最終更新: 2026-10-07
結論から言うと、イノシシやシカの獣害が各地で捕獲を続けても減らないのは「捕獲のペースが繁殖のペースに追いついていない」ことが最大の要因です。イノシシは1年に4〜5頭の子を産む高い繁殖力を持ち、生息数の7割以上を毎年捕獲し続けなければ個体数は減少に転じません。さらに里山の過疎・高齢化による生息域の拡大、ドングリなどのエサ不足、電気柵の管理不足といった要因が重なり、捕獲努力と被害の減少が一致しにくい構造になっています。この記事では、獣害対策を専門とする長岡技術科学大学・山本麻希准教授の解説と農林水産省・環境省の公的データを基に、獣害が減らない具体的な理由を整理します。
イノシシの繁殖力と「捕獲7割の壁」

獣害対策を専門とする長岡技術科学大学の山本麻希准教授は、イノシシの捕獲について次のように指摘しています。
> イノシシは、1年に4、5頭は子供を産みますから、生息数の7割以上獲らないと減らない。1年でも捕獲の手を緩めたらまた増えてしまう。
出典: 長岡市地域連携プラットフォーム「獣害対策の専門家・山本麻希先生に聞く、人間と野生動物の『共存』の可能性」(確認日: 2026-10-07)
つまり、ある年に大量に捕獲しても、翌年に捕獲量を減らせば個体数はすぐにリバウンドします。地域の猟友会や自治体が「今年は捕獲数が多かったから対策は順調」と判断しても、翌年以降も同じペースで捕獲を継続しなければ被害は再び増加に転じるというのが、イノシシの繁殖生態からみた構造的な難しさです。
環境省の推定(令和6年4月更新)では、全国のイノシシ生息数は約64万頭とされています。国は指定管理鳥獣捕獲等事業を通じて早期の生息数半減とその後の捕獲圧維持を目標としていますが、これは山本准教授が指摘する「7割の壁」を継続的に超える捕獲が必要であることの裏付けでもあります。制度の詳細は指定管理鳥獣捕獲等事業とはで解説しています。
新潟県の被害実態|水稲被害の94%はイノシシの「ぬたうち」

山本准教授が拠点とする新潟県では、イノシシによる農業被害の94%を水稲被害が占めています。特に深刻なのが「ぬたうち」と呼ばれる泥浴び行動で、体重120kgにもなる個体が家族で水田に入り込み転げ回ることで、一晩のうちに1反(約1,000平方メートル)分の稲がだめになることもあるといいます。
> 一晩で1反分くらいがあっという間にダメになってしまう。
出典: 長岡市地域連携プラットフォーム「獣害対策の専門家・山本麻希先生に聞く」(確認日: 2026-10-07)
同准教授によると、新潟県のイノシシによる農業被害額は年間およそ3,000万円、多い年には4,000万円を超えるといいます。電気柵や箱罠の設置コストだけでなく、収穫直前の稲が一夜で失われるという被害の「見えにくさ」も、対策の優先度が上がりにくい一因です。電気柵の設置費用の目安は電気柵の設置費用はいくら?、水田以外の農業被害全体の対策はイノシシ被害の農業対策完全ガイドで詳しく整理しています。
シカは「移動距離」が捕獲効率を左右する

イノシシとシカでは、効果的な捕獲のアプローチが異なります。山本准教授は、シカについて次のように説明しています。
> シカは冬に40km以上移動するので、エリアを広く見て越冬地で捕獲しないと効率が悪い。
出典: 長岡市地域連携プラットフォーム「獣害対策の専門家・山本麻希先生に聞く」(確認日: 2026-10-07)
農地の周辺だけで捕獲を行っても、シカは季節によって生息エリアを大きく移動するため、被害が出ている場所と捕獲に適した場所が一致しないことがあります。山本准教授は「データに基づいた捕獲をしていかないと、動物の数って全然減らない」と述べ、動物の生態(移動パターンや繁殖サイクル)を踏まえた捕獲計画の重要性を強調しています。シカの食害対策そのものについては鹿の食害を防ぐ柵の費用で解説しています。
里山の荒廃と「通り道」化|クマの出没増加とも共通する構造

イノシシ・シカに共通する背景として、中山間地域の過疎・高齢化による里山の荒廃が挙げられます。耕作放棄地や手入れされない林が増えることで、奥山と人の生活圏をつなぐ「通り道」が生まれ、野生動物が生活圏の近くまで出てきやすくなっています。
この構造は、近年問題になっているクマの市街地出没とも共通しています。クマの出没が増える背景には、個体数自体の増加に加えて、ドングリなど山中のエサの豊凶、里山の荒廃による生活圏の接触機会の増加があるとされており、今秋の出没傾向はクマ出没2026年秋の予測で詳しく解説しています。つまり「獣害が減らない」という課題は、対象となる鳥獣の種類が違っても、個体数管理と生息地管理の両方が必要という点で根本的な構造を共有しています。
電気柵は「設置して終わり」では機能しない

