ジビエで町おこし完全ガイド|全国事例・成功の条件・自治体が取り組む地域創生の最前線

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「駆除して捨てる」から「活かして稼ぐ」へ——ジビエ町おこしの本質

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2026年7月27日、ABEMAニュースが「ジビエで町おこし 駆除したシカ、イノシシは『財産』 神奈川・秦野市」というタイトルで報道を行った。捕獲したシカ・イノシシを廃棄物として処分していた時代から、地域の「財産」として活用する時代への転換が今、全国規模で起きている。

農林水産省の統計によると、ジビエ(野生鳥獣の食肉)の全国販売金額は2023年度に約54億円を記録し、2016年度比で1.8倍に成長した(農水省「野生鳥獣資源利用実態調査 令和5年度」e-Stat 統計表ID: 0002119974)。この数字の背景には、獣害対策と地域活性化を同時に達成しようとする全国の自治体・事業者の創意工夫がある。

「ジビエで町おこし」とは何か。誰が取り組み、何が成功のカギを握っているのか。全国の先進事例と農水省の政策データをもとに、その全貌を解説する。

ジビエが「まちおこし」になりうる理由

獣害対策と収益化の一石二鳥

日本全国でシカ・イノシシによる農作物被害が深刻化している。農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況(令和5年度)」によると、シカによる被害額は約50億円、イノシシは約45億円(農水省公表)と、あわせて100億円近い被害が生じている。

これまで、駆除したシカやイノシシのほとんどは山中に埋めるか焼却処分されてきた。全国でのジビエ食肉処理施設への搬入重量のうち、シカが5,605トン(79.3%)・イノシシが1,467トン(農水省 e-Stat 0002119971、令和5年度)と報告されているが、これは捕獲数全体からすればまだ一部に過ぎない。

つまり「大量に捕獲している→大量に廃棄している」という現実がある。この廃棄コストを「販売収益」に転換できれば、獣害対策そのものの費用を下げながら地域経済も潤うという好循環が生まれる。これがジビエまちおこしの根本的な論理だ。

観光資源・食文化としてのブランド力

もうひとつの強みが、ジビエが持つ「ストーリー性」だ。都市に住む消費者にとって、ジビエは単なる食材ではない。「山の恵みを丸ごと活かす」「サステナブルな食の選択」「猟師と料理人が作る一皿」というナラティブが付加価値となる。

農泊・グリーンツーリズムとの組み合わせも強力だ。「ジビエ体験ツアー」として狩猟見学・解体体験・ジビエ料理を一連のパッケージにすることで、都市からの観光客を呼び込める。農水省がまとめた事例集(令和元年・農村振興局)でも、「観光×ジビエ」のパッケージが全国20以上の事例で紹介されている。

農水省「ジビエ利用モデル地区」とは

農林水産省は2018年(平成30年)3月、「ジビエ利用モデル地区」として全国17地区を選定した。これは「捕獲→搬送→処理加工→販売」の全工程が持続可能なビジネスとしてつながったモデル地区を認定し、先導事例として全国に横展開しようという政策だ。

選定条件は「地域全体として取り組んでいること」「ジビエ利用のマスタープランを策定していること」「捕獲から販売まで安全衛生が担保されていること」の3点。この制度は全国のジビエ取り組みの「教科書」となり、多くの自治体が参考にしてきた。

ジビエ政策の全体像

制度・事業名 実施主体 概要
ジビエ利用モデル地区 農林水産省 全国17地区を先進モデルとして選定(平成30年)
国産ジビエ認証制度 農林水産省 処理加工施設の衛生基準認証(任意)
ジビエ利活用推進補助金 農林水産省・都道府県 処理加工施設の整備・改修等を支援
有害鳥獣駆除報奨金 各市町村 捕獲1頭あたりの報奨金(自治体により1,000〜20,000円以上)
地域おこし協力隊×ジビエ 総務省 ジビエ専門の地域おこし協力隊を配置する自治体が増加

