マタギの資格とは?猟師免許から弟子入りまで7ステップで徹底解説

マタギの資格とは?猟師免許から弟子入りまで7ステップで徹底解説 狩猟文化

最終更新: 2026-07-03

農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、ジビエの販売金額は約54億円に達し、狩猟をめぐる社会的関心はかつてないほど高まっています(出典: e-Stat 統計表ID: 0002119974)。その中でも「マタギ」というキーワードの検索数は年々増加しており、伝統的な狩猟文化に惹かれる若い世代が増えていることがうかがえます。

「マタギになりたいけれど、どんな資格が必要なのかわからない」「狩猟免許だけで十分なのか、それとも特別な修行が必要なのか」――そんな疑問を抱えている方は少なくありません。

この記事では、マタギに必要な資格を「法的資格」と「文化的資格」の2つの軸で整理し、免許取得の手順から地域選び、費用、収入モデルまでを7ステップで解説します。まず法的に必要な狩猟免許の全体像を確認し、次にマタギ独自の「文化的資格」を紹介、最後に実際のなり方ロードマップをお伝えします。

マタギに必要な「2つの資格」とは?全体像を理解しよう

マタギになるために必要な資格は、大きく2つに分かれます。ここが一般的な猟師(ハンター)との決定的な違いです。

資格の種類 内容 取得方法 必須度
法的資格 狩猟免許(4種類)、猟銃所持許可、狩猟者登録 都道府県の試験・警察署での申請 法律上必須
文化的資格 マタギ集落への受け入れ、師匠への弟子入り、山の掟の習得 地域移住・人間関係の構築 マタギとして認められるために必須

一般的な猟師であれば法的資格だけで狩猟を始められます。しかしマタギは単なる「狩猟をする人」ではなく、山の神への信仰や巻き狩りの組織文化、獲物を平等に分配する「マタギ勘定」など、独自の精神性と共同体の一員であることが求められます。猟師とマタギの違いについては別記事で詳しく比較していますが、この「二重の資格」を理解することが、マタギへの第一歩です。

マタギになるための法的資格一覧と取得手順

Step 1: 狩猟免許を取得する

マタギが行う猟は主に銃猟(巻き狩り)とわな猟です。法的には以下の4種類の狩猟免許があり、マタギを目指すなら第一種銃猟免許とわな猟免許の2つを取得するのが一般的です。

免許の種類 対象 年齢要件 試験手数料 マタギとの関連度
第一種銃猟 散弾銃・ライフル 20歳以上 5,200円 高い(巻き狩りの主力)
第二種銃猟 空気銃のみ 20歳以上 5,200円 低い
わな猟 くくり罠・箱罠など 18歳以上 5,200円 中(補助的に使用)
網猟 網を使った猟 18歳以上 5,200円 低い

試験は知識試験(法令・鳥獣知識など約30問)、適性試験(視力・聴力など)、技能試験の3科目で構成されます。合格率は約80%と、しっかり準備すれば難関ではありません。詳しい受験の流れは狩猟免許の取り方ガイドをご覧ください。

予備講習会(約8,000〜12,000円)を受講してから臨むのが定番ルートです。試験は各都道府県で年2〜4回実施されており、居住地以外の都道府県でも受験できます。

Step 2: 猟銃所持許可を取得する

銃猟免許を取得しただけでは銃を所持できません。別途、住所地を管轄する警察署で「猟銃等所持許可」の手続きが必要です。

手続きの流れは以下の通りです。

1. 猟銃等講習会(初心者講習)を受講する(受講料6,900円)

2. 考査に合格する

3. 教習射撃を受ける(射撃場での実射、費用約30,000円前後)

4. 猟銃等所持許可を申請する

5. 銃を購入し、確認を受ける

所持許可の取得には申請から約1〜2か月かかるため、猟期(11月15日〜2月15日)に間に合わせるなら夏頃までに手続きを始める必要があります。詳細な手続きの流れは当サイトの猟銃所持許可ガイドでも解説しています。

