東京都内のIT企業に勤めていた42歳のエンジニアが、長野県麻績村に移住して「狩猟班」を立ち上げた——2026年8月、そんなニュースが話題を呼びました。猟友会だけでは手が回らなくなった地域の獣害対策を担うため、都市部から移住した人材が猟師として活躍しています。
猟師への転職は、「自然の中で働きたい」「食や命と向き合う仕事をしたい」という人だけでなく、深刻な担い手不足を抱える地域から強く求められています。農林水産省の調査によると、ジビエ(野生鳥獣の食肉)の販売金額は2016年度比で約1.8倍に成長し続けており、猟師の社会的価値は年々高まっています。
この記事では、猟師への転職を考えているすべての人に向けて、必要な資格・費用・収入の実態・成功するための具体的なロードマップを徹底解説します。読み終えるころには「猟師転職の全体像」と「自分に合ったルート」が見えてくるはずです。
猟師への転職が増えている3つの理由

地域からの需要が急拡大している
全国の野生鳥獣による農作物被害額は、令和4年度(2022年度)で約156億円(農林水産省調べ)。シカやイノシシによる食害が深刻な山間部では、地方自治体が猟師の確保に躍起になっています。長野県麻績村のケースのように「新しく狩猟班を作ってでも人材を確保したい」という動きは、全国各地で起きています。
都市部から移住した人材を「ガバメントハンター」として雇用したり、移住支援と猟師育成をセットにする自治体も増加中です。つまり、猟師への転職は「仕事を求めて自分から動く」のではなく「地域から招かれる」形になりつつあるのです。
ジビエ産業の成長でビジネスとして成立しやすくなった
農林水産省 野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、全国のジビエ食肉処理施設が取り扱った食肉の販売金額合計は約54億円にのぼります。シカ肉が全体の47.6%、イノシシ肉が30.4%を占め、解体処理から販売まで一貫して担う猟師+加工業者のビジネスモデルが確立されつつあります。
加工・流通・飲食店との直接契約など、猟師の収入源は多様化しています。単に「獣害対策として駆除する」だけでなく、捕獲した獣を食肉として販売することで収益を得る「猟師×ジビエ事業者」としての転職ルートが広がっています。
SNSや情報発信による猟師のイメージ変化
かつて「危険・体力仕事・田舎の高齢者がやるもの」というイメージが強かった猟師ですが、現在はSNSやYouTubeで猟師の日常を発信するコンテンツが増え、都市部の若い世代に「かっこいい・意義のある仕事」として認識されるようになっています。
環境省の調査では、20〜30代の新規狩猟者が増加傾向にあります。脱サラして移住・転職した猟師がメディアに取り上げられることで、「自分にもできるかもしれない」と考える人が増えてきているのです。
転職前に知っておくべき猟師の仕事の実態

猟師への転職を考える前に、仕事の現実をしっかり理解しておくことが大切です。イメージと現実のギャップが大きいと、転職後に「こんなはずじゃなかった」と後悔するケースも少なくありません。
猟師の仕事は「猟期」と「農閑期」で大きく異なる
日本の猟期は原則として11月15日〜翌年2月15日(北海道は10月1日〜翌年1月31日)です。狩猟ができる期間は1年のうち約3ヶ月しかありません。残りの期間は何をするのかというと、主に次の活動になります。
| 時期 | 主な活動 |
|---|---|
| 11月〜2月(猟期) | 狩猟・罠の見回り・解体・搬出 |
| 3月〜10月(農閑期) | 有害鳥獣駆除業務・農家との連携・罠のメンテナンス・ジビエ販売・副業 |
「猟期だけ猟師」では生計を立てるのは難しく、農閑期も含めた年間の収入設計が必要です。
有害鳥獣駆除が実質的な主収入になることが多い
