最終更新: 2026-06-13
令和6年度の野生鳥獣による農作物被害額は188億円にのぼり、前年度から24億円も増加しました(農林水産省 2024年度調査)。一方で、捕獲されたシカやイノシシのうち、食肉として活用されているのは全体のわずか1割程度にとどまっています。
「害獣として駆除された動物は、その後どうなるのだろう」「害獣の肉はジビエとして食べられるのか」。こうした疑問を持つ方は少なくありません。
この記事では、害獣とジビエの違いから、捕獲された害獣がジビエとして食卓に届くまでの具体的な流れ、そして害獣駆除とジビエビジネスを両立させるキャリアの可能性までを徹底解説します。まず両者の定義を整理し、次に害獣がジビエになるまでの5ステップを追い、最後にこの分野で広がる仕事の選択肢をお伝えします。
ジビエと害獣の違いとは?基本をわかりやすく解説
「ジビエ」と「害獣」は、同じ野生動物を異なる角度から捉えた言葉です。混同されがちですが、それぞれの定義を正確に理解しておくことで、業界の全体像が見えてきます。
| 項目 | ジビエ | 害獣(有害鳥獣) |
|---|---|---|
| 定義 | 食材として利用される野生鳥獣の肉(フランス語由来) | 農林水産業や生活環境に被害を与える野生鳥獣 |
| 法的根拠 | 食品衛生法、と畜場法の適用外(自治体の衛生ガイドラインに基づく) | 鳥獣保護管理法に基づく有害鳥獣捕獲制度 |
| 対象動物 | シカ、イノシシ、クマ、カモなど | シカ、イノシシ、サル、カラスなど |
| 捉え方 | 「地域資源」「食文化」 | 「農作物を荒らす厄介な存在」 |
| 管轄 | 農林水産省(食肉利用推進) | 環境省(鳥獣保護管理)、農林水産省(被害対策) |
ここで注目したいのは、害獣として捕獲された個体がジビエとして食卓に届くケースが増えているという点です。つまり、害獣駆除とジビエ活用は対立する概念ではなく、一連の流れとして捉えることができます。
ジビエの基本について詳しく知りたい方は、ジビエとは?定義から種類・栄養価まで初心者向けに解説の記事もあわせてご覧ください。
害獣がジビエになるまでの流れ【5ステップ】
害獣として捕獲された野生動物がジビエとして消費者に届くまでには、明確な工程があります。ここでは、その流れを5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:有害鳥獣の捕獲
自治体からの許可を受けた猟師や有害鳥獣駆除従事者が、くくり罠・箱罠・銃猟などで対象動物を捕獲します。有害鳥獣捕獲では、捕獲1頭あたりの報奨金が支給される自治体も多く、イノシシ1頭で8,000〜15,000円、シカで7,000〜15,000円が一般的です(2026年時点、自治体により異なる)。
ステップ2:迅速な搬送
捕獲後の鮮度管理が、ジビエの品質を左右します。内臓の早期摘出(目安は捕獲後1〜2時間以内)と、適切な温度管理を行いながら食肉処理施設へ搬送します。この搬送スピードが、ジビエとして流通できるかどうかの分岐点になります。搬送に時間がかかりすぎると、自家消費や廃棄となるケースが多くなります。
ステップ3:食肉処理施設での解体・加工
食肉処理施設では、衛生管理ガイドラインに沿って解体・カット・パッキングを行います。農林水産省が定める「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」に基づき、個体の健康状態チェック、金属探知、冷蔵管理を徹底します。解体から加工までの具体的な手順は、ジビエの解体手順ガイドで詳しく紹介しています。
ステップ4:検査・品質確認
処理施設では、放射性物質検査や目視による異常確認を実施します。ジビエの衛生管理ガイドラインに適合した施設で処理されたジビエには、トレーサビリティ情報(捕獲日時・場所・個体情報)が付与されます。
ステップ5:販売・流通
品質基準をクリアしたジビエは、卸売業者・外食産業・小売業者・消費者への直接販売など、さまざまな販路で流通します。
害獣駆除とジビエの最新データ【農水省統計で読み解く】
害獣問題とジビエ利用の現状を、農林水産省の公式統計データで確認しておきましょう。
鳥獣被害の現状
| 項目 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 農作物被害金額(令和6年度) | 188億円 | 前年度比+24億円 |
| シカによる被害額 | 79億円 | 前年度比+9億円 |
| イノシシによる被害額 | 45億円 | 前年度比+8.2億円 |
| 被害面積 | 4万4千ha | 令和6年度 |
出典:農林水産省「農作物被害状況」(令和6年度)
ジビエ食肉処理の実績
農林水産省 野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、食肉処理施設に搬入された鳥獣の重量は合計7,072トンです。内訳を見ると、シカが5,605トン(構成比79.3%)、イノシシが1,467トン(同20.7%)となっており、シカがジビエ処理の中心を担っています。
出典:e-Stat 統計表ID: 0002119971
ジビエの販売金額
ジビエ食肉処理で得た金額の合計は約54億円に達しています。
| 販売区分 | 金額(百万円) | 構成比 |
|---|---|---|
| 食肉販売(合計) | 4,404 | 81.5% |
| うちシカ食肉 | 2,571 | 47.6% |
