最終更新: 2026-05-01
農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、ジビエ食肉処理施設への搬入重量はシカが全体の79.3%、イノシシが20.7%を占めています(出典: e-Stat 統計表ID: 0002119971)。これほど多くの鳥獣が捕獲されるなかで、箱罠や囲い罠で成果を左右するのが「餌(エサ)の選び方」です。
「箱罠に餌を入れたのに全然かからない」「くくり罠でも餌を使う方法があるらしいけど、何を使えばいいの?」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この記事では、罠猟で使うおすすめの餌を獣種別・罠の種類別に比較し、季節ごとの使い分けからコストまで徹底解説します。まず餌選びの基本を押さえ、次に獣種別のおすすめ餌を紹介し、最後に現場で役立つ餌付けテクニックまでお伝えします。
罠猟の餌の選び方:失敗しない3つの基準
罠猟の餌を選ぶ際、闇雲に食べ物を置いても成果にはつながりません。以下の3つの基準を押さえておくことで、捕獲率を大きく上げることができます。
| 選ぶ基準 | チェックポイント |
|---|---|
| 対象獣種の食性に合っているか | イノシシは雑食性で穀類・根菜を好む。シカは草食性で牧草・樹皮を好む。対象に合わない餌は効果が薄い |
| 季節・地域の条件に適しているか | 周辺の農作物、季節ごとの嗜好変化、クマの誘引リスクなどを考慮する |
| 入手しやすさとコストのバランス | 長期間の餌付けが必要なため、安価で安定して手に入る餌が望ましい |
特に注意すべきは、ターゲット以外の動物を誘引してしまうリスクです。甘い果実や香りの強い餌はクマを引き寄せる可能性があるため、ツキノワグマの生息域では使用を控えましょう。
罠猟の餌おすすめ一覧|獣種別・罠別の徹底比較表
罠猟で使う餌は、対象とする獣種と罠の種類によって最適なものが異なります。以下の比較表を参考に、自分の猟場や対象獣種に合った餌を選んでみてください。
| 餌の種類 | イノシシ(箱罠) | シカ(箱罠) | くくり罠(誘引用) | 入手コスト | 保存性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 米ぬか | 最適 | やや有効 | 有効 | ほぼ無料(精米所) | 低い(湿気に弱い) |
| トウモロコシ(配合飼料) | 有効 | やや有効 | 有効 | 1,000〜2,000円/20kg | 高い |
| サツマイモ | 有効 | やや有効 | やや有効 | 200〜400円/kg | 低い(腐りやすい) |
| ヘイキューブ(圧縮牧草) | やや有効 | 最適 | やや有効 | 800〜1,500円/20kg | 高い |
| 米・古米 | 有効 | やや有効 | 有効 | 無料〜500円/kg | 高い |
| リンゴ・柿 | 有効 | 有効 | やや有効 | 季節による | 低い |
| 酒粕 | 有効 | やや有効 | やや有効 | 200〜500円/kg | 中程度 |
| おから | 有効 | 不向き | やや有効 | 無料〜100円/kg | 低い |
この表でわかるとおり、イノシシには米ぬか、シカにはヘイキューブが「鉄板」の餌です。ただし、地域によってイノシシが農作物の味を覚えている場合は、被害の多い作物を使うのも効果的です。
【イノシシ向け】箱罠で実績の高いおすすめ餌ベスト5
イノシシは雑食性で嗅覚が鋭く、特に穀類や根菜類の甘い香りに強く反応します。箱罠でイノシシを狙う場合に実績の高い餌を、おすすめ順に紹介します。
第1位:米ぬか|コスト0円の最強餌
米ぬかは全国の猟師が最も多く使用している箱罠用の餌です。コイン精米所や農協で無料、もしくは格安で手に入る点が最大の強みです。
イノシシは米ぬかの香りに非常に強く反応し、特に炒って香りを立てた「炒りぬか」にすると誘引力がさらに高まります。地面にまくと雨で流れるため、バケツや袋に入れて設置すると長持ちします。
ただし、夏場は湿気で固まりやすく、カビも生えやすいという欠点があります。2〜3日おきに交換するのが理想的です。
第2位:配合飼料(トウモロコシ主体)|安定した誘引力
農業資材店やホームセンターで購入できる家畜用の配合飼料は、トウモロコシを主体としたもので、イノシシの誘引に安定した効果を発揮します。20kgで1,000〜2,000円程度(2026年5月時点)で購入可能です。
米ぬかと比べて保存性が高く、まとめ買いしておける点がメリットです。米ぬかと混ぜて使うと、コストを抑えながら誘引力を高められます。
第3位:サツマイモ|秋冬の強力な誘引剤
サツマイモはイノシシが好む根菜の代表格です。特に秋から冬にかけて効果が高く、茹でてから設置すると甘い香りが広がり、誘引力が増します。
