東京都は、世界でも珍しい「クマが生息する首都」だ。東京都環境局の調査によると、都内の山岳地帯には約160頭のツキノワグマが生息しており、高尾山や奥多摩方面からの目撃情報は2026年に入っても増加傾向にある。その生息域に最も近い市街地のひとつが、人口約57万人を擁する東京都最大の市・八王子市だ。
「八王子でジビエが食べられるの?」と驚く方もいるかもしれない。実は八王子には、山岳地帯に隣接する地の利を生かした本格的なジビエレストランが存在している。都心部の有名店とは違う、地元に根差した「野生の美食」の文化が、この街には静かに育まれてきた。
「八王子周辺でジビエを食べたい」「東京西部でジビエの店を探している」という方に向けて、本記事では八王子エリアのジビエ飲食店を厳選して紹介する。なぜ八王子にジビエが根付いているのかという背景、各店の特徴と行き方、ジビエ初心者向けのアドバイスまで詳しく解説する。
八王子がジビエの「穴場」である理由

高尾山・多摩の山々と野生動物の接点
八王子市は東京都の西南部に位置し、面積186.31km²は東京都の市区町村の中で最大を誇る。市の南側には高尾山(標高599m)が迫り、西側は陣馬山・奥高尾の山岳地帯へとつながる。年間260万人以上が訪れる高尾山は「世界一登山者数の多い山」(諸説あり)とも言われるが、その奥には豊かな野生動物の生息域が広がっている。
東京都環境局の記録によると、八王子市は都内の中でもツキノワグマの目撃情報が特に多いエリアのひとつだ(2026年7月時点で116件以上の目撃記録)。ニホンジカやイノシシも多摩丘陵から八王子近郊の農地に下りてくることがあり、農業被害への対策も行われている。
こうした環境の中で、八王子には猟師との距離が近く、地元で捕獲・処理されたジビエを扱うルートが育ちやすい素地がある。
農水省データが示す東京のジビエ消費
農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査」(e-Stat統計表ID:0002119996)の令和5年度データによると、全国のジビエ販売量は約146万6,000kg(1,466,215kg)にのぼる。その販売先の内訳は卸売業者31.4%・飲食店27.7%・消費者直販13.1%と、飲食店向けが全体の約4分の1を占めている。
東京のような都市部での飲食店需要が全国のジビエ消費を後押ししており、新宿や銀座のような都心だけでなく、八王子のような郊外都市でもジビエを提供する飲食店が生まれている。農水省が推進するジビエ利活用政策(有害鳥獣の食肉転換による農業被害軽減)も、八王子周辺のジビエ流通を後押ししている背景にある。
有害鳥獣駆除の仕組みや報奨金制度についてはこちらの記事で詳しく解説している。
八王子のおすすめジビエレストラン一覧
八王子エリアでジビエ料理を体験できる代表的な店舗を紹介する。都心のジビエ有名店に比べると知名度は低いが、だからこそ「本物」を追求する店が残る傾向がある。
| 店名 | 場所 | スタイル | 予算(1人あたり) | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 食彩 猪鹿蝶(いのしかちょう) | 八王子駅北口徒歩8分 | ジビエ焼肉居酒屋 | 3,000〜6,000円 | 猪・鹿・馬・羊の焼肉スタイル。地元常連に愛される隠れ家 |
| 中国料理 宝龍(ほうりゅう) | 西八王子エリア | 中華料理+ジビエ | 1,000〜3,000円 | 1981年創業。大将が狩猟師という異色の中華料理店 |
食彩 猪鹿蝶(しょくさい いのしかちょう)
八王子でジビエを語るなら最初に名前が挙がる店。店名の「猪鹿蝶」は花札の役名から取られており、猪(イノシシ)・鹿・蝶(チョウ)をモチーフにしている。
スタイルはジビエ専門の焼肉居酒屋で、猪・鹿を軸に馬・羊なども提供している。野生動物の肉を焼きながら食べる体験は、都心のコース料理型レストランとはまた違う楽しさがある。金属の網の上で焼かれる猪バラ肉の香ばしい匂い、丁寧にスライスされた鹿のロースの赤み──素材の個性を直接感じられるのが焼肉スタイルの醍醐味だ。
地元の常連客に長く愛されている店で、初めて来る観光客よりも地元に住むジビエ好きが集う傾向にある。席数が多くないため、事前に電話予約を入れておくことをおすすめする。
基本情報
- 住所: 東京都八王子市中町8-9 八王子コスモビル2F
- 電話: 042-649-5318 / 042-649-5319
- 営業時間: 17:00〜23:00(不定休)
- アクセス: JR八王子駅北口よりユーロード沿いに徒歩8分
おすすめメニューの傾向
- 猪肉:脂が甘く、豚肉に近い食感で食べやすい
- 鹿肉:赤身が豊富で鉄分が多い。ジビエの入門として最適
- 馬刺し・ラム(羊):ジビエに隣接したワイルド系肉をラインナップ
中国料理 宝龍(ほうりゅう)
西八王子エリアに位置する「中国料理 宝龍」は、1981年創業の老舗中華料理店だ。一見するとごく普通の街中華に見えるが、ここが他とまったく違う一点がある。
