狩猟の担い手不足を解決する8つの対策|国の支援・研修制度から個人ができることまで完全ガイド

狩猟の担い手不足を解決する8つの対策|国の支援・研修制度から個人ができることまで完全ガイド 猟師の暮らし

最終更新: 2026-09-06

2026年9月5日、岩手県矢巾町で「野生鳥獣捕獲の担い手確保研修会」が開催された。模擬銃やわなに実際に触れながら狩猟の現場を体験できるこの研修会は、年々深刻化する「狩猟の担い手不足」に対する自治体の危機感を象徴している。全国各地でクマ・シカ・イノシシによる農業被害が拡大し続ける一方、猟師の数は高齢化と後継者不足によって急速に減少している。

農水省の令和4年度データによると、野生鳥獣による農作物被害額は全国で156億円にのぼる。しかし、その被害を食い止めるべき狩猟者数は約11万人(令和4年度・環境省)にとどまり、しかも担い手の高齢化が顕著だ。このままでは獣害対策の担い手が消えてしまう——そんな危機感から、国・自治体・民間が一体となった「担い手確保策」が急ピッチで進んでいる。

この記事では、狩猟の担い手不足が深刻化している背景を数字で明確にしながら、国・自治体が打ち出す具体的な対策、そして「自分が担い手になりたい」と考える人が取れる行動ステップを完全解説する。

なぜ今、狩猟の担い手不足が深刻なのか?現状データで読み解く

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狩猟者数の推移:ピーク時の10分の1以下

環境省の統計によると、狩猟者数は1975年(昭和50年)のピーク時に約51万8,000人を記録していた。それが令和4年度(2022年度)には約11万人まで減少。わずか50年で約80%が失われた計算になる。

年度 狩猟登録者数 前回比
1975年(ピーク) 約518,000人
1990年 約370,000人 -28.6%
2000年 約220,000人 -40.5%
2010年 約160,000人 -27.3%
2020年 約120,000人 -25.0%
2022年(令和4年度) 約110,000人 -8.3%

さらに問題なのは「年齢構成」だ。狩猟者の高齢化が著しく、60歳以上が全体の約6割を占めるとされる。10年後には実質的な猟師が半減するとの試算もある。

農業被害額は増加し続けている

担い手が減るなか、野生鳥獣による農業被害は増加の一途をたどっている。農水省の令和4年度調査では全国の被害額は156億円で、シカによる被害だけで約70億円、イノシシで約45億円を占める。北海道ではエゾシカ、本州ではニホンジカ・イノシシ・ニホンザル、九州ではイノシシの被害が特に深刻だ。

「捕獲してほしい動物はいる。しかし捕獲する人間がいない」——この矛盾が全国各地で起きている。岩手県矢巾町のような自治体が独自に研修会を開くのも、この矛盾を打開するための緊急措置といえる。

担い手不足が招く悪循環

狩猟の担い手不足は、単に「農業被害が増える」だけでは済まない。次のような悪循環を引き起こしている。

  • 有害鳥獣の個体数増加 → 農業被害の拡大 → 農家の離農 → 耕作放棄地の増加 → 野生動物の生息環境が拡大 → さらなる個体数増加

また、人身被害のリスクも高まっている。近年では市街地にクマが出没するニュースが急増しており、2025年には全国各地でクマによる人身被害が相次いだ。2026年には東京都が約20年ぶりにクマ狩猟の解禁を検討(2027年度・11月〜2月・多摩地域対象)するなど、都市近郊でも担い手確保が急務となっている。

国・自治体が打ち出す担い手確保の主要対策【2026年最新版】

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対策1:緊急銃猟制度の導入(2025年9月施行)

2025年9月に施行された「緊急銃猟制度」は、担い手不足問題に対する国の直接的な回答だ。農業被害や人身被害が深刻な地域では、猟期外でも緊急的に有害鳥獣の捕獲が可能になる規制緩和が認められた。

この制度の背景には、猟期が年間約3か月(11月15日〜2月15日)に限られていた従来の枠組みでは、夏場に農業被害を受けても打つ手がないという問題がある。緊急銃猟制度によって、実質的な「通年対応」に近い体制が整備されつつある。

