最終更新: 2026-10-19
鹿の角は、朝鮮人参と並ぶ高貴薬として中医学で古くから使われてきました。ただし「鹿の角」と一口に言っても、生え変わり直後の柔らかい角(鹿茸)と、硬化した角(鹿角)は別の薬材として扱われ、日本での法的な区分も異なります。本記事では、鹿茸と鹿角の違い、国内での生産・流通の実例、そして駆除されたシカの角を資源として活用する動きを一次資料に基づいて整理します。
鹿茸とは?鹿角とは何が違うのか

鹿の角に関する生薬は、角がどの段階にあるかによって複数の種類に分かれます。
| 名称 | 状態 | 薬効の強さ |
|---|---|---|
| 鹿茸(ろくじょう) | 生え変わったばかりで、まだ骨化していない柔らかい角 | 最も強いとされる |
| 鹿角(ろっかく) | 骨化した硬い角 | 鹿茸より劣るが、炒ることで似た効能が期待される |
| 鹿角膠(ろっかくきょう) | 鹿角を煮詰めて作った膠 | 鹿茸より劣り、鹿角より優るとされる |
| 鹿角霜(ろっかくそう) | 鹿角膠を作った後に残る骨の滓 | 最も穏やかな作用とされる |
生薬を扱う専門サイトの解説によると、鹿茸は「朝鮮人参・牛黄・冬虫夏草・熊胆と並ぶ高貴薬」の一つに位置づけられ、シカの角が一年に一度というペースで生え変わる生命力の強さから、古来「強い精力がある」と期待されてきました。中医学の分類では「補腎陽・補腎精」に当たり、アンチエイジングや滋養強壮、妊活支援、小児の発育不全対策などの用途で使われてきたとされています。
日本国内での法的な扱い:鹿茸は医薬品、鹿角は食品

日本では、鹿茸と鹿角は法律上の扱いが分かれています。厚生労働省が示す「食薬区分」(医薬品的効能効果を標榜する物の成分本質の区分に関するガイドライン、1971年6月1日付薬発第476号に基づく運用)では、鹿茸は「専ら医薬品として使用される」原材料に位置づけられており、一般的な健康食品として販売することはできません。一方、硬化した角である鹿角は食品として扱われる区分になっており、サプリメントなど健康食品の原料として流通している例があります。
ただし、この区分は一律ではない点にも注意が必要です。国内で唯一の養鹿専業牧場である雲仙鹿牧場(長崎県雲仙市、株式会社ディアー・カンパニー運営)の説明によると、同牧場で生産された鹿の袋角(鹿茸)は1989年(平成元年)に医薬品として認められ、1991年(平成3年)には食品としても扱われるようになったとされています。つまり、生産者や許認可の経緯によっては、鹿茸であっても食品として扱われる例外的なケースが存在するということです。鹿の角製品を扱う場合は、一般論だけで判断せず、販売する製品がどの許認可を得ているかを個別に確認する必要があります。
駆除された鹿の角は資源になるのか:統計で見る実態

有害鳥獣として駆除されたシカの角は、どの程度活用されているのでしょうか。農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、全国の食肉処理施設がジビエの処理によって得た金額は合計で約54億円、このうち「鹿角製品(鹿茸等)」としての販売金額は約9,000万円で、全体の1.7%を占めています。
これは、同じ非食肉用途である皮革(販売金額約1,400万円、構成割合0.3%)よりも大きい割合です。鹿の皮を資源化する取り組みについては「ジビエレザーとは?駆除された鹿・猪の革を資源化する取り組み」で紹介していますが、鹿角製品はそれを上回る販売実績があるということになります。とはいえ、食肉(販売金額約81.5%)と比べれば小さい割合であり、「角も売れるが、主役は肉」という位置づけであることが分かります。
国内生産の実例:雲仙鹿牧場のケース

国内で鹿茸・鹿角を計画的に生産している事例として、長崎県雲仙市の雲仙鹿牧場が挙げられます。1977年に鹿の袋角(鹿茸)生産を目的として開業した、国内唯一の養鹿専業牧場とされており、雲仙国立公園内の約24ヘクタールの敷地で800〜1,000頭のシカを飼育し、品種改良から飼育管理、製品製造・販売までを一貫して自社で行っています。
このように、鹿茸・鹿角の生産には専用の牧場での計画的な飼育が前提になっているケースが多く、野生のシカを駆除した際に得られる角を同じ水準で製品化するには、衛生管理や採取のタイミングなど別のハードルがあることがうかがえます。駆除現場で得られる角は、こうした専業牧場のものとは生産背景が異なる点を踏まえておく必要があります。
よくある質問
Q1: 自分で捕獲したシカの角を鹿茸・鹿角として販売できるか?
鹿角(硬化した角)であれば食品区分として販売できる可能性がありますが、鹿茸(生え変わり直後の柔らかい角)は原則として医薬品区分に当たるため、一般の健康食品として販売することはできません。実際に販売を検討する場合は、都道府県の薬務担当窓口や保健所に、対象となる角の状態と加工方法を具体的に確認することが必要です。
Q2: 鹿角製品は誰が買っているのか?
国内の販売実績からは、鹿角製品が漢方・サプリメント原料として一定の需要を持っていることが分かりますが、食肉と比べると市場規模は小さく、ニッチな資源活用の一つという位置づけです。
まとめ:鹿の角は小さいながら実在する資源
- 鹿の角に関する生薬は、柔らかい鹿茸、硬化した鹿角、鹿角膠、鹿角霜の順に薬効の強さが異なるとされる
- 日本の食薬区分では鹿茸は医薬品、鹿角は食品の扱いだが、生産者の許認可によって例外もある
- 農林水産省の統計では、鹿角製品(鹿茸等)の販売金額は全国で約9,000万円、ジビエ処理で得た金額全体の1.7%を占め、皮革(0.3%)より大きい
- 国内では長崎県雲仙市の専業牧場が計画的に鹿茸・鹿角を生産しており、駆除現場の角とは生産背景が異なる
ジビエの非食肉資源化については「ジビエレザーとは?」も参考にしてほしい。狩猟・ジビエ業界の統計は「狩猟・ジビエ業界の統計まとめページ」で定期更新している。
参考情報
- 薬読み「鹿茸(ろくじょう)の効能 アンチエイジング&冷え性対策などに」(確認日: 2026年10月19日) https://yakuyomi.jp/knowledge_learning/chinese_medicine/01_099/
- 雲仙鹿牧場(株式会社ディアー・カンパニー)「私達の取組み」(確認日: 2026年10月19日) https://www.deercompany.co.jp/torikumi
- 農林水産省 野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)(確認日: 2026年10月19日) https://www.e-stat.go.jp/stat-search?kikan=00500&toukei=00500248&page=1

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