| うちイノシシ食肉 | 1,644 | 30.4% |
| ペットフード | 888 | 16.4% |
| 皮革 | 14 | 0.3% |
| 鹿角製品(鹿茸等) | 90 | 1.7% |
出典:e-Stat 統計表ID: 0002119974(農林水産省 野生鳥獣資源利用実態調査 令和5年度)
注目すべきは、食肉以外の活用が広がっている点です。ペットフードとしての販売が約9億円規模に成長しており、鹿の皮革や角の利用も含めると、害獣の「命を余すことなく活かす」動きが進んでいます。ジビエのペットフード活用について詳しくは、ジビエペットフードの選び方ガイドをご覧ください。
ジビエの販売先内訳
販売先としては、卸売業者(31.4%)と外食産業(27.7%)で全体の約6割を占めます。一方、消費者への直接販売も13.1%あり、そのうちインターネット経由が7.7%と、オンラインでの購入が定着しつつあります。
出典:e-Stat 統計表ID: 0002119996
害獣をジビエとして活用する3つのメリット
害獣をジビエとして活用する取り組みには、複数の関係者にとってメリットがあります。
メリット1:農業被害の軽減と捕獲意欲の向上
害獣をジビエとして販売できる仕組みが整うと、猟師の捕獲意欲が向上します。報奨金だけでなく、食肉販売による収入が上乗せされることで、より積極的な駆除活動が可能になります。実際に、処理施設が整備された地域では、捕獲頭数が増加する傾向が報告されています。
獣害対策の補助金申請方法もあわせて確認しておくと、活動の幅が広がります。
メリット2:地域経済の活性化
中山間地域では、害獣をジビエとして加工・販売することで新たな産業が生まれています。岐阜県揖斐川町では、捕獲したシカを処理・製品化し、地元レストランで提供する「6次産業化」モデルが成功事例として知られています。捕獲・加工・販売を地域内で完結させることで、雇用創出にもつながっています。
メリット3:命を無駄にしない持続可能な仕組み
現状では、捕獲されたシカの90%以上が食肉として利用されることなく、埋設や焼却処分されています。ジビエとして活用することは、捕獲した命を資源として循環させる持続可能な取り組みです。食肉だけでなく、皮革製品や鹿角を使ったアクセサリーなど、多角的な活用が進んでいます。
害獣のジビエ利用における課題と注意点
メリットがある一方で、害獣のジビエ利用にはまだ多くの課題が残されています。
課題1:利用率の低さ
ジビエとして利用されているのは、捕獲された害獣全体の約1割にすぎません。食肉処理施設までの搬送距離や処理能力の不足、猟師の高齢化による搬送負担などが理由に挙げられます。農林水産省は令和11年度(2029年度)にジビエ利用量4,000トンを目標に掲げていますが、達成には処理施設の増設と搬送体制の整備が不可欠です。
課題2:衛生管理の徹底
野生動物の肉は、家畜と異なり個体ごとの健康状態にばらつきがあります。E型肝炎ウイルスや寄生虫のリスクがあるため、十分な加熱調理(中心温度75℃で1分以上)が必須です。処理施設での衛生管理基準を満たすことが、消費者の安心につながります。
課題3:安定供給の難しさ
害獣の捕獲数は季節や地域によって大きく変動します。レストランや小売業者が求める「安定した量と品質」を確保するには、複数の猟師・処理施設が連携するサプライチェーンの構築が必要です。
害獣駆除とジビエビジネスで広がるキャリアの可能性
ここまで害獣とジビエの関係を見てきましたが、この分野には「仕事」としての可能性も広がっています。害獣駆除の需要は年々増加しており、ジビエビジネスと組み合わせることで、複数の収入源を持つ働き方が実現できます。
害獣駆除×ジビエに関わる職種
| 職種 | 主な業務 | 必要な資格・スキル |
|---|---|---|
| 有害鳥獣捕獲従事者 | 自治体の委託による害獣の捕獲 | 狩猟免許(わな猟または銃猟) |
| 食肉処理施設スタッフ | 解体・カット・品質管理 | 食品衛生責任者(推奨) |
| ジビエ販売事業者 | 肉の販売・ECサイト運営 | 食肉販売業許可 |
| ジビエ料理人 | レストラン・加工品開発 | 調理師免許(推奨) |
| 鳥獣被害対策コーディネーター | 自治体の被害対策計画の立案・管理 | 鳥獣被害対策の実務経験 |
たとえば、わな猟免許を取得して有害鳥獣駆除に従事しながら、自ら食肉処理施設を運営し、EC販売まで手がける「一貫型」の猟師が増えています。報奨金(1頭あたり8,000〜15,000円)に加えて、シカ1頭から取れる精肉(約10〜15kg)を販売すれば、食肉だけで1万〜3万円の売上が見込めます。
害獣駆除の仕事に興味がある方は、猟師の求人情報まとめもチェックしてみてください。
現場の声:害獣駆除とジビエを両立する猟師のリアル
ジビエ利活用に取り組む地域では、「捕って終わり」ではなく「捕った命をどう活かすか」を意識する猟師が増えています。特に若い世代の新規参入者は、報奨金だけに頼らず、ジビエの加工販売やペットフード製造など、複数の収入の柱を持つスタイルを志向する傾向にあります。
地域おこし協力隊として赴任し、害獣駆除とジビエ事業を立ち上げるケースも各地で見られるようになりました。自治体によっては年間200〜280万円程度の報酬が支給されるため(総務省 地域おこし協力隊制度、2026年時点)、移住+猟師というキャリアパスが現実的な選択肢になっています。
ジビエと害獣に関するよくある質問
Q1: 害獣の肉はすべてジビエとして食べられますか?