詳しい有害鳥獣駆除の報奨金制度については有害鳥獣駆除 報奨金・自治体制度の完全解説を参照してほしい。

全国ジビエまちおこし成功事例4選

事例1:神奈川県秦野市「丹沢ジビエ」——鶴巻温泉×ジビエの街づくり

神奈川県秦野市は、背後に丹沢山地を擁する人口約16万人の市だ。丹沢ではニホンジカ・イノシシの生息数が増加しており、農業被害が深刻な課題となってきた。

この状況に危機感を持ったのが、地元の温泉地・鶴巻温泉の商店主たちだ。2020年から「ジビエの食べられる街鶴巻温泉」として商店街ぐるみでジビエまちおこしを始動させた。新宿から電車で約1時間という首都圏からのアクセスの良さと、丹沢の豊かな自然を組み合わせたブランディングが奏功した。

2025年3月には地元企業・株式会社川上商会が新商品3品を開発・販売開始。

  • シカ肉のキーマカレー
  • 欧風鹿肉入りソーセージ
  • 欧風猪肉入りソーセージ

「食材として楽しむ」入口を広げた。さらに秦野市は日本ジビエ振興協会の会員に加入し、秦野たばこ祭など大型イベントでジビエブースを出展するなど、市全体でのジビエ普及に取り組んでいる(ジビエト公式・秦野市ページ参照)。

「ジビエで町おこし 駆除したシカ、イノシシは『財産』」(ABEMA、2026年7月27日)という報道が示すとおり、秦野市の試みは今や全国モデルとして注目されている。

事例2:北海道・エゾシカ管理と一頭買いの仕組み

北海道では全国最多のエゾシカが生息しており、農林業被害は年間で数十億円規模に上る。同時に北海道は全国最大のジビエ供給地でもある。

北海道のジビエまちおこしが他と異なるのは「高付加価値化」の戦略だ。農水省のモデル地区に選定された北海道の地区では、エゾシカの生体捕獲・一時養鹿・食肉加工という一貫工程を整え、高性能の冷蔵・冷凍設備によって鮮度管理を徹底している。

この結果、「一頭買い」という販売形式が確立され、横浜のRestaurant EISUKEのように東京・神奈川の飲食店が直接鹿を一頭分仕入れるルートが生まれた。産地と消費地が直接つながる「ジビエのサプライチェーン改革」だ。

事例3:長野県・信州ジビエ認証制度と観光の融合

長野県は「信州産シカ肉認証制度」を独自に設け、個体認証番号によるトレーサビリティを確立している(信州ジビエ認証)。これにより「この一皿の鹿がどの山でいつ捕獲されたか」が消費者にわかる仕組みができた。

茅野市にある「オーベルジュ・エスポワール」(藤木徳彦シェフ・農水省「地産地消の仕事人」認定)は、地元の山野から仕入れたジビエを使うフルコース料理でジビエ観光の代名詞になっている。ジビエランチ14,300円・ジビエディナー23,100円という価格帯でありながら予約が絶えない繁盛店だ。「長野にジビエを食べに行く」という新しい旅行動機が生まれた。

長野県では年間3万頭超のシカが捕獲されているが、ジビエとして活用されているのはわずか4〜5%程度とされている。逆に言えば、95%がまだ活用できていない「伸びしろ」でもある。

事例4:島根県美郷町「美郷バレー」——猪食い倒れの里

島根県邑智郡美郷町は人口約4,500人(2026年時点)の中山間地域だが、「イノシシの里」として全国的に知られる。農水省の事例集にも掲載されている「美郷バレー」プロジェクトでは、住民・猟師・加工施設・飲食店・観光事業者が一体となってジビエの産業化を進めてきた。

美郷バレーが特徴的なのは「捨てる部位をゼロにする」姿勢だ。食肉としての赤身・内臓だけでなく、皮をなめしてレザー製品に、骨を肥料に、と動物全体を利用するゼロウェイストなアプローチが評価されている。農水省のジビエ利活用モデル地区にも選定されており、全国から視察が絶えない。

ジビエまちおこし成功の3条件

全国の事例を分析すると、ジビエまちおこしが成功するには次の3つの条件がそろっていることがわかる。

条件1:捕獲から販売までの「冷たいチェーン」が完結している

ジビエ肉の品質は捕獲直後の処理で決まる。止め刺し後すぐに血抜きし、2時間以内に処理加工施設に搬入する「冷たいチェーン(コールドチェーン)」の確立が最重要条件だ。これが機能していない地域では「臭い・硬い・品質が不安定」という評判になり、普及が進まない。

