巻き狩りのやり方を徹底解説|役割・手順・初心者の持ち物

巻き狩りのやり方を徹底解説|役割・手順・初心者の持ち物 猟の実践

最終更新: 2026-04-29

農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、ジビエ食肉処理施設への搬入重量は年間7,072トンに達し、そのうちシカが79.3%、イノシシが20.7%を占めています(e-Stat 統計表ID: 0002119971)。こうした大型獣を複数人のチームワークで効率的に捕獲する猟法が「巻き狩り」です。

「巻き狩りに参加してみたいけど、セコやマチって何をするの?」「グループ猟の暗黙のルールがわからなくて不安」と感じている方は多いのではないでしょうか。巻き狩りは単独猟と異なり、チーム全体の連携が成果と安全を左右するため、事前に流れを理解しておくことが欠かせません。

この記事では、巻き狩りのやり方を初心者にもわかるよう、役割分担から当日の流れ、必要装備と費用、暗黙のルールまで徹底解説します。まず巻き狩りの全体像を説明し、次に具体的な手順をステップごとに解説、最後に初心者が押さえるべきマナーと持ち物をお伝えします。

巻き狩りのやり方:始める前に知っておくこと

巻き狩り(巻狩り)とは、複数人の猟師がチームを組み、「勢子(セコ)」と「待ち子(マチ)」に役割を分担して大型獣を捕獲するグループ猟です。セコが山に入って猟犬とともに獲物を追い立て、逃走ルート上で待ち構えるマチが射撃して仕留めるという流れで進みます。主な対象はシカとイノシシで、日本各地の猟友会で古くから行われてきた伝統的な猟法です。

巻き狩りの大きな特徴は、参加者全員の連携で成り立つ「チームプレー」であること。一人ひとりの判断が全員の安全に直結するため、ルールとマナーの理解が欠かせません。

項目 内容
参加人数 5~15人程度(猟場の規模による)
対象獣 シカ、イノシシなどの大型獣
必要免許 銃猟免許(第一種または第二種。セコも含め全員必須)
猟期 11月15日~2月15日(北海道は10月1日~1月31日)
所要時間 半日~1日(早朝集合、昼過ぎ解散が一般的)
難易度 中~上級(チームワークと基本的な射撃技術が必要)

ここで注目すべきのは、2022年4月に大日本猟友会が制定した新ルールです。銃猟免許を持たない構成員は巻狩り猟の勢子として参加できなくなりました。以前はわな猟免許のみで勢子を務めるケースもありましたが、現在は勢子であっても銃猟免許(第一種または第二種)を有し、当該狩猟者登録を行った者に限って参加が認められています。このルールに違反して事故を起こした場合は、保険金減額措置が適用されるため注意が必要です。

狩猟免許の取り方については別記事で詳しく解説していますので、まだ取得していない方はそちらを参考にしてください。

巻き狩りのやり方【ステップ解説】

巻き狩りの当日の流れを、6つのステップに分けて解説します。猟場や地域によって細部は異なりますが、基本的な進行は全国共通です。

Step 1: 猟場の選定と「見切り」

巻き狩りの第一歩は、獲物がいる場所を特定する「見切り」です。前日または当日の早朝に猟場周辺を歩き、以下の痕跡(フィールドサイン)を確認します。

痕跡の種類 確認ポイント わかること
足跡 蹄の形・大きさ・向き 獣の種類、移動方向、頭数の推定
新鮮さ(乾燥具合) 直近の通過の有無
獣道 踏み固められた道筋 日常的な移動ルート
寝屋 草が倒れた跡、体の跡 休息場所、近くにいる可能性
ぬた場 泥が掘り返された跡 イノシシの活動範囲
木の傷 角研ぎ跡、樹皮の剥がれ シカの活動範囲

見切りの精度が巻き狩りの成功率を大きく左右します。ベテラン猟師は足跡の深さや糞の乾き具合から「何時間前に通ったか」まで推定できるといわれています。初心者のうちはベテランの見切りに同行し、観察眼を養うことが上達への近道です。