Step 3: 狩猟者登録を行う

狩猟免許と銃の所持許可を得たら、実際に猟を行う都道府県で「狩猟者登録」を行います。登録には狩猟税(第一種銃猟で16,500円、わな猟で8,200円)と登録手数料(1,800円)がかかります。

また、3,000万円の損害賠償保険への加入が義務付けられており、猟友会を通じて加入するのが一般的です。

ここまでの3ステップが「法的資格」の部分です。一般的な猟師であればこの時点で狩猟を始められますが、マタギを目指すなら、ここからが本番です。

マタギになるために必要な「文化的資格」とは

マタギは「猟をする資格」だけでなく「猟の仲間として認められる資格」が求められます。これは試験や講習で取得できるものではなく、地域に根ざした人間関係と信頼のなかで獲得していくものです。

Step 4: マタギの活動地域を選び、移住する

マタギ文化が現在も受け継がれている主な地域は以下の通りです。

地域 所在地 特徴 移住支援制度
阿仁マタギ 秋田県北秋田市 マタギ発祥の地。マタギ資料館・マタギ学校あり 地域おこし協力隊の募集あり
小国マタギ 山形県小国町 飯豊連峰の山域で活動。熊猟が中心 移住定住支援あり
阿賀マタギ 新潟県阿賀町 越後山脈で活動。独自の山言葉が残る 空き家バンク制度あり
戸隠マタギ 長野県長野市戸隠 有害鳥獣対策との連携。令和7年に協力隊募集あり 協力隊月額約23万円
鳥海マタギ 秋田県由利本荘市 鳥海山麓で活動。ツキノワグマ猟が中心 要確認

阿仁地区のマタギは平安時代から続くとされ、マタギ文化の本家として広く知られています。マタギの文化と歴史については詳しい解説記事がありますので、移住先を選ぶ前にぜひ一読してください。

移住のルートとして注目されているのが「地域おこし協力隊」制度です。総務省が所管する制度で、都市部から地方へ移住し、地域活性化に取り組む隊員として活動します。狩猟・有害鳥獣対策をミッションとする協力隊の募集は年々増加しており、任期中は月額約16万6,000〜23万3,000円の報酬が支給されます。狩猟免許の取得費用を自治体が負担するケースもあるため、猟師の後継者募集を探す方法も合わせて確認してみてください。

Step 5: 師匠を見つけて弟子入りする

マタギは「シカリ」と呼ばれるリーダーを中心とした集団狩猟です。シカリは前の世代のシカリが任命するもので、単に猟の腕が良いだけでなく、山の神とマタギをつなぐ知識と人望を備えた人物が選ばれます。

新しくマタギの仲間に入るには、地域の猟友会やマタギ集落のベテランに弟子入りするのが基本的な流れです。東洋経済オンラインで紹介された事例では、31歳のデータエンジニアが神奈川県から秋田県阿仁地区に移住し、74歳のベテランマタギに師事して修行を積んでいます。彼は週3日のリモートワークと猟を両立させる「ハイブリッド型マタギ」として活動しているとのことです。

師匠を見つけるための主なルートは以下の通りです。

1. 地域の猟友会支部に加入し、先輩猟師と関係を築く

2. 地域おこし協力隊として赴任し、地域のマタギと接点を持つ

3. マタギ学校(北秋田市阿仁)などの体験プログラムに参加する

4. 移住前に地域の行事や祭りに参加し、顔を覚えてもらう

特に重要なのは、いきなり「マタギになりたい」と飛び込むのではなく、まず地域に溶け込むことです。山村では日常の助け合い――草刈り、除雪、地域行事への参加――が信頼の土台になります。

Step 6: マタギの文化と掟を学ぶ

マタギには独自の文化体系があり、猟の技術だけでなく精神面の修養も求められます。以下はマタギの主な文化的要素です。

巻き狩りの組織構造として、シカリ(指導者・総指揮)、セコ(勢子=追い込み役)、マツバ(見張り・待ち伏せ役)の役割分担があります。新人はまずセコとして追い込み役を務め、山の地形や獣道を体で覚えていきます。

