刻化している。農林水産省の調査では、全国でシカによる農作物被害額が年間約50億円規模(令和5年度・農水省公表)に達しており、神奈川県も例外ではない。
こうした背景から、神奈川県と秦野市は捕獲したシカ・イノシシを「廃棄物」ではなく「地域資源」として活用するジビエ事業を推進している。2025年には株式会社川上商会が「シカ肉のキーマカレー」「欧風鹿肉入りソーセージ」「欧風猪肉入りソーセージ」などの新商品を開発し販売を開始(2025年3月・タウンニュース)。地元産ジビエの認知度向上が進んでいる。
横浜で食べられるジビエの主な種類
| ジビエの種類 | 産地の傾向 | 提供形式の特徴 |
|---|---|---|
| エゾシカ | 北海道(日高・十勝・鶴居村等) | フレンチ・イタリアンのコース料理 |
| ニホンジカ | 神奈川(丹沢)・関東各地 | 地元食材として注目度上昇中 |
| イノシシ | 兵庫(丹波)・島根・地元産 | 冬季ジビエの定番、居酒屋系も多い |
| エゾヒグマ | 北海道 | 年間流通量が少なく入手が難しい希少食材 |
| ヤマドリ・キジ | 関東・中部 | 提供する店舗は少ないが、本格ジビエ店で季節提供 |
ジビエの旬:横浜で楽しむベストシーズン
日本の狩猟期間は一般的に11月15日〜翌年2月15日(ニホンジカ・イノシシは一部延長あり)のため、国産ジビエが最も豊富に出回るのは冬から早春にかけてだ。ただし、北海道では生態系管理のために年間を通じた捕獲が実施されており、エゾシカは通年で安定供給されている。横浜のジビエレストランは、冬は国産の旬ジビエ、それ以外の季節はエゾシカやジビエの加工品を組み合わせてメニューを構成していることが多い。
「いつ行けばジビエを食べられるか」という問いに答えるなら、「通年楽しめる」と言っていい。ただし、冬季(12月〜2月)が最も食材の種類・鮮度・価格の充実度が高い。
横浜のジビエレストラン4選:エリア別ガイド
関内・馬車道エリア:Osteria Austro(オステリアアウストロ)
横浜のジビエレストランで最も高い知名度を誇るのが、馬車道駅から徒歩4分ほどの場所にある「Osteria Austro(オステリアアウストロ)」だ。
横浜の洗練されたイタリアンシーンの中でも異彩を放つのが、ジビエとイタリアワインに特化したスタイル。エゾシカのビステッカ(イタリア式ステーキ)、ヒグマのサルシッチャ(腸詰め)、イノシシのラグー(煮込みソース)など、本場イタリアのチンゲリア(ジビエ料理専門店)が出すような料理をカジュアルな雰囲気で楽しめる。
特筆すべきは、季節ごとにメニューが大きく変わる点だ。冬はエゾシカ・ヒグマが中心で、春から夏にかけてはイノシシや鴨がメインになる。200種類以上のイタリアワインとのペアリングを前提に料理が設計されており、ワイン好きには特におすすめだ。
- 場所:横浜市中区 馬車道駅(みなとみらい線)徒歩約4分、JR関内駅徒歩約10分
- 予算:ランチ 3,000〜4,999円 / ディナー 8,000〜9,999円
- スタイル:イタリアン(ジビエ専門)×イタリアワイン200種以上
- コース:シェフのおまかせ6,600円〜、肉料理コース7,700円〜、ジビエ全力コース12,000円〜
- 特徴:エゾシカ・ヒグマなど希少ジビエを扱う横浜でも珍しい店
野毛エリア:Bistro AMI(ビストロ アミ)
野毛は横浜の「大人の繁華街」として知られ、個性的な飲食店が軒を連ねる下町だ。その野毛にひっそりとたたずむのが「Bistro AMI」で、最大の特徴はオーナーシェフ自身が猟師でもあるという点だ。