いいえ。ジビエとして流通するには、食肉処理施設で適切に解体・検査される必要があります。捕獲後の搬送時間や個体の状態によっては、食用に適さない場合もあります。個人が自家消費する場合を除き、販売には食肉販売業の許可が必要です。
Q2: 害獣駆除で捕獲した動物を個人で販売できますか?
個人が自ら捕獲した害獣を食肉として販売するには、食品衛生法に基づく食肉処理業・食肉販売業の許可を取得する必要があります。無許可での販売は法律違反となります。自家消費であれば許可は不要ですが、衛生管理は自己責任となります。
Q3: ジビエに寄生虫や病気のリスクはありますか?
はい。野生動物にはE型肝炎ウイルスや旋毛虫などの寄生虫が存在する可能性があります。中心温度75℃で1分間以上の加熱を行えば、これらのリスクは回避できます。生食や加熱不十分での提供は厳禁です。
Q4: 害獣駆除の報奨金とジビエ販売の収入は両方もらえますか?
はい。多くの自治体では、有害鳥獣駆除の報奨金と、捕獲した個体のジビエ販売収入を併せて受け取ることが可能です。ただし、自治体によっては報奨金の支給条件に個体の確認や引き渡しが含まれる場合があるため、事前に確認が必要です。
Q5: 害獣のジビエ利用を始めるには何から取り組めばよいですか?
まずは狩猟免許の取得が出発点です。わな猟免許であれば合格率80%台で、費用も比較的抑えられます。次に、地域の食肉処理施設との連携体制を確認し、捕獲→搬送→処理のルートを整えましょう。自治体の鳥獣被害対策協議会に相談するのが最も確実な第一歩です。
Q6: 害獣のジビエ利用に使える補助金はありますか?
農林水産省の「鳥獣被害防止総合対策交付金」では、食肉処理施設の整備費用や捕獲活動にかかる経費への補助が受けられます。自治体独自の支援制度もあるため、都道府県や市町村の農政課に問い合わせてみてください。
まとめ:害獣とジビエは「問題と解決策」の関係
この記事のポイントを整理します。
- 害獣とジビエは対立する概念ではなく、「害獣をジビエとして活用する」ことで被害軽減と地域活性化を同時に実現できる
- 害獣がジビエになるまでには「捕獲→搬送→処理→検査→販売」の5ステップがある
- ジビエ食肉処理で得た金額は年間約54億円、食肉が81.5%を占める(農林水産省 令和5年度調査)
- 一方で利用率はわずか1割にとどまり、処理施設の不足と搬送体制が課題
- 害獣駆除とジビエビジネスを組み合わせたキャリアの可能性が広がっている
まずは地域の鳥獣被害対策の状況を確認し、自分にできる関わり方を探ることから始めてみましょう。狩猟免許の取得を検討している方は、猟師とは何か?仕事内容と役割を解説の記事もぜひ参考にしてください。
参考情報
- 農林水産省「ジビエ利用拡大コーナー」(https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/index.html)
- 農林水産省「鳥獣被害対策コーナー」(https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/index.html)
- 農林水産省「農作物被害状況」令和6年度(https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html)
- e-Stat 統計表ID: 0002119971「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)— 食肉処理施設の解体実績」
- e-Stat 統計表ID: 0002119974「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)— 野生鳥獣を処理して得た金額」
- e-Stat 統計表ID: 0002119996「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)— 販売先別販売数量」
- ジビエポータルサイト「ジビエト」(https://gibierto.jp/)

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