猟師の収入の柱は、多くの場合「有害鳥獣駆除の報奨金」です。自治体や農家から依頼を受けて鳥獣を駆除し、捕獲した頭数に応じた報奨金を受け取ります。報奨金の額は自治体によって異なりますが、シカ1頭あたり3,000〜10,000円程度が相場です(都道府県・市町村による補助込みで20,000円以上になるケースも)。
| 収入源 | 収入の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 有害鳥獣駆除報奨金 | 年間50〜150万円 | 捕獲頭数・自治体によって大きく変動 |
| ジビエ販売 | 年間30〜100万円 | 処理施設との契約・直販ルートによる |
| 狩猟関連副業(ガイド・講師等) | 年間10〜50万円 | 経験・人脈次第 |
| 兼業農家・山林管理 | 年間50〜100万円 | 移住先の農地活用 |
現実的な年収の目安:初年度100〜200万円、軌道に乗れば250〜400万円程度が多いようです(ただし、地域・スキル・販路によって大きく異なります)。
猟師になるために必要な資格と費用
転職して猟師になるには、いくつかの資格取得と初期費用が必要です。
必須資格:狩猟免許
狩猟をするには都道府県が発行する「狩猟免許」が必要です。狩猟免許には4種類あり、猟師への転職を目指すなら「第一種銃猟免許(散弾銃・ライフル銃)」か「わな猟免許」の取得が現実的です。
| 免許の種類 | 使用できる猟具 | 難易度 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 第一種銃猟免許 | 散弾銃・ライフル銃 | 中(銃の所持許可も別途必要) | 4〜6万円 |
| 第二種銃猟免許 | 空気銃 | 中 | 3〜5万円 |
| わな猟免許 | くくり罠・箱罠等 | 易〜中 | 3〜4万円 |
| 網猟免許 | 網 | 中 | 3〜5万円 |
狩猟免許の取得費用(試験手数料・講習費)は1種類あたり1〜3万円程度ですが、参考書・講習会費・交通費などを合わせると4〜6万円見ておくとよいでしょう。詳しくは「狩猟免許の費用を完全解説」をご参照ください。
銃猟を目指すなら:猟銃の所持許可
散弾銃を使う場合、警察署への「猟銃の所持許可申請」が必要です。初めての銃所持許可取得には教習射撃・身元調査・住居の確認など複数のステップがあり、費用は10〜20万円、期間は3〜6ヶ月かかることが一般的です。
わな猟なら比較的早く始められる
罠(わな)による狩猟は、銃を使わないため所持許可が不要で、比較的早く実猟を始められます。転職後すぐに収入を得たい人は、わな猟免許を先に取得し、並行して銃所持許可の手続きを進めるのが効率的です。
狩猟免許の取り方を詳しく解説した記事も参考にしてください。
猟師転職の5つのルート
猟師への転職には、大きく5つのルートがあります。自分の状況・希望・スキルに合わせて選びましょう。
ルート1:自治体の移住支援×猟師育成プログラム
全国各地の自治体が、移住と同時に猟師を育成するプログラムを整備しています。移住支援金(最大100万円程度)や生活支援金と組み合わせて、実質的な「猟師修行」ができる制度です。長野・岩手・熊本・鹿児島などに先進的な事例が多いです。
メリット:生活費の補助があるため転職リスクが低い
デメリット:地域・自治体の状況に依存するため選択肢が限られる
ルート2:既存猟師のもとで修行(師匠探し)
地元の猟友会や知り合いの猟師に弟子入りし、実地で学ぶルートです。日本の伝統的な師弟関係スタイルで、現場の経験を最も早く積めます。猟友会への加入や地域のネットワークが鍵になります。
メリット:実践的なスキルを早期に習得できる
デメリット:師匠探しが難しく、地域によっては受け入れ先がない
ルート3:ジビエ加工事業者への就職×猟師免許取得
ジビエの食肉処理施設や加工会社に就職しながら、並行して狩猟免許を取得するルートです。加工・販売の知識を持ちながら猟師になれるため、ビジネスとしての猟師を目指す人に向いています。