大将自身が狩猟師である。
大将の趣味(かつ副業)が狩猟であるため、自分で仕留めたイノシシや鹿の肉を中華料理の技法で調理するという、おそらく八王子でここだけのスタイルを確立している。中華のスパイス・ソースとジビエ肉が組み合わさったとき、まったく新しい味の世界が開ける。
「猪肉ラーメン」や猪・鹿を使った炒め物は、ジビエと中華料理の意外な相性のよさを教えてくれる一皿だ。テレビ東京の番組「モヤモヤさまぁ〜ず2」でも取り上げられた実績があり、地元では知る人ぞ知る存在。
ランチ営業もしているため、日中に八王子を訪れた際にふらりと立ち寄れる気軽さも魅力だ。
基本情報
- 住所: 東京都八王子市平岡町37-5
- 営業時間: 11:00〜21:00(通し営業)
- 定休日: 月曜日
- 駐車場: 店舗裏手に2台あり
- アクセス: JR西八王子駅からアクセス(詳細は直接確認)
八王子で食べられるジビエの種類と特徴
八王子周辺で流通しているジビエ食材は、多摩地域産・北海道産・その他全国産の組み合わせが多い。東京都の山岳地帯に隣接していることから、多摩地域のイノシシや鹿が地元の飲食店に入ることもある。
| 種類 | 主な産地 | 特徴 | 調理スタイル(八王子での例) | 旬 |
|---|---|---|---|---|
| イノシシ(猪) | 多摩・愛媛・和歌山 | 甘い脂が特徴。豚に近い食感 | 焼肉・中華炒め・鍋 | 11〜2月 |
| ニホンジカ(鹿) | 多摩・長野・北海道 | 赤身が濃く鉄分豊富。脂少なめ | 焼肉・ロースト | 11〜2月 |
| エゾシカ | 北海道 | 臭みが少なく食べやすい。プロ好み | 焼肉・煮込み | 10〜3月 |
| 馬 | 熊本・長野 | 淡白で甘い。刺しで食べることも | 刺身・焼き | 通年 |
| 羊(ラム) | 北海道・ニュージーランド | 独特の香りと脂身。ジビエ隣接 | 焼肉 | 通年 |
ジビエの種類をより詳しく知りたい方はジビエの種類と特徴ガイドを参照してほしい。
東京都西部のジビエ事情──多摩産の実態と課題
多摩地域の野生動物の現状
東京都では、奥多摩・八王子・あきる野・日の出町などの山岳〜丘陵地帯でニホンジカやイノシシの捕獲が行われている。環境省の統計(鳥獣関係統計)では、東京都内での野生鳥獣捕獲頭数は毎年公表されており、シカ・イノシシともに年間数千頭規模の捕獲が実施されている。
農業被害対策として捕獲された動物のうち、ジビエとして食肉利用されるものはまだ少数派だが、農林水産省が「ジビエ利活用マスタープラン」を策定するなど、捕獲鳥獣の有効活用を促進する動きは強まっている。
八王子市内や近隣の農家でも、シカによるタケノコ・野菜の食害が報告されており、有害鳥獣捕獲の担い手として地元猟師が重要な役割を担っている。その猟師が獲った動物が、地域の飲食店でジビエとして提供されるという理想的な地産地消のサイクルが、八王子では芽吹きつつある。
「多摩産ジビエ」の可能性
多摩産のイノシシや鹿は、東京近郊の消費地まで短時間で輸送できるため、鮮度管理の面で有利だ。ジビエ食肉の品質は捕獲後の処理速度に大きく左右されるため、産地と消費地が近いことは大きなメリットになる。
現時点では多摩産ジビエの流通量は限られており、市場に出回るジビエの多くは北海道産エゾシカや九州産イノシシが中心だ。だが八王子のような地元飲食店が地産ジビエを積極的に使い始めると、産地直送の新鮮なジビエをリーズナブルに楽しめる環境が整っていく可能性がある。
八王子からのジビエ食体験──周辺エリアの情報も活用しよう
八王子でジビエを楽しんだ後、あるいはジビエ目的で東京に来たなら、周辺エリアの情報も合わせてチェックしておきたい。
東京全体のジビエ店まとめについては東京のジビエ料理おすすめ店ガイドで紹介している。
また、ジビエを自宅でも楽しみたい方や、産地から直接取り寄せたい方はジビエの衛生管理と安全な保存法ガイドが参考になる。
八王子でジビエを楽しむための実践ガイド
アクセス・行き方
八王子は新宿から京王線特急で約40分、JR中央線で約50分とアクセスしやすい。東京の西端という印象から「遠い」と感じがちだが、電車を使えば都心から1時間以内に到着できる。
「食彩 猪鹿蝶」はJR八王子駅北口から徒歩8分(ユーロード沿い)と駅近。「宝龍」は西八王子エリアのため、西八王子駅または車利用が便利。
予算感
八王子のジビエ店は都心の高級ジビエレストランに比べてリーズナブルな傾向がある。食彩 猪鹿蝶は1人3,000〜6,000円(飲み物込み)が相場で、都心のジビエ店の半額近い予算で楽しめる場合がある。宝龍の中華ランチは1,000円以下から始まり、ジビエ料理も単品で気軽に注文できる。
予約の重要性
地元の隠れ家的な店であるため、席数が限られている。特に食彩 猪鹿蝶は不定休のため、当日訪問前に電話確認を忘れずに。
よくある質問(FAQ)
Q1. 八王子はジビエが有名なのですか?