成功している秦野市・北海道のモデル地区・信州では、いずれもこのコールドチェーンの整備を最優先に取り組んでいる。

条件2:地元の「食べる文化」が先にある

ジビエは「食べてもらって初めて」価値が生まれる。地域に「猪鍋・鹿鍋を食べる文化」がすでにある場合は普及しやすい。兵庫・丹波篠山のぼたん鍋(1908年発祥)が全国的に有名になれたのも、もともと100年以上の地元食文化があったからだ。

「文化がない地域はどうするか?」という問いへの答えが、ジビエフェアや給食でのジビエ提供、体験型ツアーなど「新しい食文化を作る」取り組みだ。秦野市の鶴巻温泉マルシェ(2020年〜)もその一例で、地元住民がジビエに親しむ機会を繰り返し作ることで文化を醸成してきた。

条件3:「猟師の後継者」と「担い手の育成」がセット

ジビエまちおこしは、加工・販売の仕組みを整えても、肝心の「捕獲する人」がいなければ続かない。日本全体で狩猟者の高齢化・担い手不足が深刻化しており(猟師の高齢化問題・実態と対策参照)、ジビエ事業の持続性は後継者育成と表裏一体だ。

成功している自治体では「ジビエ事業者として就労できる猟師」の雇用を生み出している。近年では「ガバメントハンター(公務員猟師)」という新しい職種も誕生し、秋田県や長野県の一部自治体が先行して採用を進めている(詳細はガバメントハンターとは?公務員猟師の仕事・給与・採用条件)。

ジビエまちおこしのビジネスモデル比較

モデル 特徴 収益源 成功事例
直販型 処理加工施設が直接飲食店・消費者に販売 食肉販売収益 北海道(一頭買い)
加工品型 ソーセージ・カレー等に加工して通販 加工食品売上 秦野市(丹沢ジビエ)
観光体験型 狩猟・解体体験ツアーとセット販売 体験料+食材販売 長野(信州ジビエ)
レストラン型 ジビエ専門レストランが地域ブランドに 飲食売上+観光誘致 丹波篠山(ぼたん鍋)
ゼロウェイスト型 食肉・皮革・肥料など全部位を活用 複数商品の組み合わせ 島根・美郷バレー

ジビエまちおこしに関心ある自治体・事業者へのヒント

ジビエまちおこしを始めたい自治体・事業者は、まず農林水産省の「ジビエ利用モデル地区」の事例集(農水省公式サイト)を参照することをおすすめする。農水省は支援メニューとして以下を提供している。

1. 処理加工施設整備への補助(農水省・都道府県補助金)

2. 「国産ジビエ認証」取得のための衛生管理体制整備支援

3. 「ジビエ利活用取組事例集」(無料・PDFで公開)

4. 地域おこし協力隊制度の活用(ジビエ専門人材の配置)

ジビエ体験プログラムの立ち上げを検討している方はジビエ・狩猟体験ガイドも参考になる。

また、日本ジビエ振興協会(gibier.or.jp)は「GIBIER de 地方創生協力隊セミナー」(2026年5月開催)など、企業・自治体向けの普及啓発活動を行っており、会員企業・自治体間のネットワークを提供している。

FAQよくある質問

Q1. 「ジビエで町おこし」はどの規模の自治体でも取り組めますか?

はい、取り組める。むしろ人口数千人規模の中山間地域の方が、「捕獲頭数が多く活用しきれていない」という課題を抱えていることが多く、取り組む動機が明確になりやすい。重要なのは規模よりも「関係者のつながり」と「コールドチェーンの整備」だ。農水省のジビエ利用モデル地区に選定された17地区には、人口数千人の小規模自治体も含まれている。

Q2. ジビエ事業で収益化するまでの期間はどのくらいかかりますか?

先進事例を見ると、処理加工施設整備から安定的な収益化まで3〜5年程度かかるケースが多い。秦野市鶴巻温泉は2020年に取り組みを開始し、2025年には新商品も登場して軌道に乗りつつある(5年が目安)。重要なのは「補助金頼みにしない自立した仕組み」を作ることで、このビジョンなしには長続きしない。

Q3. ジビエ事業に取り組むために必要な許認可はありますか?