メリット:安定した給与を得ながらスキルアップできる
デメリット:解体・加工の仕事が中心になり、狩猟の機会は限られる
ルート4:地域おこし協力隊×猟師
多くの自治体が地域おこし協力隊として猟師や有害鳥獣対策専門員を募集しています。3年間の活動期間中は月額16〜23万円程度の報酬があり、その間に狩猟スキルと地域ネットワークを構築できます。
メリット:収入が保証されており、地域に根ざした関係構築ができる
デメリット:3年後の独立に向けた計画が必要
ルート5:フリーランス猟師として独立
自ら農家・自治体と交渉し、有害鳥獣駆除の請負業者として活動するルートです。農業法人や大規模農家からの直接依頼をうけることで、高単価での駆除業務が可能です。ただし、独立には十分な実猟経験と信頼関係の構築が前提になります。
メリット:自分のペースで働ける・高収入の可能性がある
デメリット:最初は仕事の確保が難しい
転職後の収入設計と生計を立てるための戦略
猟師転職で最も重要なのは「収入を複数の柱で構成すること」です。猟期が3ヶ月しかない中で年間の生活費を確保するには、次のような収入戦略が有効です。
農家との有害鳥獣駆除契約を複数確保する
猟師転職後、まず優先すべきは農家・農業法人との有害鳥獣駆除の契約です。農閑期(猟期以外)でも罠を設置・管理して報奨金を得られます。一方的に営業するのではなく、地域農業団体や猟友会を通じた紹介が効果的です。
ジビエ販売ルートを早期に開拓する
捕獲した鳥獣の肉を食肉として販売するには、食肉処理施設(ジビエセンター)との提携や自ら施設を整備する必要があります。まずは地域のジビエ事業者と連携し、搬入先を確保することから始めましょう。シカ1頭から取れる食肉は約20〜40kg、1kgあたり1,000〜2,000円(卸値)で販売できます。
副業・兼業で収入の幅を広げる
移住先での農業・林業との兼業、猟師体験ツアーのガイド、猟師向け装備品のレビュー・ブログ、狩猟の知識を活かしたコンサルティングなど、副業の選択肢は多岐にわたります。特に近年はSNS発信から収益化する猟師も増えており、コンテンツ制作スキルを持つITエンジニア出身者にとってはアドバンテージになります。
移住と猟師転職をセットで考えるポイント
猟師への転職では、移住(または地方への拠点移転)を前提にするケースが多いです。都市部に住みながら遠方で猟をするのは現実的ではないため、猟師転職≒移住と考えておくのが正解です。
移住先の選び方
| チェックポイント | 理由 |
|---|---|
| 猟場が豊富か(山林・田畑が多い) | 実猟の機会が多い |
| 自治体の駆除補助金制度が充実しているか | 駆除収入が安定する |
| 地域の猟友会が活発か | ネットワーク構築しやすい |
| ジビエ加工施設が近いか | 食肉販売が容易になる |
| 移住支援制度が充実しているか | 転職リスクを下げられる |
自治体の移住支援については「猟師移住支援・自治体まとめ」で詳しく解説しています。
移住前に現地視察を必ず行う
移住先を決める前に、最低2〜3回は現地を訪れ、地元の猟友会や自治体担当者と直接話すことをおすすめします。SNSや移住情報サイトの情報だけでなく、現場の「生の声」を聞くことが転職成功の大きな鍵です。特に、猟場の環境・農家との関係性・ジビエ販売ルートの有無は、現地でしか確認できない重要情報です。
転職成功のためのロードマップ(1年間)
猟師転職を決意してから実際に収入を得るまでの現実的なスケジュールをまとめます。
第1フェーズ(1〜3ヶ月目):情報収集・免許取得
- 狩猟免許試験の受験申し込み(都道府県の農政担当窓口へ)
- わな猟・第一種銃猟の両方の取得を目指す
- 移住先候補の自治体へ相談・視察(地域おこし協力隊の募集確認)
- 猟友会・猟師コミュニティへの参加(SNS・移住イベント等)
第2フェーズ(4〜6ヶ月目):移住準備・現地ネットワーク構築