対策2:ガバメントハンター(公的猟師)制度の整備

自治体が猟師を直接雇用する「ガバメントハンター」制度も注目を集めている。FNN報道(2026年)によると、秋田県では25市町村中3自治体のみが採用しているが、6割の自治体は採用の意向がない状態だ。しかし全国的には導入の動きが広がっており、長野県小諸市が2011年に全国先駆けで制度化して以降、各地に波及している。

採用条件は基本的に以下のとおり:

項目 一般的な要件
必要免許 第一種銃猟免許(必須)
運転免許 普通自動車免許(必須)
実猟経験 概ね3〜5年以上が目安
雇用形態 正職員または会計年度任用職員
給与水準 月額22〜30万円(自治体による)

ガバメントハンターは安定した収入で狩猟ができる点が魅力だ。詳しくは「ガバメントハンターとは?仕事内容・採用条件・給与を徹底解説」をあわせて参照してほしい。

対策3:鳥獣被害防止総合対策交付金による人材育成支援

農林水産省が年間約99億円規模で実施している「鳥獣被害防止総合対策交付金」は、担い手育成にも活用できる。市町村が策定する被害防止計画に基づき、新規狩猟者の育成・研修プログラムへの助成が認められている。

岩手・矢巾町の研修会のように、自治体が主催する「担い手確保研修会」の運営費もこの交付金で賄われるケースが多い。研修の内容はわなの設置体験・法制度の解説・解体実習など、入門者が最初につまずくポイントを丁寧にカバーするプログラムが増えている。

対策4:地域おこし協力隊との連携

「猟師になりたいが生活費が不安」という人に活用できるのが地域おこし協力隊制度だ。総務省が運営するこの制度では、都市部から地方に移住して猟師として活動する場合、月額16〜23万円の活動費が3年間支給される。

実際に、長野県麻績村では2026年8月に元ITエンジニア(42歳)が地域おこし協力隊として狩猟班に加入したことが信濃毎日新聞で報じられた。都市での経験を活かしながら猟師に転身するケースが増えており、制度の活用事例が全国に広がっている。

具体的な研修会・育成プログラム一覧(全国の取り組み事例)

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担い手確保のための研修会・育成プログラムは、全国各地で多様な形態で実施されている。代表的な取り組みを紹介する。

岩手県矢巾町モデル(2026年9月実施)

今回ニュースになった矢巾町の研修会は、実際の捕獲現場を疑似体験できる「現場密着型」が特徴だ。模擬銃・わな・箱わななどの実物器具に触れながら、現役猟師が手ほどきを行う。座学中心の免許取得講習とは異なり、「現場のリアル」を体感できる点が参加者から高評価を得ている。

対象は狩猟免許を持っていない一般市民も含まれており、入門のハードルを極力下げた設計になっている。このような「免許取得前の体験機会」は担い手候補の発掘に効果的だ。

長野県モデル(認定制度+スクール連携)

長野県では「信州産シカ肉認証制度」と連動した捕獲者育成が進んでいる。シカ肉の品質管理から衛生管理・流通まで一貫して学べるプログラムがあり、「捕るだけでなく売れるようになる」実践的な人材育成が特徴だ。

オーベルジュ・エスポワール(茅野市)のような「ジビエを料理として提供するレストラン」と猟師をつなぐ取り組みも行われており、「猟師→食肉処理→飲食業」のサプライチェーン全体で担い手を育てる発想が広がっている。

対馬市モデル(島ジビエの担い手確保)

長崎県対馬市は農林水産省の研究対象にもなるほど、島ジビエの担い手確保で先進的な取り組みを続けている。株式会社対馬またぎや一般社団法人daidaiが中心となって、「獣害から獣財へ」を合言葉に学校給食へのジビエ採用・観光資源化を推進している。捕獲→加工→販売→食育という一連の流れが整備されており、担い手が生計を立てやすい環境づくりが進んでいる。

個人が狩猟の担い手になるための具体的ステップ

「担い手不足の問題を解決したい」「自分も猟師になりたい」と思ったとき、具体的に何から始めればいいのか。5つのステップで整理する。

ステップ1:狩猟免許の取得(最短2〜3か月)