Step 2: 朝のミーティングと役割分担

集合場所に全員が揃ったら、地図を広げてミーティングを行います。猟隊長(グループのリーダー)が中心となり、以下を決定します。

確認事項は次のとおりです。

1. 見切りの結果共有: どこに獲物の痕跡があったか、参加者全員で情報を出し合う

2. 役割分担: セコとマチの割り振り。参加者の経験・体力・射撃技術に応じて決定

3. タツマ(立間)の配置: マチが待機する具体的なポイントを地図上で確認

4. セコの進入ルート: 獲物を追い立てる方向と経路の確認

5. 予想逃走ルート: 獲物が逃げると想定される方角

6. 無線の確認: 使用チャンネル、コールサイン、連絡手順

7. 安全確認: 射線の方向、民家や一般道の位置、絶対に撃ってはいけない方向

このミーティングが巻き狩りの「設計図」です。参加者全員が同じ絵を共有していないと、事故やトラブルの原因になります。疑問があればこの場で必ず確認しましょう。

Step 3: マチの配置

ミーティング後、まずマチが各タツマに移動します。配置完了の連絡を無線で猟隊長に入れるまでがこのステップです。

タツマでの待機中に守るべきポイントをまとめます。

  • 獣道が見通せる位置に立つ。ただし獣道の真上には立たない(獲物に気づかれる)
  • 風下に位置取りする。自分の匂いが獲物に届かないようにすることが大切
  • 音を極力立てない。タバコやコーヒーなど匂いの強いものも控える
  • オレンジ色の安全ベストと帽子は必ず着用する
  • 銃口は安全な方向に向け、引き金には指をかけない
  • 指定された場所から無断で動かない(最重要ルール)

配置が完了したら無線で「〇〇、配置完了」と報告し、セコの開始を待ちます。

Step 4: セコによる追い立て

全マチの配置完了を確認後、猟隊長の合図でセコが山に入ります。

セコの動きは以下のとおりです。

  • 猟犬を放ち、声(「ホーイ」「ソレ」など)を出しながら獲物を特定の方向へ追い立てる
  • 獲物の動きを無線で逐次報告する(「シカ2頭、南東に向かった」など)
  • 犬の鳴き声や動きから獲物の位置を把握し、マチへ情報を伝える
  • 獲物がタツマの方向に向かったら「出た!」と合図を送る

セコは山を駆け回るため、かなりの体力を消耗します。足場の悪い急斜面を猟犬と一緒に移動するため、地形の理解と山歩きの経験が求められます。初心者がいきなりセコを務めるのは負担が大きいため、最初の数回はマチの役割から経験を積むのが一般的です。

Step 5: 射撃と止め刺し

追い立てられた獲物がタツマに現れたら、マチが射撃します。ここで絶対に守るべきルールがあります。

  • 安全な射線(バックストップ)を確認してから発砲する
  • 仲間がいる方向・民家がある方向には絶対に撃たない
  • 獲物が射程に入るまで我慢し、確実な一発を心がける
  • 発砲後は無線で「発砲しました」と全員に報告する

半矢(負傷した獲物が逃げた状態)になった場合は、猟隊長の指示のもと追跡を行います。負傷した獲物は予測不能な動きをするため、追跡には十分な注意が必要です。仕留めた獲物には速やかに止め刺しを行い、苦しみを最小限にします。

Step 6: 回収・解体・分配

獲物を捕獲したら、全員で回収作業に移ります。

  • 現場での放血(血抜き): 肉の品質を保つため、速やかに頸動脈を切って放血する
  • 運搬: 回収場所まで獲物を運ぶ。大型のシカやイノシシは数人がかりでの作業になる
  • 内臓の摘出: 現場で行う場合と、食肉処理施設に持ち込む場合がある
  • 解体: 部位ごとに切り分ける
  • 「マタギ勘定」による分配: 参加者全員で獲物を公平に分ける

「マタギ勘定」とは、仕留めた人だけが総取りするのではなく、セコ・マチを問わず参加者全員で均等に分配する伝統的な方法です。グループによっては射止めた人に少し多く配分するルールを設けている場合もあります。分配方法は事前に確認しておきましょう。

ジビエとして食肉販売する場合は、各都道府県が定める衛生管理ガイドラインに従った処理が必要です。ジビエの衛生管理ガイドラインについては別記事で詳しく解説しています。

巻き狩りの役割を詳しく知る

巻き狩りの成否は、各役割がそれぞれの責務を正確に果たせるかにかかっています。ここでは4つの主要な役割を深掘りします。

役割 読み方 仕事内容 求められるスキル 向いている人
勢子(セコ) せこ 山に入り獲物を追い立てる 体力、地形把握力、犬の扱い 体力に自信がある人
待ち子(マチ) まち タツマで獲物を待ち構え射撃する 射撃技術、忍耐力、冷静な判断力 射撃に自信がある人
中撃ち なかうち セコとマチの中間で待機・射撃 状況判断力、高い射撃技術 経験豊富な猟師
猟隊長 りょうたいちょう 全体の指揮・配置決定・安全管理 リーダーシップ、地形知識、経験 ベテラン猟師

