最終更新: 2026-07-17
農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、国内のジビエ(野生鳥獣肉)の販売金額は約54億円に達し、7年間で約1.8倍に成長しています(e-Stat 統計表ID: 0002119996)。レストランや精肉店にとどまらず、今「パン」という切り口でジビエを提供する動きが全国各地で広がっています。
「ジビエパンって何?」「本当においしいのか?どこで買えるのか?」と思った方も多いでしょう。猪肉のカレーパン・コロッケパン、鹿肉入りのフィリングパン——これらは単なる変わり種パンではなく、農林水産省が推進するジビエ利活用政策の最前線にある商品です。捕獲した野生鳥獣を廃棄せず地域資源として活かす取り組みが、地元のパン屋と手を組むことで、これまでにない食体験を生み出しています。
この記事では、ジビエパンの定義と誕生背景、農水省が事例集に収録する全国のジビエパン、種類・食べ方・通販での購入方法、そして自宅でも再現できるジビエパンレシピまで一挙に解説します。
ジビエパンとは|獣害対策と食文化が交差する新しいパンの世界

「ジビエパン」の定義
ジビエパンとは、鹿肉(シカ)・猪肉(イノシシ)・熊肉・鴨肉などの野生鳥獣肉(ジビエ)を具材または生地に組み合わせたパンの総称です。カレーパン・コロッケパン・フィリングパン(包んで焼くタイプ)・フォカッチャ・ジビエバーガーなど、形式はさまざまです。
ジビエは栄養面でも優れた食材です。農林水産省のデータによると、シカ肉は牛肉に比べて脂質が約6分の1、鉄分は約2倍。イノシシ肉は豚肉に比べて鉄分が約4倍、ビタミンB12が約3倍含まれています。これらの特性は、健康志向の消費者向けのパン商品として非常に適しています。
ジビエとは何かを基礎から学ぶことで、ジビエパンの魅力がより深く理解できます。
なぜ今「ジビエパン」なのか
日本では全国各地でシカ・イノシシによる農業・林業被害が深刻化しており、年間の農作物被害額は約155億円(令和5年度、農林水産省調査)に上ります。「捕獲した野生鳥獣を廃棄せず食材として活用する」ジビエ利活用は、獣害対策・食料資源活用・地域経済活性化を同時に実現するソリューションとして、農水省・環境省が一体となって推進しています。
その中で「パン」という身近な食形式がジビエとつながることには、次の意義があります。
1. 低コストで試せる: ジビエレストランのコース料理と比べ、パンは数百円から気軽に試せる
2. 日常食として定着しやすい: 弁当・間食・朝食として取り入れやすく、繰り返し消費してもらいやすい
3. 地域ブランド化しやすい: 「この地域のジビエを使ったパン」として観光土産にも応用できる
| ジビエパンの種類 | 主な食材 | 特徴 |
|---|---|---|
| ジビエカレーパン | 猪肉・鹿肉 | カレー風味のミートフィリング。スパイスがジビエの旨みを引き立てる |
| ジビエコロッケパン | 猪肉・鹿肉 | ジビエコロッケをパンに挟む。ボリューム感と食べやすさが魅力 |
| ジビエフィリングパン | 鹿肉・猪肉ミンチ | 包んで焼いたソフトパン。生地の甘みとジビエの旨みの対比が楽しめる |
| ジビエバーガー | 鹿肉(パティ) | バンズにジビエパティをはさむスタイル。都市部のカフェ・ビストロで増加中 |
| ジビエフォカッチャ | 猪肉(トッピング) | ハーブとジビエの香りを生かしたイタリアン系パン |
農水省が注目する全国のジビエパン取組事例

石川県「のとしし大作戦」の先駆的パン商品化
農林水産省が令和元年10月に発行した「ジビエ利活用の取組事例集」に掲載された石川県能登地方の「のとしし大作戦」は、ジビエパン普及の先駆的事例として全国から注目されています。
石川県能登地方ではイノシシによる農業被害が深刻化していました。平成27年(2015年)に地域おこし協力隊の活動として「のとしし大作戦」が始動。捕獲したイノシシを地域資源「のとしし」としてブランド化し、食材として活用する仕組みを構築しました。
合同会社のとしし団が設立され、解体・販売等のノウハウを習得した中で特に注目されたのが、地元のパン屋との連携です。「のとしし」の猪肉を素材にしたコロッケパン・カレーパンが商品化され、地元住民・観光客から好評を博しました。この展開により、のとしし料理を扱う飲食店は県内20店舗にまで増加しています。
この事例が示すのは、「野生鳥獣 × 地元パン屋のコラボ」が観光資源・地域ブランドとして機能するという事実です。パンという日常食に落とし込むことで、ジビエを特別な食体験から「日常の楽しみ」に引き上げることができます。