狩猟の担い手になる第一歩は狩猟免許の取得だ。免許には4種類あるが、入門者には「わな猟免許」が最もハードルが低い。

免許種別 特徴 初期費用目安
わな猟免許 罠の設置・管理が主体。銃不要 12〜31万円(道具含む)
第一種銃猟免許 散弾銃・ライフル使用 28〜74万円以上
第二種銃猟免許 空気銃限定 20〜50万円程度
網猟免許 利用者が最も少ない希少な種別 10〜20万円程度

詳しくは「猟師になるには?完全ロードマップ【2026年版】」を参照してほしい。

ステップ2:地域の猟友会・猟師グループへの参加

免許取得後、実際の猟を学ぶには地域の猟友会や猟師グループへの参加が近道だ。全国各地に猟友会があり、会員として活動することで先輩猟師から技術・慣習・法的知識を学べる。特に「巻き狩り」のような複数人で行う猟では、グループのつながりが不可欠だ。

ステップ3:自治体の有害鳥獣駆除員への登録

猟師として一定の実績を積んだら、自治体の「鳥獣被害対策実施隊」や「有害鳥獣捕獲従事者」として登録する道がある。このルートに乗ると、猟期外の有害鳥獣捕獲活動に参加できるようになり、自治体から活動費・報奨金が支給される。

ステップ4:地域おこし協力隊制度の活用

移住を伴う場合は、前述の地域おこし協力隊制度の活用が鉄板の選択肢だ。3年間、月額最大23万円の活動費を受けながら猟師として地域に根ざす生活をスタートできる。

ステップ5:ジビエ流通・加工まで視野に入れた収入設計

長く担い手として活動するには、捕獲だけに頼らない収入設計が必要だ。農水省令和5年度のデータでは、ジビエ販売額は54億円(2016年比1.8倍)に達し、食肉売上が81.5%を占める。「捕る→適切に処理する→売る」という流れを個人でも持てれば、猟師としての収入は大きく安定する。詳しくは「猟師の年収|収入源と報奨金の実態」を参照してほしい。

担い手確保を後押しするジビエ市場の成長

担い手不足の問題を語るとき、見逃せないのがジビエ市場の成長だ。かつて「獲ってもゴミになる」と言われたシカ肉・イノシシ肉が、今や高級食材として飲食店・通販市場で引き合いが強まっている。

農水省e-Stat(0002119974)によると、令和5年度のジビエ販売額は約54億円。2016年と比べると約1.8倍の成長で、市場は拡大の一途をたどっている。

年度 ジビエ販売額 前年比
2016年 約30億円
2018年 約38億円 +26.7%
2020年 約40億円 +5.3%
2022年 約47億円 +17.5%
2023年(令和5年度) 約54億円 +14.9%

販売先の内訳を見ると、食肉(精肉・加工品)81.5%・外食産業向け27.7%・消費者直接販売13.1%と、多様な流通チャネルに広がっている。これは「捕った後の出口」が整備されてきたことを意味しており、新規参入の担い手にとっては追い風だ。

担い手として参入すれば、捕獲した個体を国産ジビエ認証を取得した食肉処理施設に持ち込み、適切に換金するルートが整いつつある。農水省が2018年に創設した「国産ジビエ認証制度」も、流通品質の標準化と消費者の信頼獲得に寄与している。

担い手不足解消に向けた今後の展望と課題

女性・若年層の取り込みが鍵

担い手確保の観点から、特に注目されているのが「女性猟師」と「若年層猟師」の増加だ。環境省の調査では、近年の新規狩猟免許取得者のうち20〜40代が占める割合が増えており、特に30代女性の参入が全国的に話題になっている。SNSで猟師生活を発信するインフルエンサーが登場し、「猟師=おじさんの趣味」というイメージが徐々に変わりつつある。

ICT・AIの活用による省力化

担い手1人あたりの負担を減らすテクノロジーの活用も進んでいる。ICTを活用したわな(センサー式・スマートフォン通知型)は、見回り時間を大幅に短縮できる。また、AIを使った鳥獣の生息数推計・出没予測も研究が進んでおり、効率的な捕獲計画の立案に活用が期待される。

法整備の継続が必要

担い手確保の観点から、法整備面での課題も残る。現在の猟期設定(11月15日〜2月15日)は担い手の「年間収入の安定化」を妨げる要因のひとつだ。有害鳥獣捕獲の従事者を年間通じて雇用できる制度的枠組みの整備、そして猟師が生計を立てやすい「ジビエ流通の法的整備」が今後の課題となっている。

「猟師 転職」や「猟師 装備」に関する詳細情報は、それぞれの専門記事「猟師への転職を考えたら読む記事」「猟師の装備完全ガイド」を参照してほしい。

よくある質問(FAQ)

Q1. 担い手研修会に参加するのに狩猟免許は必要ですか?