農家から規格外品を安く譲ってもらえることもあるため、地域のつながりを活かして調達するとコストを抑えられます。ただし、腐りやすいため3〜5日以内に交換が必要です。
第4位:酒粕|発酵の香りでイノシシを引き寄せる
酒蔵が多い地域では酒粕を活用する猟師もいます。発酵した独特の香りがイノシシを引き寄せ、米ぬかに練り込んで使う方法が一般的です。
日本酒の生産が盛んな地域(新潟、秋田、兵庫など)では安価に手に入りますが、それ以外の地域では入手性にばらつきがあります。
第5位:古米・くず米|余った米の有効活用
古くなった米やくず米は、そのまままくだけでイノシシを誘引できます。農家が処分に困っている古米を譲り受けるケースも多く、コストをゼロに抑えられます。
保存性が高く、長期間の餌付けに向いている点もメリットです。ただし、米ぬかやトウモロコシと比較すると香りが弱いため、他の餌と併用するのがおすすめです。
【シカ向け】箱罠で効果的なおすすめ餌
シカは完全な草食動物であり、イノシシ向けの穀類ではあまり反応しません。シカを対象とする場合は、以下の餌が効果的です。
| 餌の種類 | 効果 | 入手先 | 費用目安(2026年時点) |
|---|---|---|---|
| ヘイキューブ | 最も効果的 | 農業資材店・ネット通販 | 800〜1,500円/20kg |
| 固形塩(鹿塩) | 補助的に有効 | 狩猟用品店 | 500〜1,000円/個 |
| 被害農作物 | 地域により有効 | 地元農家から調達 | 無料〜格安 |
ヘイキューブは牧草を高圧縮した固形飼料で、シカの主食である草本類に近い成分を含んでいます。兵庫県森林動物研究センターの研究でも、シカの箱罠捕獲にはヘイキューブが推奨されています(2025年時点)。
固形塩(いわゆる「鹿塩」)はミネラル補給の習性を利用したもので、餌というよりも集鹿材として使います。ただし、罠の金属部分が錆びやすくなるため、直接罠に触れないよう設置場所を工夫しましょう。
ここで注意したいのは、シカとイノシシの両方が出没する地域での餌選びです。米ぬかはイノシシだけでなくシカも寄ってくることがありますが、シカの捕獲率はヘイキューブに劣ります。両方を捕獲したい場合は、米ぬかとヘイキューブを混合して使う方法もあります。
くくり罠でも餌が使える|小林式誘引捕獲とは
一般的にくくり罠の設置では餌を使いません。獣道に仕掛けて、動物が自然に通過するのを待つのが基本です。しかし近年、餌を使ってくくり罠の捕獲率を高める「小林式誘引捕獲」という手法が注目されています。
小林式誘引捕獲は、林野庁近畿中国森林管理局の小林氏が考案した方法で、以下の特徴があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用する餌 | 米ぬか・古米など |
| 必要な道具 | くくり罠、餌、小石 |
| 仕組み | 餌で動物を誘引し、くくり罠の踏み板付近に足を踏み入れさせる |
| メリット | 獣道の特定が不要。初心者でも捕獲率が上がる |
| デメリット | 餌の補充が必要。対象外の動物がかかるリスクがある |
従来のくくり罠猟は獣道の読みが必要で、経験が浅いうちは空振りが続くことも珍しくありません。小林式では餌で動物の足を特定の場所に誘導するため、初心者でも成果を出しやすい手法として各地で導入が進んでいます。
実績も出ています。林野庁の発表によると、2022年度に近畿中国森林管理局管内の国有林で捕獲されたシカ1,684頭のうち、約半数の827頭が小林式誘引捕獲によるものでした(林野庁近畿中国森林管理局、2022年度実績)。特にイノシシの有害鳥獣駆除で活用するケースが増えており、箱罠の自作と併用する猟師も少なくありません。
季節別おすすめ餌マップ|時期で変わるベストな餌選び
罠猟の餌選びで見落とされがちなのが、季節による嗜好の変化です。動物の食性は季節によって変動するため、同じ餌を年間通して使い続けるよりも、季節に応じて変えたほうが捕獲率は上がります。
| 季節 | イノシシにおすすめの餌 | シカにおすすめの餌 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 春(3〜5月) | 米ぬか、タケノコ | ヘイキューブ、新芽 | 冬場の食料不足から回復期。何でもよく食べる |
| 夏(6〜8月) | 配合飼料、トウモロコシ | ヘイキューブ | 自然界に食料が豊富。腐りにくい餌を選ぶ |
| 秋(9〜11月) | サツマイモ、柿、米ぬか | ヘイキューブ、ドングリ | 冬に備えて食いだめ。果実類への反応が高い |
| 冬(12〜2月) | 米ぬか+酒粕、配合飼料 | ヘイキューブ+固形塩 | 食料が乏しい時期。餌への反応が最も高い |
春から初夏(まさに今の時期)は、冬場の食料不足で飢えた動物たちが活発に動き出す季節です。この時期はどんな餌でも反応しやすく、罠猟の入門には最適なタイミングといえます。