福岡県のジビエレシピ集でも注目されるパン活用
福岡県でも農業・林業被害対策としてジビエ利活用が推進されており、県が作成した「ふくおかジビエレシピ集(お手軽編)」の中には、鹿肉・猪肉をサンドイッチやバーガー形式でパンと組み合わせる調理提案が掲載されています。「焼き肉として食べるだけでなく、パンに挟む食文化」をジビエの間口を広げる手段として積極的に活用している好例です。
学校給食でのジビエパン活用
農水省は令和5年3月に「学校給食等でジビエを提供する取組事例」をまとめており、その中でジビエミートを使ったコッペパンサンドやジビエカレーとパンのセット提供事例も紹介されています。子どもたちにとって親しみやすい形でジビエに触れさせることができるとして、全国の自治体が注目しています。
| 地域 | 取組内容 | 主な商品 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 石川県能登 | のとしし大作戦(合同会社のとしし団) | イノシシコロッケパン・カレーパン | 農水省 ジビエ利活用取組事例集(令和元年) |
| 福岡県 | ふくおかジビエレシピ普及 | 鹿肉・猪肉のバーガー・サンドイッチ | 福岡県 ジビエレシピ集(お手軽編) |
| 全国各地 | 学校給食でのジビエ活用 | ジビエミートコッペパン等 | 農水省 学校給食等事例集(令和5年) |
ジビエパンの種類と食べ方ガイド

カレーパン・コロッケパン|最も親しみやすいジビエパン
カレーパンとコロッケパンは、ジビエパンの中で最も広く普及しているタイプです。猪肉・鹿肉ともに赤身が多く脂質が少ないため、カレーのスパイスや揚げ衣との相性が良いのが特徴です。
猪肉のカレーパンは豚肉カレーパンに比べて旨みが深く、赤身のコクが際立ちます。一方、鹿肉のカレーパンは脂が少なくさっぱりした仕上がりで、スパイスの香りが前面に出た軽い食感が楽しめます。
食べ方のポイントは「温め直し」です。ジビエ肉は低脂質なため、時間がたって冷めると硬くなりやすい傾向があります。電子レンジで30秒(揚げタイプはトースターで2〜3分)温めることで、できたてに近い状態で楽しめます。
ジビエバーガー|都市部で増加する新形態
ジビエバーガーは、鹿肉・猪肉のパティをバンズにはさむスタイルで、都市部のカフェ・ビストロ・ジビエ専門店を中心に広がっています。一般的なビーフバーガーとの違いは以下の通りです。
1. 赤身の割合が高い: 鹿肉パティは豚・牛に比べて脂質が少なく、ヘルシー志向の消費者に支持されている
2. 独特の風味: 鹿肉特有の香りが「ジビエらしさ」を演出し、食体験の差別化になる
3. 食材のストーリー性: 「どの猟師が仕留めたのか」「どのエリアの鹿か」という情報が付加価値になる
ジビエ料理全般の種類についてはジビエの種類完全ガイドもご参照ください。
ジビエフォカッチャ・フィリングパン|素材の旨みを直接感じるスタイル
フォカッチャや包み焼きのフィリングパンは、生地との一体感を楽しむスタイルです。猪肉をローズマリー・タイム・ガーリックでマリネし、フォカッチャにトッピングして焼く方法は、猪肉の旨みとハーブの香りが融合した上品な味わいになります。
鹿肉の赤身ミンチをフィリングとして使う場合は、鹿肉特有のクセを和らげるために玉ねぎ・人参・セロリと一緒に炒め、デミグラスソースや赤ワインで風味を整えるのが定番です。
ジビエパンとチーズの組み合わせ
あまり知られていませんが、ジビエパンとチーズは非常に相性が良い組み合わせです。鹿肉と山羊チーズ(シェーブル)の組み合わせはフランス料理の伝統的なペアリングで、フォカッチャサンドに応用できます。猪肉とグリュイエールチーズを合わせたグラタンパンも、ジビエの旨みを引き立てるアレンジとして試す価値があります。
ジビエパンを通販で購入する方法
ジビエ専門の通販サイトを活用する
ジビエパン自体をそのまま通販で購入できる機会は増えています。また、ジビエの精肉・加工品を購入して自分でパンのフィリングを作ることも可能です。
ジビエ専門のECサイトでは、鹿肉ミンチ・猪肉ミンチ・猪肉角切りなど、パン調理に適した形状の製品が販売されています。農産物直売所が運営するオンラインショップや地域の獣肉加工施設のECサイトも選択肢として増えています。
通販でジビエを購入する際は、以下の点を必ず確認してください。
| チェックポイント | 確認する理由 |
|---|---|
| 農水省ジビエ衛生管理ガイドラインに準拠した処理施設の製品か | 安全なジビエを選ぶための最低基準 |
| 冷凍保管・解凍方法の指示が明記されているか | 品質維持に必要な情報 |