初心者は原則としてマチからスタートします。マチは「待つだけ」に思えるかもしれませんが、実際には獲物がいつどの方向から来るかわからない緊張感の中で、冷静に安全確認と射撃判断を行う難しさがあります。

セコを務めるには、山を長時間歩き回る体力に加え、猟犬の動きから獲物の位置を読み取る経験が必要です。地形を熟知していないと自分自身が道に迷うリスクもあるため、十分な経験を積んでから挑戦しましょう。

巻き狩りに必要な装備と費用の目安

巻き狩りに参加するために必要な装備と、おおよその費用をまとめました。すべてを一度に揃える必要はありませんが、初回参加までに最低限揃えておきたいものを「必須」として分類しています。

装備 費用の目安(2026年時点) 必須/推奨 備考
散弾銃(中古) 10万~30万円 必須 上下二連銃がグループ猟で人気
無線機(デジタル簡易無線) 2万~5万円 必須 グループと同じ種類を選ぶ
イヤホンマイク 3,000~8,000円 必須 ハンズフリー通話に対応
安全ベスト・帽子 3,000~8,000円 必須 オレンジ色が標準
登山靴 1万~3万円 必須 防水・グリップ力のあるもの
防寒着(アウターレイヤー) 1万~5万円 必須 防水透湿素材が望ましい
ナイフ 5,000~2万円 必須 止め刺し・解体用
予備バッテリー(無線用) 1,000~3,000円 推奨 長時間猟に備えて
ヘッドランプ 2,000~5,000円 推奨 早朝・夕方の移動時
ザック(30L程度) 5,000~1万5,000円 推奨 装備の運搬用
手袋(作業用) 1,000~3,000円 推奨 解体作業・防寒兼用

初回参加に必要な最低限の装備費用は、銃を除いて4万~10万円程度が目安です。散弾銃の選び方狩猟ナイフの選び方は別記事で詳しく解説しています。

無線機の選び方:法的な注意点

巻き狩りで使用する無線機は、大きく分けて2種類あります。選び方を間違えると電波法違反になるケースがあるため、注意が必要です。

種類 デジタル簡易無線(登録局) アマチュア無線
免許 不要(総合通信局への登録のみ) 第四級アマチュア無線技士以上が必要
出力 最大5W 機種によるが5W~50W
通信距離 1~5km程度(地形による) 5km以上(出力・アンテナによる)
有害鳥獣駆除での使用 可能 不可(電波法で業務使用を禁止)
費用 2万~5万円 1万5,000~4万円+免許取得費用
現在の主流 主流になりつつある 従来の主流だが法的制約あり

特に注意すべきは、アマチュア無線を有害鳥獣駆除の業務で使用することは電波法違反になる点です。自治体からの依頼による有害鳥獣駆除に参加する場合は、必ずデジタル簡易無線を使用してください。趣味の狩猟であればアマチュア無線も使用できますが、グループ内で統一されていることが前提です。購入前に所属するグループのメンバーに確認しましょう。

実際に巻き狩りに参加してみると…

「初めての巻き狩りは、とにかく緊張した」という声は多く聞かれます。現場ではベテラン猟師が当たり前のように使う専門用語が飛び交い、無線のやりとりも早口です。「タツマ」「見切り」「半矢」といった狩猟用語を事前に覚えておくだけでも、当日の理解度は大きく変わります。

巻き狩りで初心者が最も驚くのが「待ちの長さ」です。マチとしてタツマに着いてから実際に獲物が来るまで、2~3時間かかることも珍しくありません。真冬の山中で動かずに待ち続けるのは想像以上に過酷です。しっかり防寒着を重ね着し、カイロを携帯するなどの対策が欠かせません。手がかじかんで引き金を引けない、ということがないよう手袋の選択も重要です。

逆に、獲物が出た瞬間は一気に緊張感が高まります。心拍数が上がり、銃を構える手が震えるのは誰でも経験すること。焦って撃つのではなく、深呼吸して安全を確認し、確実な一発を心がけることが大切です。

そして、チームで獲物を仕留めた後の達成感は格別です。「マタギ勘定」で肉を分け合い、解体しながら猟の振り返りをする時間は、猟師同士の絆が深まるかけがえのない場でもあります。狩猟を長く続けているベテランの多くが「巻き狩りの仲間との関係が一番の財産」と語るのもうなずけます。

巻き狩りのやり方に関するよくある質問

Q1: 巻き狩りは何人から実施できますか?