料理人兼ハンターというユニークな経歴を持つシェフが、山に入って自ら捕獲した鳥獣と、地元神奈川産の旬食材を組み合わせたビストロ料理を提供している。「肉を仕留めた人間が料理する」という意味での本当の意味での「ジビエ料理」を体験できる希少な店だ。
ジビエの独特な風味を生かしながら、野毛の温かみある雰囲気の中でコース料理やアラカルトを楽しめる。シェフの腕と自身の猟の成果次第でメニューが変わるため、訪問のたびに新しい発見がある。
- 場所:横浜市中区 野毛地区(JR桜木町駅・京急日ノ出町駅から徒歩圏内)
- 予算:5,000〜10,000円
- スタイル:フレンチビストロ×ハンターシェフによるジビエ
- 特徴:シェフ自ら猟に出る本物のジビエ体験
石川町・元町エリア:Restaurant EISUKE(レストランエイスケ)
JR石川町駅の元町口から徒歩1〜2分のところにある「Restaurant EISUKE」は、北海道鶴居村から直接エゾシカを一頭買いするというこだわりのフレンチレストランだ。
北海道・鶴居村は釧路湿原に隣接する酪農と自然のまちで、エゾシカが多く生息し、適正管理の一環として捕獲が行われている産地だ。シェフがこの地を選んでいる理由は「個体管理のトレーサビリティが明確であること」と「鶴居村の豊かな自然環境が肉質に現れること」。一頭買いすることで鮮度と安定した仕入れを確保し、フランス修業で習得した技法で繊細な料理に仕上げる。
元町という神奈川屈指のオシャレタウンに位置しながら、メニューは本格的。鹿肉のテリーヌ、シカのロースト、ジビエのパテ・アン・クルートなど、フランス料理の古典技法が活きた料理が揃う。三浦半島産野菜との組み合わせも秀逸だ。
- 場所:横浜市中区 石川町駅から徒歩1〜2分 / 元町・中華街方面
- 予算:ランチ 4,000〜4,999円 / ディナー 6,000〜7,999円
- 営業:ランチ 11:30〜13:30 / ディナー 17:30〜
- 電話:045-319-4464
- スタイル:本格フレンチ×北海道鶴居村産エゾシカ一頭買い
- 特徴:「サステナブルなジビエ調達」にこだわる横浜フレンチの実力店
横浜駅周辺エリア:ろっくうぇるず ハマ横丁
「もっとカジュアルに、気軽にジビエを試したい」という方に向けておすすめしたいのが、横浜駅徒歩3分ほどの好立地にある「ろっくうぇるず ハマ横丁」だ。
ジビエ居酒屋スタイルで、蝦夷シカ(北海道日高産)や島根県産の冬イノシシなどを居酒屋メニューとして提供している。刺身・焼き・揚げ・鍋と調理法も幅広く、初めてジビエを食べる人でも入りやすい雰囲気だ。
ジビエのハードルを下げ、「まず一口試してみたい」という初心者にうってつけの店。横浜駅直近という立地から、仕事帰りにも立ち寄りやすい。
- 場所:横浜駅から徒歩約3分
- 予算:2,000〜5,000円(居酒屋スタイル)
- スタイル:ジビエ居酒屋(アラカルト中心)
- 特徴:蝦夷シカ・島根猪など産地明記のジビエを気軽に
横浜エリアのジビエレストラン比較テーブル
| 店名 | エリア | スタイル | 予算(ディナー) | 主なジビエ | こんな人に |
|---|---|---|---|---|---|
| Osteria Austro | 馬車道・関内 | イタリアン | 8,000〜10,000円 | エゾシカ・ヒグマ・イノシシ | ワイン×本格ジビエ体験を |
| Bistro AMI | 野毛 | フレンチビストロ | 5,000〜10,000円 | 国産季節ジビエ | ハンターシェフの生産者体験を |