| 産地・捕獲時期・個体情報が表示されているか | トレーサビリティの確認 |
| 賞味期限・保存方法が明確か | 生鮮品に準じた管理が必要 |
| 加熱調理必須の表示があるか | 衛生上の最重要項目 |
詳しい通販ガイドはジビエ通販おすすめ完全ガイドをご参照ください。
産地・地域の直売所・道の駅での購入
通販以外でも、ジビエの産地である農村・山間部の「道の駅」や直売所では、地元のジビエ加工品(ソーセージ・カレーパン・コロッケ等)を購入できるケースが増えています。観光・移住の機会に地元のジビエパン文化を体験するのも、現地でしかできない貴重な体験です。全国ジビエフェア(農水省・ジビエ振興協会主催)の開催期間中は、各地のジビエ加工品を取り扱う店舗が期間限定で出店することもあります。
家庭でつくるジビエパン入門|基本レシピとポイント
鹿肉カレーパンの基本レシピ
市販の鹿肉ミンチ(通販購入または地産地消スーパー)を使って、自宅でジビエカレーパンを作ることができます。以下は基本的な作り方の手順です。
材料(4個分)
| 材料 | 分量 |
|---|---|
| 鹿肉ミンチ | 200g |
| 玉ねぎ(みじん切り) | 1/2個 |
| カレー粉 | 大さじ2 |
| ウスターソース | 大さじ1 |
| 塩・コショウ | 適量 |
| 強力粉(パン生地用) | 200g |
| ドライイースト | 3g |
| 砂糖 | 15g |
| バター | 20g |
| 牛乳(または水) | 130ml |
| 卵(仕上げ用) | 1個 |
| パン粉 | 適量 |
手順(概略)
1. 玉ねぎをオリーブオイルで炒め、鹿肉ミンチを加えて中心まで火が通るまで炒める
2. カレー粉・ウスターソース・塩コショウで調味し、フィリングを完成させて冷ます
3. パン生地を作り(強力粉・ドライイースト・牛乳・砂糖・バターをこねる)、一次発酵30〜40分
4. 生地を4等分し、フィリングを包んで成形
5. 二次発酵15〜20分
6. 卵液を塗ってパン粉をまぶし、180℃の揚げ油で揚げる(または200℃のオーブンで15分)
ポイント: 鹿肉は低脂質で加熱すると縮みやすいため、炒める際は「強火で短時間」を意識してください。フィリングにオリーブオイルやバターを少量加えると、仕上がりがパサつかずジューシーになります。
猪肉コロッケパンの作り方のコツ
猪肉を使ったコロッケパンは、猪肉のカットの仕方が仕上がりを大きく左右します。猪肉を角切り(1cm角)にしてから炒め、じゃがいもと合わせることでコロッケパンらしいボリューム感が出ます。
猪肉は事前に下処理をしっかり行うことが重要です。猪肉特有の野生臭を取り除くには、牛乳に30分浸ける方法や、しょうが・にんにくと一緒に炒める方法が効果的です。詳しくはイノシシ肉の下処理・臭み取り完全ガイドをご参照ください。
ジビエパンを作る際の衛生管理の注意点
ジビエ肉を家庭で扱う際は、必ず中心温度が75℃以上になるまで加熱することが農水省のガイドラインで定められています。生食は絶対に避けてください。E型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌(O157等)のリスクがあります。
パンに使用するフィリングは必ず事前に十分加熱し、生地に包む前に完全に冷ましてください。焼き上げの際も、フィリング部分が十分に加熱されているか確認することが大切です。詳しくはジビエの衛生管理ガイドラインをご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ジビエパンはどこで買えますか?
A1. ジビエ取扱い地域の道の駅・直売所・地元パン屋のほか、ジビエ専門の通販ECサイトでジビエ肉(ミンチ・スライス)を購入して自作することもできます。農産物直売所や一部のアウトドア系スーパーでも取り扱いが増えています。石川県能登地方の「のとしし大作戦」関連製品のように、地域特産品として道の駅等で販売されているジビエパンは特に注目です。
Q2. ジビエパンは子どもでも食べられますか?
A2. はい、適切に加熱調理されたジビエ肉を使ったパンは子どもでも問題なく食べられます。シカ肉は高タンパク・低脂質・高鉄分で、子どもの成長に適した栄養バランスを持っています。農水省は学校給食でのジビエ活用事例もまとめており、子ども向けに安全においしく提供できることが確認されています。ただし獣肉アレルギー(牛・豚・鶏などへのアレルギー)がある場合は医師に相談してください。
Q3. ジビエパンを家で作る際、衛生管理で気をつけることは何ですか?