防除面で山本准教授が最も効果が高いとするのは電気柵ですが、条件付きです。
> 2週間に1回は草刈りをしないと機能しない。
出典: 長岡市地域連携プラットフォーム「獣害対策の専門家・山本麻希先生に聞く」(確認日: 2026-10-07)
電気柵は雑草が繁茂して電線に触れると漏電し、本来の効果を発揮できなくなります。設置費用をかけて導入しても、定期的な草刈りというメンテナンスコストを見込んでいない場合、実質的に機能しない柵になってしまうケースがあるということです。設置費用と維持管理の両方を踏まえた比較は電気柵の設置費用はいくら?を参考にしてください。
捕獲の担い手をどう増やすか
捕獲圧を維持し続けるには、捕獲を担う人材そのものを増やす必要があります。山本准教授は一般社団法人「ふるさとけものネットワーク」を立ち上げ、人材育成に取り組んでいます。
> 毎年、全国の農学部出身のエースやふるさと協力隊などの若者達が100人以上集まってくれる。
出典: 長岡市地域連携プラットフォーム「獣害対策の専門家・山本麻希先生に聞く」(確認日: 2026-10-07)
猟師の担い手不足そのものへの国・自治体の支援制度や個人でできる対策は、狩猟の担い手不足を解決する8つの対策で整理しています。捕獲技術を持つ人材を継続的に確保できるかどうかが、「7割の壁」を毎年超え続けられるかの実質的な分かれ目になっています。
よくある質問
Q1: イノシシをたくさん捕獲した年の翌年は対策を減らしてもいいですか?
山本准教授の指摘どおり、イノシシは1年に4〜5頭を産む高い繁殖力を持つため、1年でも捕獲の手を緩めると生息数はすぐに増加に転じます。捕獲量が多かった年の翌年も同程度の捕獲を継続することが前提になります。
Q2: 電気柵を設置すれば獣害対策は終わりですか?
設置だけでは不十分です。山本准教授によると、2週間に1回程度の草刈りを怠ると漏電により効果が失われます。設置後の定期的なメンテナンス計画まで含めて検討する必要があります。
Q3: シカとイノシシで対策の考え方は同じですか?
異なります。イノシシは繁殖力の高さに応じた捕獲率の維持が中心的な課題である一方、シカは冬季に40km以上移動することがあるため、被害地点だけでなく越冬地を含めた広域での捕獲計画が効率を左右します。
まとめ:獣害が減らないのは「対策不足」より「構造の問題」
- イノシシは1年に4〜5頭を産む高い繁殖力を持ち、生息数の7割以上を毎年捕獲しなければ個体数は減らない
- 新潟県ではイノシシの「ぬたうち」による水稲被害が深刻で、年間被害額は3,000万〜4,000万円超
- シカは冬季に40km以上移動するため、被害地点ではなく越冬地での広域捕獲が効率を左右する
- 里山の荒廃による「通り道」化は、イノシシ・シカだけでなくクマの出没増加にも共通する背景
- 電気柵は2週間に1回程度の草刈りなど継続的なメンテナンスがなければ機能しない
- 捕獲圧を維持し続けるための人材育成(捕獲の担い手確保)が実質的な課題になっている
獣害対策は「一度捕獲や柵を導入すれば解決する」ものではなく、動物の生態に応じた捕獲率・エリアの維持と、人材・メンテナンスという継続的な体制づくりがセットで必要になります。地域の対策を検討する際は、指定管理鳥獣捕獲等事業とはや狩猟の担い手不足を解決する8つの対策も参考に、継続可能な体制を組むことが重要です。
農林水産省・環境省の公式統計に基づく捕獲数・被害額の推移は狩猟・ジビエ業界の統計まとめでも定期更新しています。
この記事は猟人編集部が執筆しました。猟人 -KARIUDO- は猟師・ジビエ業界に特化した専門メディアです。
参考情報
- 長岡市地域連携プラットフォーム「獣害対策の専門家・山本麻希先生に聞く、人間と野生動物の『共存』の可能性」https://na-nagaoka.jp/archives/13648(確認日: 2026-10-07)
- 環境省「シカ・イノシシの捕獲強化対策と捕獲目標について」(令和5年9月1日)https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort9/kyouka_taisaku.pdf(確認日: 2026-10-07、令和6年4月更新の生息数推定を参照)
- 環境省「指定管理鳥獣捕獲等事業」https://www.env.go.jp/nature/choju/reinforce/index.html(確認日: 2026-10-07)


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