| Restaurant EISUKE | 元町・石川町 | フレンチ | 6,000〜8,000円 | 鶴居村エゾシカ一頭買い | 本格コースでじっくり楽しみたい |
| ろっくうぇるず | 横浜駅周辺 | ジビエ居酒屋 | 2,000〜5,000円 | 蝦夷シカ・島根猪 | 初めてジビエに挑戦したい |
神奈川×ジビエの注目トレンド:「丹沢ジビエ」の台頭
横浜のジビエがエゾシカ(北海道産)中心から変わりつつある。それが「丹沢ジビエ」の台頭だ。
神奈川県秦野市では、丹沢山地で捕獲したシカ・イノシシを食肉として加工・販売するプロジェクトが進行中だ。秦野市は日本ジビエ振興協会の会員に名を連ね、自治体として積極的にジビエ事業を推進している。2025年3月には地元企業が「シカ肉のキーマカレー」「欧風鹿肉入りソーセージ」などを新商品として発売した。
さらに2026年7月には「ジビエで町おこし 駆除したシカ、イノシシは『財産』」というタイトルでABEMAがニュース報道を行い(2026年7月27日)、秦野市の取り組みが全国的な注目を集めている。
横浜の飲食店にとっては、「地産地消のジビエ」という魅力的な選択肢が神奈川内で確立されつつある。首都圏で最も早く「神奈川産ジビエ」を食卓に届けられるのが横浜なのだ。
横浜でジビエを食べる前に知っておきたいこと
予約のタイミング
横浜のジビエレストランは、本格フレンチ・イタリアン系は予約必須の店が多い。特に冬シーズン(11〜2月)は予約が集中するため、1〜2週間前から予約を入れておきたい。Osteria Austro・Restaurant EISUKEは公式サイトまたは食べログ・一休.comから予約可能だ。居酒屋系(ろっくうぇるず)は比較的ウォークインが通りやすい。
ジビエ特有の安全性について
ジビエ(野生鳥獣の肉)は家畜肉とは異なり、E型肝炎ウイルスや食中毒リスクに注意が必要だ。農林水産省は「国産ジビエ認証制度」を設け、衛生管理が整ったと認定された施設のみが認証マークを使用できる仕組みを作っている。認証施設で処理されたジビエは-20℃以下での冷凍処理・中心温度75℃以上での加熱を経ており、適切に扱われたものは安全性が担保されている。
「ジビエは食べたことがないから不安」という方は、まず認証店・信頼できるレストランで始めることをおすすめする。この記事で紹介した店舗はいずれも衛生管理に配慮した仕入れ先を使用している。
詳しくはジビエの寄生虫・安全性に関する完全ガイドも参照してほしい。
価格の目安とコスパ
ジビエ料理は食材の調達コスト(捕獲・解体・輸送・衛生管理)が一般の食肉より高いため、価格も高めになる。ただし「高い=マズい」は完全な誤解で、ジビエの価格は流通コストの反映だ。自分の予算に合わせてスタイルを選ぶのがコツ。
- 3,000円以下:居酒屋アラカルト(ろっくうぇるず等)でジビエ1品を試す
- 5,000〜8,000円:ビストロランチ・ディナーでコース体験
- 10,000円以上:本格フレンチ・イタリアンのジビエフルコース体験
ジビエの通販:横浜に来られない方へ
「レストランに行けないが自宅でもジビエを試したい」という方には、ジビエ通販おすすめランキングも選択肢のひとつだ。北海道産エゾシカ・兵庫丹波産イノシシなど全国のジビエが自宅に届く。
FAQよくある質問
Q1. 横浜でジビエを食べられるお店は何軒ほどありますか?
食べログやジビエポータルサイト「ジビエト」に登録された神奈川県内のジビエ料理店は2026年時点で10店舗以上確認できる。そのうち横浜市内(関内・野毛・元町・横浜駅周辺)に絞ると主要店が複数存在する。
Q2. 子どもでもジビエは食べられますか?