A3. ジビエ肉は必ず中心温度75℃以上になるまで加熱することが基本ルールです(農水省ガイドライン)。フィリングは事前に完全に加熱してから生地に包み、焼成後も中心まで熱が通っていることを確認してください。生食は絶対に避けてください。E型肝炎ウイルス・腸管出血性大腸菌のリスクがあります。
Q4. 鹿肉と猪肉ではパンに使うとどちらがおいしいですか?
A4. 用途によって異なります。カレーパン・コロッケパンには猪肉のほうが脂が適度にあってジューシーな仕上がりになりやすいです。一方、ジビエバーガーや軽めのフィリングパンには鹿肉のパティがヘルシー感を演出できます。どちらも独自の旨みがあるため、比べて食べてみることをおすすめします。
Q5. ジビエパンと普通のパンでは何が違いますか?
A5. 最大の違いは食材のストーリー性と栄養価です。ジビエは野生の自然環境で育った動物の肉であり、家畜肉(牛・豚・鶏)と比べて脂質が少なく、タンパク質・鉄分が豊富です。また、獣害対策と食文化が結びついた「地域の課題解決」というストーリーを持つことが最大の独自性です。食べることが日本の農村の課題解決に直接貢献するという体験は、普通のパンにはない価値です。
Q6. ジビエパンを食べることは獣害対策につながりますか?
A6. はい、直接的につながります。捕獲した野生鳥獣をジビエとして消費することで、廃棄ゼロを目指す農水省のジビエ利活用政策を個人として支援できます。石川「のとしし大作戦」のように、地域のパン屋がジビエを使うことでイノシシの処分費用が削減され、地域農業の持続可能性にも貢献します。「食べることが獣害対策への参加」という視点はジビエ普及において核心的なメッセージです。
Q7. ジビエパンの栄養価は普通のパンより高いですか?
A7. フィリングとしてのジビエ肉の栄養価は優れています。シカ肉は牛肉の約2倍の鉄分、猪肉は豚肉の約4倍の鉄分・約3倍のビタミンB12を含んでいます(農水省データ)。ただし、パン生地自体の栄養成分はジビエの有無で変わりません。「ジビエカレーパン1個」は、タンパク質・鉄分の補給において通常のカレーパンよりも優れたフィリングを持つという点で栄養価が高いと言えます。
関連記事: 両国のジビエ料理おすすめ店ガイド|江戸「山くじら」文化300年の伝統と現代名店【2026年版】
関連記事: 大船のジビエ料理おすすめ店ガイド|鎌倉・湘南エリアの名店を徹底比較【2026年版】
関連記事: 五反田のジビエ料理おすすめ店ガイド|品川・大崎エリアの名店を徹底比較【2026年版】
まとめ|ジビエパンは「食べる獣害対策」の最前線
ジビエパン(鹿肉・猪肉を使ったパン)は、単なる変わり種グルメではなく、農水省が推進するジビエ利活用の最前線に立つ食品カテゴリーです。
- **石川「のとしし大作戦」**: 地元パン屋との連携でカレーパン・コロッケパンが地域ブランドに成長(農水省 令和元年事例集掲載)
- **福岡のジビエレシピ集**: パンという日常食でジビエの普及を促進
- **学校給食への応用**: 子どもたちがジビエに親しむ機会として全国に拡大中
ジビエパンを食べることは「野生動物の命を無駄にしない」という循環型食文化への参加です。まず自宅で作れる鹿肉カレーパン・猪肉コロッケパンのレシピから始め、週末には地域の道の駅やジビエ専門店で地産のジビエパンを探してみてください。
ジビエをもっと知りたい方はジビエとは?基礎から解説、ジビエ料理のレパートリーを広げたい方はジビエ料理総合ガイドもあわせてご覧ください。
参考情報
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」e-Stat 統計表ID: 0002119996(2026年7月確認)
- 農林水産省「ジビエ利活用の取組事例集(令和元年10月)」(maff.go.jp、2026年7月確認)
- 農林水産省「ジビエを活用した観光事例集(令和6年4月版)」(maff.go.jp、2026年7月確認)
- 農林水産省「学校給食等でジビエを提供する取組事例(令和5年3月)」(maff.go.jp、2026年7月確認)
- 農林水産省「ジビエの魅力」(maff.go.jp、2026年7月確認)
- 福岡県「ふくおかジビエレシピ集(お手軽編)」(pref.fukuoka.lg.jp、2026年7月確認)
- 農林水産省「産地でシカ・イノシシなどを捕獲し、ジビエとして流通させたり、加工品としての販売をお考えの方へ」(maff.go.jp、2026年7月確認)

コメント