一方で夏場は注意が必要です。自然界に食料が豊富になるため罠の餌への反応が鈍くなるうえ、餌が腐敗しやすくなります。夏場は保存性の高い配合飼料やヘイキューブを中心に据え、交換頻度を上げましょう。
餌のコスト比較|年間どのくらいかかるのか
罠猟は銃猟と比べてランニングコストが低いとされますが、餌代は見落とされがちな出費です。ここでは、1基の箱罠を年間運用した場合の餌コストを試算します。
| 餌の種類 | 1日あたりの使用量 | 単価(2026年時点) | 月間コスト | 年間コスト |
|---|---|---|---|---|
| 米ぬか | 約500g | 無料(精米所) | 0円 | 0円 |
| 配合飼料 | 約500g | 約5円/100g | 約750円 | 約9,000円 |
| ヘイキューブ | 約500g | 約6円/100g | 約900円 | 約10,800円 |
| サツマイモ | 約300g | 約30円/100g | 約2,700円 | 約32,400円 |
米ぬかの圧倒的なコストパフォーマンスがよくわかります。精米所やコイン精米機で無料、もしくは数十円で手に入るため、資金に余裕がない初心者には特におすすめです。
ただしコストだけで判断するのは禁物です。シカを対象とする場合は米ぬかよりヘイキューブのほうが捕獲率が高く、結果として「1頭あたりの餌代」は安くなることもあります。
なお、有害鳥獣駆除の報奨金を活用すれば、餌代を大幅に回収できます。イノシシやシカの場合、1頭あたり数千円〜数万円の報奨金が支給される自治体が多く、年間の餌代を上回る収入になる可能性もあります。
餌付けの実践テクニック|捕獲率を上げるコツ
罠猟で最も重要なのは、いきなり罠の中に餌を置かないことです。動物は警戒心が強く、見慣れない構造物にすぐには近づきません。段階的な餌付けが捕獲の成否を分けます。
Step 1:罠の周辺(半径5〜10m)にまく
まず箱罠の周囲5〜10mの範囲に、少量の餌を点々とまきます。罠から離れた場所から始め、動物が通る道筋を想定して配置します。この段階では罠の扉は固定し、作動しないようにしておきます。
Step 2:罠の入口付近に集中させる
数日後、周囲の餌が食べられていれば、罠の入口付近に餌を集中させます。まだ罠の中には入れず、入口の手前に「ここまで来れば安全だ」と学習させます。
Step 3:罠の奥に移動し、トリガーを設定
入口付近の餌を安心して食べるようになったら、いよいよ罠の奥に餌を移動させます。このタイミングでトリガー(引き金)を作動可能にします。
現場の経験則として、餌付けから捕獲までの期間は最短で1週間、長い場合は1か月以上かかることもあります。「餌を置いて3日で捕れる」という期待は持たないほうが精神的に楽です。特にイノシシは非常に警戒心が強く、何度も様子を見てから罠に入る傾向があります。
わな猟免許を取得したばかりの初心者は、最初の1頭がかかるまでに時間がかかるものです。焦らず、餌の消費状況をトレイルカメラ等で観察しながら、じっくり取り組みましょう。
餌付けでよくある失敗と対策
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 餌を大量に置きすぎる | 罠の外で満腹になり中に入らない | 1日で食べきれる量(500g程度)に抑える |
| 毎日同じ時間に餌を補充する | 人間の行動パターンを学習される | 補充時間をランダムにする |
| 罠の周囲に足跡・においを残す | 人間の気配で警戒される | 長靴を履き、手袋を着用する |
| 雨の日に餌を放置する | 米ぬかが固まり、香りが飛ぶ | 防水カバーを被せるか、雨天前に回収する |
| ターゲット以外の動物が食べる | 不特定多数の動物を誘引している | 餌の種類を変える、トレイルカメラで確認する |
注意すべき法的ルール|餌の使用と鳥獣保護法
罠猟で餌を使用する際は、鳥獣保護管理法(鳥獣保護法)のルールを必ず守りましょう。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| わな猟免許 | 箱罠・くくり罠ともに「わな猟免許」が必要(2026年5月時点) |
| 狩猟者登録 | 猟期中に使用する場合は都道府県への狩猟者登録が必要 |
| 有害鳥獣駆除 | 猟期外の使用は市区町村の許可が必要 |
| 毒餌の禁止 | 毒物を混入した餌の使用は法律で禁止されている |
| 錯誤捕獲 | ターゲット以外の動物が罠にかかった場合は速やかに放獣する義務がある |
特に重要なのは、猟期外(多くの地域で2月16日〜10月31日)に罠を使用する場合です。この期間に罠猟を行うためには、イノシシ被害対策の一環として市区町村から有害鳥獣駆除の許可を受ける必要があります。無許可での使用は鳥獣保護法違反となりますので、注意してください。
よくある質問
Q1: 箱罠の餌は毎日交換する必要がありますか?