A. 全国的な知名度はありませんが、高尾山・多摩山地に近い地理的条件と、地元に猟師が存在していることから、本格的なジビエを扱う飲食店が生まれやすい環境にあります。「食彩 猪鹿蝶」のように専門性の高い店が存在しており、地元民に長く愛されてきた実績があります。
Q2. 八王子でジビエを食べるのに、最低限の予算はいくら必要ですか?
A. 「中国料理 宝龍」のようなカジュアルな店であれば、ランチで1,000〜2,000円程度からジビエ料理を体験できます。「食彩 猪鹿蝶」の居酒屋スタイルは、飲み物も含めて1人3,000〜5,000円が目安です。都心のジビエレストランより全体的にリーズナブルです。
Q3. 八王子のジビエは安全ですか?産地はどこですか?
A. 専門飲食店で提供されるジビエは、農林水産省のガイドラインに沿った衛生管理が行われた食材を使用しています。産地は北海道産エゾシカ・九州産イノシシなどが多いですが、一部の店では多摩産・関東産の地元ジビエを扱うこともあります。気になる場合はスタッフに確認してみましょう。
Q4. ジビエの臭みが心配です。八王子の店でも臭みはありますか?
A. 現代の専門店で提供されるジビエは、適切な血抜き・冷却・処理が施されているため、強い臭みはほとんどありません。特にイノシシと鹿は食べやすい部類に入ります。
Q5. ジビエを八王子から通販で購入できますか?
A. 八王子のジビエ飲食店では通販対応をしていないケースが多いですが、多摩・神奈川などの農業生産者や狩猟者が運営する通販サイトでは、多摩地域近辺のジビエを購入できる場合があります。まずはジビエ専門の通販サイトを検索してみてください。
Q6. 猟師体験や狩猟ツアーを八王子周辺でできますか?
A. 八王子近郊では狩猟体験や猟師同行ツアーを直接提供している業者は少ないですが、神奈川・山梨・埼玉などの隣接エリアでは狩猟体験プログラムを提供している団体があります。ジビエを「食べる」だけでなく「捕獲の現場」まで理解したい方には、ジビエ体験ガイドを参考にしてほしい。
Q7. 八王子のジビエ店に子どもと行けますか?
A. 「食彩 猪鹿蝶」は居酒屋スタイルのため、小さいお子様連れには向かない場合があります。「中国料理 宝龍」は街中華のため、ランチ時であれば家族連れも利用しやすい雰囲気です。事前に問い合わせると確実です。
関連記事: 新宿でジビエが食べられる店おすすめ5選|ジビエブームを牽引する街で本格野生肉を堪能
まとめ
八王子は東京の都市圏の中でも、野生動物との距離が最も近いエリアのひとつだ。高尾山・陣馬山・多摩の山々が育んだ豊かな自然が、この街にジビエ文化を根付かせてきた。
「食彩 猪鹿蝶」の焼肉スタイルと「中国料理 宝龍」の異色の中華ジビエ。どちらも都心の有名店では体験できない、地元ならではの野生肉の楽しみ方を提供している。
八王子でジビエを食べることは、多摩の自然と猟師の仕事、そして日本のジビエ文化のリアルを知る旅でもある。東京の西の端で、本物の野生の味を探してみてほしい。
ジビエの基礎知識を一から学びたい方はジビエとは何かを解説した記事をあわせて読んでほしい。
参考情報
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査 令和5年度」e-Stat統計表ID:0002119996(全国ジビエ販売量1,466,215kg・外食向け27.7%)
- 東京都環境局「東京のツキノワグマ」(都内生息数約160頭)
- 東京都環境局「令和5年度東京都ツキノワグマ目撃等情報一覧」
- 農林水産省「ジビエ利用拡大のための衛生管理に関するガイドライン」
- 農林水産省「ジビエ利活用マスタープラン」(有害鳥獣捕獲の食肉利用促進)
- 環境省「捕獲数及び被害等の状況(鳥獣関係統計)」

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