多くの自治体が開催する入門的な研修会は、狩猟免許のない一般市民も参加可能なことがほとんどです。岩手・矢巾町のような「体験型研修会」は、免許取得前の入門者向けに開催されています。ただし、実際に罠を設置・作動させる実習では安全管理上の制約がある場合があるため、開催自治体に事前に確認してください。

Q2. ガバメントハンターになるには、どれくらいの経験が必要ですか?

自治体によって異なりますが、一般的に「第一種銃猟免許保持+3〜5年以上の実猟経験」が採用条件となるケースが多いです。FNN報道(2026年)では秋田県で採用している3自治体に共通する採用条件として、第一種銃猟免許・普通自動車免許・実猟経験が挙げられています。

Q3. 地域おこし協力隊で猟師になる場合、収入はどのくらいですか?

地域おこし協力隊の活動費は月額16〜23万円(総務省が定める上限)が3年間支給されます。これに自治体独自の加算や住居支援が加わることもあります。活動期間終了後に独立する場合は、猟師としての収入(有害鳥獣駆除の報奨金+ジビエ販売等)で生計を立てる形になります。

Q4. 担い手不足が特に深刻な地域はどこですか?

農業被害が多い中山間地域全般で担い手不足が深刻です。特に北海道(エゾシカ・ヒグマ)、東北(ツキノワグマ・ニホンジカ)、九州・中国地方(イノシシ)での不足感が強く、各都道府県が独自の対策を打ち出しています。

Q5. 担い手研修会の情報はどこで入手できますか?

各市区町村の農林水産課・環境課のウェブサイト、都道府県の鳥獣被害対策担当部署、猟友会の広報誌・ウェブサイトなどが主な情報源です。農水省の「鳥獣被害対策ポータルサイト」でも全国の取り組みが紹介されています。

Q6. 女性が担い手として参加できるプログラムはありますか?

多くの研修会・育成プログラムは性別不問で参加を受け付けています。近年は女性猟師を対象にした交流会や、女性が参加しやすい環境づくり(安全基準の明確化・更衣室の設置等)に取り組む自治体も増えています。

Q7. 担い手になるうえで年齢制限はありますか?

狩猟免許の受験資格は18歳以上(わな猟・網猟は17歳から受験可能、ただし実際の免許取得・行使は18歳から)であれば上限年齢はありません。70代でも現役の猟師は多く、体力よりも経験・知識・技術が重視される側面があります。

まとめ:狩猟の担い手不足は「機会」でもある

狩猟の担い手不足は、社会的には深刻な問題だが、個人にとっては「参入しやすいタイミング」でもある。国・自治体が担い手確保に真剣に取り組んでいる今、入門者への支援は手厚く、ジビエ市場の成長で収入機会も広がっている。

2026年現在の担い手確保策を整理すると、次の8点が柱だ。

1. 緊急銃猟制度(2025年9月施行)による通年対応体制の整備

2. ガバメントハンター制度の全国展開

3. 鳥獣被害防止総合対策交付金による人材育成支援

4. 地域おこし協力隊制度との組み合わせ活用

5. 体験型研修会(岩手・矢巾町モデル等)の全国普及

6. ジビエ認証制度整備による流通出口の確保

7. ICT・スマートわなによる省力化

8. 女性・若年層の取り込みによる裾野拡大

農業被害154億円・ジビエ市場54億円・狩猟者数11万人——この3つの数字が物語るように、担い手不足の問題は深刻だが、その解決に向けた機会も同時に広がっている。「猟師になりたい」と考えているならば、今がまさに参入の好機だ。まずは地元の自治体が主催する研修会への参加や、狩猟免許の取得から第一歩を踏み出してほしい。


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