食肉処理業と食肉販売業の許可が必要だ(食品衛生法)。HACCP対応も義務化されており(2021年6月〜)、処理施設の整備には衛生管理体制の構築が不可欠。「国産ジビエ認証制度」の取得は任意だが、信頼性向上に有効で、飲食店や消費者への安心材料になる。

Q4. 猟師がいない地域ではどうすればいいですか?

「猟師がいない→捕獲できない→ジビエ事業ができない」という悪循環を断つには、若い狩猟者の育成が最優先だ。狩猟免許取得費用の補助・専属ハンター(ガバメントハンター)の採用・地域おこし協力隊でのハンター招致など、複数のアプローチがある。「まず食べる場所・活用の仕組みを先に作り、それがハンターの動機になる」という逆算の発想も有効だ。

Q5. ジビエ事業のリスクはありますか?

主なリスクは3つ。(1)品質管理の失敗による信用失墜——コールドチェーン未整備による品質低下。(2)捕獲数の不安定——自然由来のため年によって捕獲頭数が変動する。(3)販路の確保——「作れる→売れる」は別問題で、飲食店・消費者との継続的な関係構築が必要。これらを事前に織り込んだビジネス計画が成功の鍵となる。

Q6. 全国のジビエ事業の情報はどこで得られますか?

農水省「ジビエ利用の推進について」(maff.go.jp/j/nousin/gibier/suishin.html)、日本ジビエ振興協会(gibier.or.jp)、ジビエポータルサイト「ジビエト」(gibierto.jp)の3つが主要な情報源だ。農水省のジビエフェア情報は全国ジビエフェア情報まとめでもまとめている。

Q7. ジビエ個人販売は許可なしにできますか?

自分で捕獲した鳥獣の肉を個人で食べることは問題ないが、販売するには食肉処理業・食肉販売業の許可が必要だ。無許可での販売は食品衛生法違反になる。詳しくはジビエ販売許可・個人で売るために必要な手続きを参照してほしい。

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まとめ:「廃棄→財産」へ——全国のジビエまちおこしが示す未来

「駆除したシカ、イノシシは『財産』」——2026年7月27日のABEMAニュースが発信したこの言葉は、日本のジビエをめぐる認識の転換を象徴している。

農水省統計では2023年度のジビエ販売金額が54億円(7年で1.8倍)に達した。しかしこれは捕獲されたシカ・イノシシの全体からすれば、まだほんの一部に過ぎない。95%以上がいまだ廃棄されている計算になる。

逆に言えば、ジビエまちおこしの「伸びしろ」はまだ膨大に残っている。

秦野市・北海道・長野・島根の事例が示す共通点は「獣害対策と食文化を切り離さず、一体の地域システムとして設計した」こと。猟師・加工業者・料理人・行政・消費者がつながって初めてジビエはまちの「財産」になる。

日本のジビエまちおこしは今、黎明期から成長期へと移行するターニングポイントにある。あなたの地域でも、その可能性を探してみてほしい。

参考情報

  • 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査 令和5年度」(e-Stat 統計表ID: 0002119971・0002119974)
  • 農林水産省「ジビエ利用モデル地区の選定について」(平成30年3月9日)
  • 農林水産省「ジビエ利活用の取組事例集」令和元年10月
  • 農林水産省「野生鳥獣による農作物被害状況 令和5年度」
  • 日本経済新聞「ジビエ販売7年で1.8倍 低脂質の健康食材、獣害対策にも」2024年1月
  • タウンニュース秦野版「鶴巻温泉 ジビエマルシェ再び 前回完売の人気企画」2026年7月3日
  • タウンニュース秦野版「丹沢ジビエ 新たに3商品 資源生かし、地域活性を」2025年3月21日
  • ABEMA NEWS「ジビエで町おこし 駆除したシカ、イノシシは『財産』 神奈川・秦野市」2026年7月27日
  • 秦野市「OMOTANグルメ 秦野ジビエ・ナビ」(hadano-cci.or.jp)
  • ジビエポータルサイト「ジビエト」秦野市ページ(gibierto.jp)
  • 日本ジビエ振興協会 公式サイト(gibier.or.jp)


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