- 移住先の決定・住居確保
- 地元猟友会への入会申請
- 農家・自治体との有害鳥獣駆除の相談開始
- 銃猟を目指す場合:猟銃所持許可申請の開始(警察署へ)
第3フェーズ(7〜10ヶ月目):実猟練習・装備の整備
- 地元の先輩猟師のもとで罠の設置・管理を学ぶ
- 有害鳥獣駆除業務への参加(見習い期間)
- 基本的な装備一式の購入(詳細は次の記事で解説)
- ジビエ食肉処理施設との連携先を確保
第4フェーズ(11月以降:初の猟期):実猟スタート
- 11月15日の猟期開幕に向けて狩猟者登録を完了(10月末まで)
- 先輩猟師とともに巻き狩り・忍び猟・罠猟を実践
- 捕獲した鳥獣の解体・搬出を経験
- 収入の記録・確定申告の準備
猟師への転職を成功させた人に共通しているのは「現地の人との関係性を大切にする」という点です。技術は後からついてきますが、地域での信頼関係は早い段階から積み上げておく必要があります。
FAQ:猟師転職でよくある疑問
Q. 銃の使用経験がなくても猟師になれますか?
A. なれます。わな猟免許は銃を使わないため、銃の経験がなくても資格取得・実猟が可能です。銃猟を目指す場合は射撃場での教習(射撃教習)を受けることで経験を積めます。
Q. 40代・50代からでも転職できますか?
A. 十分に可能です。猟師に定年はなく、体力よりも「地域に根ざした関係構築力」や「判断力」のほうが重視されます。長野県麻績村のITエンジニア(42歳)のケースがその好例です。
Q. 家族がいる場合の移住はどうすればよいですか?
A. 家族の理解と準備が最優先です。子どもの学校・配偶者の就職状況・医療環境など、生活面の確認が不可欠です。移住後の生活費を最低1〜2年分確保しておくと安心です。
Q. 狩猟免許は何種類取っておくべきですか?
A. 転職を前提にするなら「わな猟免許」と「第一種銃猟免許」の2つを目標にしましょう。初年度はわな猟からスタートし、2〜3年目に銃猟に挑戦するのが現実的なステップです。
Q. 女性でも猟師になれますか?
A. もちろんです。近年、女性の狩猟者数は増加しており、環境省の調査でも若い女性の新規参入が増えています。猟友会によっては女性が活躍しているケースも多く、性別を理由に門前払いされることはありません。
Q. 農業との兼業は可能ですか?
A. むしろ推奨されます。猟師と農家の兼業は相互補完的で、農家側も「獣害を防いでくれる猟師が近くにいる」ことで大きなメリットを感じます。農地を借りやすく、地域との関係も深まります。
関連記事: 猟師の装備を完全解説|わな猟・銃猟別の必携アイテム・選び方・予算まとめ
まとめ:猟師転職は「地域との共創」が成功の鍵
猟師への転職は、単なる職業変更ではなく「地域や自然とどう向き合うか」を問われる人生の選択です。担い手不足が深刻な今だからこそ、都市部からの転職者が「歓迎される時代」になっています。
農林水産省のデータが示すように、ジビエ産業は成長を続けており、猟師の社会的・経済的価値は高まっています。移住支援・地域おこし協力隊・ジビエ事業者との連携など、活用できる仕組みも増えています。
最初の一歩は、狩猟免許の取得と地域の猟師コミュニティとのつながりから。「いつかやろう」ではなく、まず動き出してみることが、猟師転職の第一歩です。
猟師になるための完全ガイドも合わせてご覧ください。
参考情報
- 農林水産省「野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)」
- 環境省「鳥獣関係統計」(令和4年度版)
- 信濃毎日新聞「麻績村に狩猟班が新設 東京から移住の元ITエンジニア42歳が奮闘」(2026年8月19日)
- 農林水産省「有害鳥獣捕獲に係る報奨金制度の状況について」
- 各都道府県猟友会 公式情報


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