山の神への信仰は、マタギ文化の根幹です。山の神は女神とされ、山に入る際には儀礼を行い、獲物は「山の神からの授かりもの」として感謝とともに受け取ります。猟果は「マタギ勘定」と呼ばれる平等分配の原則に従い、参加者全員で均等に分け合います。

マタギ独自の言葉(山言葉)も重要な要素です。例えばクマを「イタズ」、カモシカを「コシマケ」と呼ぶなど、山中では日常語と異なるマタギ言葉を使います。これは山の神に対する畏敬の表現であると同時に、集団での意思疎通を確実にするための実用的な機能も持っています。

また、猟期の装備や服装についても伝統が残っています。現代のマタギはゴアテックスなどの機能素材を使いますが、ミノ(背負い蓑)やナタなど伝統的な道具を併用する人もいます。マタギの伝統装束から現代ウェアまでの記事で詳しく解説しています。

マタギの資格取得にかかる費用シミュレーション

マタギを目指す場合の初期費用を、3つのパターンで比較しました。

費用項目 わな猟のみ 銃猟+わな猟 フル装備マタギ
狩猟免許試験手数料 5,200円 9,100円(2種合計) 9,100円
予備講習会 約10,000円 約20,000円 約20,000円
医師の診断書 約3,000円 約3,000円 約3,000円
猟銃等講習会 不要 6,900円 6,900円
教習射撃 不要 約30,000円 約30,000円
銃の購入(中古) 不要 約100,000円 約150,000円
ガンロッカー・装弾ロッカー 不要 約30,000円 約30,000円
狩猟者登録(狩猟税+手数料) 10,000円 28,300円 28,300円
猟友会費・保険料 約20,000円 約25,000円 約25,000円
狩猟装備一式 約30,000円 約80,000円 約150,000円
移住関連費用 不要 不要 約200,000〜500,000円
合計目安 約78,200円 約332,300円 約652,300〜952,300円

金額は2026年7月時点の目安です。狩猟免許の費用を種別ごとに詳しく比較した記事もありますので、合わせてご確認ください。

費用を抑えるポイントとして、以下の方法があります。

自治体の補助金を活用するのが最も効果的です。鳥獣被害が深刻な地域では狩猟免許の取得費用や装備購入費を全額補助する制度があり、実質的な自己負担をゼロに近づけられるケースもあります。地域おこし協力隊として赴任すれば、月額報酬に加えて活動費から免許取得や装備の購入が可能な場合もあります。

現代マタギのリアルな収入と生計モデル

「マタギだけで食べていけるのか」は多くの人が気になるポイントです。結論から言えば、マタギの猟だけで生計を立てている人はごくわずかで、複数の収入源を組み合わせるのが現実的です。

収入源 年間目安 備考
有害鳥獣駆除の報奨金 30万〜100万円 クマ1頭あたり1〜8万円(自治体により異なる)
ジビエ肉の販売 20万〜80万円 食肉処理施設の有無で大きく変動
熊胆・毛皮・鹿角の販売 5万〜30万円 熊胆は高値で取引されることも
猟期外の副業(林業・山菜採り等) 60万〜150万円 多くのマタギが兼業
地域おこし協力隊の報酬(任期中) 約200万〜280万円 最大3年間
リモートワーク等の兼業 個人差大 IT系スキルがあれば有利

農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、食肉処理施設1施設あたりの年間売上は平均約701万円です(出典: e-Stat 統計表ID: 0002119974)。個人レベルの収入はこれより小さくなりますが、ジビエの販売先は外食産業(販売数量の27.7%)や卸売業者(31.4%)が主力であり、販路を確保できれば安定した副収入になります(出典: e-Stat 統計表ID: 0002119996)。

現場の声として、阿仁で活動する若手マタギは「週3日リモートワーク、週4日は山に入る」というスタイルで生計を立てているケースがあります。ITスキルと狩猟を掛け合わせた「ハイブリッド型」は、現代のマタギの新しいロールモデルとして注目されています。

よくある質問(FAQ)

Q1: マタギに特別な国家資格はありますか?