最少で4人程度(セコ1~2人、マチ2~3人)から実施可能ですが、安全性と効率を考えると5~10人が適正な人数です。猟場の規模が大きい場合は15人以上で行うケースもあります。参加人数は猟隊長が猟場に応じて判断します。

Q2: 初心者でも巻き狩りに参加できますか?

第一種銃猟免許と猟銃所持許可を取得していれば参加可能です。初心者はマチ(待ち子)の役割から始めるのが一般的で、ベテラン猟師の隣のタツマに配置されることが多いです。地元の猟友会に所属し、先輩の指導を受けながら経験を積みましょう。[猟友会の入り方とメリット](https://kariudo.jp/huntingculture/ryoyukai-how-to-join/)についてはこちらの記事で解説しています。

Q3: 巻き狩りに猟犬は必須ですか?

必須ではありませんが、多くの巻き狩りグループでは猟犬を使用します。猟犬がいると獲物の追い立て効率が大幅に向上し、捕獲率が上がります。自分で犬を飼っていなくても、グループ内に犬を連れたセコがいれば問題なく参加できます。猟犬の犬種としてはプロットハウンド、紀州犬、ビーグルなどが使われています。

Q4: 巻き狩りのシーズンはいつですか?

一般猟期は11月15日~翌年2月15日(北海道は10月1日~1月31日)です。ただし、自治体から有害鳥獣駆除の許可を受けた場合は猟期外でも実施可能です。多くの巻き狩りグループは猟期中の土日祝日を中心に活動しています。猟期は都道府県によって延長や短縮される場合があるため、各都道府県の狩猟情報を確認してください。

Q5: 巻き狩りの獲物はどう分配しますか?

「マタギ勘定」と呼ばれる伝統的な分配方法が広く採用されています。仕留めた人だけが総取りするのではなく、セコ・マチを問わず参加者全員で均等に分けるのが基本です。ただし、グループによってルールは異なり、射止めた人に多く配分する「射止め加算」を設けている場合もあります。初参加の場合は、事前にリーダーに分配ルールを確認しておくと安心です。

Q6: 単独猟と巻き狩り、初心者にはどちらがおすすめですか?

初心者には巻き狩りの方が安心です。ベテラン猟師から直接学べること、安全面でのサポート体制があること、チームで動くため山での遭難リスクが低いことが理由として挙げられます。巻き狩りで基本を身につけてから、[忍び猟](https://kariudo.jp/hunting-practice/deer-stalking-hunting-tips/)や単独猟にステップアップする猟師が多いです。

Q7: 巻き狩り中にタツマから動いてもいいですか?

原則として、猟隊長の許可なくタツマから動くことは絶対に禁止です。これは巻き狩りにおける最重要ルールであり、無断移動は仲間からの誤射事故につながる危険性があります。やむを得ず移動が必要な場合(体調不良など)は、必ず無線で全員に連絡し、猟隊長の指示を仰いでください。

まとめ:巻き狩りのやり方のポイント

巻き狩りのやり方について、要点を整理します。

  • 巻き狩りは勢子(セコ)と待ち子(マチ)が連携して大型獣を捕獲するグループ猟
  • 基本的な流れは「見切り→ミーティング→配置→追い立て→射撃→回収・分配」の6ステップ
  • タツマ(待機場所)から無断で動かないことが最も重要な安全ルール
  • 2022年の大日本猟友会ルール改定により、勢子も銃猟免許が必須になった
  • 無線機は有害鳥獣駆除にも使えるデジタル簡易無線が現在の主流
  • 初心者はまずマチの役割から始め、経験を積んでからセコへステップアップする
  • 装備費用は銃を除いて4万~10万円程度が目安

巻き狩りは、猟師としての技術だけでなく、チームワークやコミュニケーション能力も磨かれる猟法です。まだ猟友会に入っていない方は、猟友会の入り方を確認し、地元のグループを探してみましょう。

狩猟の始め方を基礎から知りたい方や、狩猟に必要な装備一式を確認したい方は、それぞれの記事も参考にしてください。

参考情報

  • 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」(e-Stat 統計表ID: 0002119971)
  • 大日本猟友会「巻狩り猟の勢子に関する新ルール」(2022年4月制定、j-hunters.com)
  • 大日本猟友会「事故及び違反の防止」(j-hunters.com)
  • 環境省「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」
  • 総務省「電波法」(無線機の使用に関する規定)



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