ジビエは適切に調理されていれば子どもでも食べられる。ただし「野性味のある独特の風味」がある食材のため、初めての場合はクセが少ないエゾシカのローストや、ミートソース仕立てのパスタから試すのが入りやすい。アレルギーは牛・豚・鶏とは異なるタンパク質なので、既知の食肉アレルギーとは別に確認が必要。
Q3. 横浜でジビエが食べられる通年営業の店はありますか?
Osteria Austro(馬車道)・ろっくうぇるず(横浜駅周辺)は通年でジビエを提供している。エゾシカは年間流通しているため、季節を問わずジビエ料理が楽しめる。ただし冬季(11〜2月)は国産旬ジビエが加わり選択肢が増える。
Q4. 神奈川県産のジビエを食べられる店はありますか?
「丹沢ジビエ」ブランドの普及に伴い、秦野市産のシカ肉・イノシシ肉を使ったメニューを開発している横浜の飲食店が出てきている。最新情報はジビエポータルサイト「ジビエト」(gibierto.jp)の神奈川県ページで確認できる。
Q5. ジビエは体に良いですか?
ジビエ(特に鹿肉)は、牛肉・豚肉と比べて低カロリー・低脂肪・高タンパクという特性を持つ。鉄分・亜鉛なども豊富で、ダイエット中や健康志向の方に注目されている食材だ。ただし寄生虫リスクがあるため、必ず十分に加熱(中心温度75℃以上)してから食べることが前提となる。
Q6. ジビエを横浜で楽しむならどの季節がおすすめですか?
冬(11月下旬〜2月)が最もおすすめで、国産の旬ジビエ(丹波猪・丹沢シカ等)とエゾシカが揃う最盛期だ。ただし前述のとおり通年で楽しめるため、思い立ったときに訪れるのも良い。夏(6〜8月)は鴨やジビエの加工品(ソーセージ・テリーヌ)が多くなる傾向がある。
Q7. ジビエ体験(狩猟・解体体験)は横浜近くでできますか?
横浜から車で1〜2時間圏内の山梨県・長野県・神奈川県内(丹沢・西丹沢エリア)で狩猟・ジビエ解体体験を提供するツアーが存在する。食べるだけでなく「作る側」を体験したい方はジビエ体験・狩猟ツアーガイドを参照してほしい。
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まとめ:開港の街・横浜が育てる新しいジビエ文化
横浜のジビエシーンは今、大きな転換点にある。
北海道産エゾシカを中心としたこれまでの「輸入ジビエ」から、地元・神奈川県(丹沢・秦野)産の食材を活かす「地産地消ジビエ」へのシフトが始まっているのだ。この動きは秦野市のジビエまちおこし事業、横浜の飲食店が地元食材に注目する潮流として着実に広がっている。
- 本格ジビエコースを楽しみたい→Osteria Austro(馬車道)か Restaurant EISUKE(元町・石川町)
- ハンターシェフの料理体験を→Bistro AMI(野毛)
- まず気軽にジビエを試したい→ろっくうぇるず ハマ横丁(横浜駅)
1859年の開港以来、世界の食文化を受け入れてきた横浜が今、日本の山野に息づく食文化「ジビエ」を新しい形で発信しようとしている。ジビエを通じて自然・狩猟・食の連鎖を感じるとき、港町・横浜の食体験はまた一段と深みを増すはずだ。
参考情報
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」(e-Stat 統計表ID: 0002119971)
- 農林水産省「国産ジビエ認証制度」公式ページ(maff.go.jp)
- ジビエポータルサイト「ジビエト」神奈川県ページ(gibierto.jp/gnkanagawa/)
- タウンニュース秦野版「丹沢ジビエ 新たに3商品 資源生かし、地域活性を」2025年3月21日
- ABEMA NEWS「ジビエで町おこし 駆除したシカ、イノシシは「財産」 神奈川・秦野市」2026年7月27日
- Osteria Austro 公式サイト(austro.jp)
- Restaurant EISUKE 公式サイト(restauranteisuke.com)


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