マタギ専用の国家資格は存在しません。法的に必要なのは一般の狩猟免許(第一種銃猟免許やわな猟免許)と猟銃所持許可です。「マタギ」は資格名ではなく、伝統的な狩猟集団の構成員として地域で認められた人の呼称です。

Q2: 女性でもマタギになれますか?

法的には狩猟免許に性別の制限はなく、女性でも取得できます。ただし、マタギの伝統文化では山の神が女神であることから女性の入山を避ける慣習が一部に残っています。近年はこうした慣習も変化しつつあり、狩猟に携わる女性は全国的に増加傾向にあります。

Q3: 都会から移住してマタギになった人はいますか?

います。東洋経済オンラインで紹介された事例では、神奈川県出身の31歳のデータエンジニアが4回の転職を経て秋田県阿仁地区に移住し、現役マタギに師事しています。地域おこし協力隊をきっかけに移住する若者も近年増えています。

Q4: マタギになるまでにどのくらい時間がかかりますか?

狩猟免許の取得は最短で約2〜3か月、猟銃所持許可まで含めると約4〜6か月が目安です。ただし、マタギとして地域に認められるにはさらに数年の時間が必要です。巻き狩りでまず勢子(追い込み役)として経験を積み、山の地形や獣道を覚えていく過程は一朝一夕にはいきません。

Q5: マタギの猟期はいつですか?

一般的な猟期は11月15日から翌年2月15日までです(北海道は10月1日から)。ただし、有害鳥獣駆除の許可が出ている地域では猟期外でも捕獲活動が行われます。マタギの本番は冬の雪山での巻き狩りであり、猟期外は山菜採りや林業、道具の手入れなどに充てるのが伝統的なサイクルです。

Q6: 狩猟免許の合格率はどのくらいですか?

全国平均で約80%です。予備講習会を受講してから臨めば、初回でも十分合格できる水準です。知識試験は法令問題が約13問、鳥獣の知識が約9問出題され、70%以上の正答率で合格となります。

Q7: マタギと猟友会はどう違いますか?

猟友会は狩猟者の全国組織で、保険加入や狩猟者登録の窓口としての役割を担います。マタギは特定の地域に根ざした伝統的な狩猟集団です。多くのマタギは猟友会にも所属しており、両者は対立するものではなく共存しています。

まとめ:マタギの資格取得ロードマップ

マタギになるために押さえておくべきポイントを整理します。

  • マタギには「法的資格」(狩猟免許・猟銃所持許可)と「文化的資格」(地域への溶け込み・師匠への弟子入り)の2つが必要
  • 法的資格の取得は約4〜6か月、費用は銃猟+わな猟で約33万円が目安
  • マタギ文化が残る地域(秋田・阿仁、山形・小国、新潟・阿賀など)への移住が前提
  • 地域おこし協力隊は移住と猟師キャリアを同時にスタートできる有力なルート
  • 収入はジビエ販売・報奨金・副業の組み合わせで年収200〜400万円が現実的なライン

まず第一歩としては、狩猟免許の予備講習会への参加がおすすめです。実際に猟銃を手に取り、狩猟の基礎知識を学ぶことで、マタギの道が具体的にイメージできるようになります。

マタギの文化や歴史をもっと深く知りたい方は、日本の狩猟の歴史をまとめた記事もぜひご覧ください。

参考情報

  • 環境省「狩猟免許を取得する」(環境省公式サイト)
  • 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」(e-Stat 統計表ID: 0002119974、0002119996)
  • 大日本猟友会「狩猟者数の推移」(大日本猟友会公式サイト)
  • 東洋経済オンライン「31歳、4回転職した彼が『秋田でマタギ』になった訳」(2024年掲載)
  • 北秋田市「マタギ学校」(北秋田市公式サイト)
  • 総務省「地域おこし協力隊」制度概要(総務省公式サイト)



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