餌の種類によります。米ぬかやサツマイモなど腐りやすいものは2〜3日ごとの交換が推奨されます。配合飼料やヘイキューブは保存性が高いため、1週間程度は問題ありません。ただし夏場は傷みが早いため、どの餌でも3日以内の交換を心がけましょう。
Q2: くくり罠に餌を使うのは違法ですか?
違法ではありません。くくり罠と餌を組み合わせた「誘引捕獲」は合法的な猟法として認められています。林野庁の管轄下でも小林式誘引捕獲が推奨されている事例があります(2025年時点)。ただし、わな猟免許と狩猟者登録(または有害鳥獣駆除許可)は必要です。
Q3: クマが出る地域ではどんな餌を避けるべきですか?
甘い香りの強い果実類(リンゴ、柿、サツマイモなど)はツキノワグマを誘引するリスクがあるため避けましょう。米ぬかやヘイキューブは比較的クマの誘引リスクが低いとされています。クマの生息地域では、餌の管理を徹底し、トレイルカメラでクマの出没がないか確認することをおすすめします。
Q4: 餌代を節約する方法はありますか?
最もコストを抑えられるのは、精米所やコイン精米機から無料で手に入る米ぬかの活用です。また、地元農家から規格外野菜やくず米を譲ってもらう方法もあります。猟友会の仲間と餌を共同購入すればまとめ買い割引を受けられることもあります。有害鳥獣駆除の報奨金で餌代を回収する考え方も重要です。
Q5: トレイルカメラは必要ですか?
必須ではありませんが、あると捕獲率が大幅に上がります。餌をどの動物がいつ食べているかを映像で確認でき、餌の種類や量の調整、罠の作動タイミングの判断に役立ちます。近年は5,000〜15,000円程度の手頃な製品も増えており、導入のハードルは下がっています。
Q6: 複数の罠に同時に餌を入れて運用するコツはありますか?
箱罠を複数基運用する場合は、餌の種類を変えてみるのが効果的です。1基は米ぬか、もう1基は配合飼料というように使い分けることで、地域の動物がどの餌に反応するかを同時にテストできます。また、罠の間隔は最低でも100m以上空けることで、餌の香りが干渉しないようにしましょう。
まとめ:罠猟の餌選びで迷ったら
罠猟で使う餌選びのポイントをまとめます。
- イノシシを箱罠で捕獲するなら、まずは無料で手に入る米ぬかから始めるのが最善
- シカを対象にする場合は、ヘイキューブを主体に据えると捕獲率が安定する
- くくり罠でも小林式誘引捕獲で餌を活用すれば、初心者でも捕獲のチャンスが広がる
- 季節によって餌の効果は変わるため、春秋は多品種、夏冬は保存性重視で選ぶ
- 餌付けは焦らず段階的に。最低1週間は罠の作動をさせず、動物の警戒心を解く
これから罠猟を始める方は、まずわな猟免許の取得からスタートしましょう。免許取得後、くくり罠の設置方法や箱罠の自作ガイドも併せて確認すると、スムーズに猟を始められます。
狩猟・ジビエ業界の最新データは狩猟・ジビエ業界の統計まとめで定期更新しています。
参考情報
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」(e-Stat 統計表ID: 0002119971)
- 林野庁 近畿中国森林管理局「小林式誘引捕獲について」(https://www.rinya.maff.go.jp/kinki/policy/business/sodateyou/attach/kobayashisiki.html)
- 兵庫県森林動物研究センター「箱わなによるシカ・イノシシの効率的な捕獲」(https://www.wmi-hyogo.jp/pdf/measures/capture02.pdf)
- 茨城県生活環境部環境政策課「箱わなによるイノシシ捕獲マニュアル」(https://www.pref.ibaraki.jp/seikatsukankyo/kansei/chojyuhogo/documents/inoshishi_hokaku.pdf)
- 大日本猟友会「狩猟免許の取得」(http://j-hunters.com/tobecome/license.php)

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