2026年7月——秋田県内25市町村のうちガバメントハンターを採用しているのは3自治体のみ。6割の自治体が「採用意向なし」と回答した——。FNNプライムオンラインの報道(2026年7月25日)が明らかにしたこの数字は、クマ被害が過去最悪水準で続くなかで「公務員ハンター」制度の普及がいかに遅れているかを如実に示している。
シカ・イノシシ・クマによる農業被害・人身被害は毎年増加の一途をたどっているにもかかわらず、その対応の担い手である猟師の高齢化・減少は止まらない。狩猟者の実猟人口は実質10万人以下とされ、シカ半減目標(2028年延長)の達成も危ぶまれている(農林水産省・環境省)。鳥獣害対策に投じられる国家予算は年間約99億円規模に上るにもかかわらず、人手不足が現場の大きな制約になっている。
そのなかで注目を集めているのが「ガバメントハンター」という公務員職の制度化だ。自治体が狩猟免許を持つ専門職員を正式採用し、有害鳥獣の捕獲・管理を本業として担わせるこの仕組みは、担い手不足解消の切り札として期待されている。
本記事では、ガバメントハンターの仕事内容・採用条件・給与・全国の導入事例・将来展望を、猟人編集部が徹底解説する。「猟師を本業として安定した収入を得たい」「有害鳥獣対策の仕事に就きたい」という人に特に読んでほしい。
ガバメントハンターとは何か

基本的な定義
ガバメントハンターとは、狩猟免許(主に第一種銃猟)を所持した公務員として、野生鳥獣の捕獲・管理業務を本務とする専門職のことを指す。英語でGovernment Hunter(政府・自治体認定のハンター)を意味する。
民間の猟師が猟期(11月15日〜翌年2月15日等)に自主的・有償で駆除を担うのとは異なり、ガバメントハンターは自治体の正職員または会計年度任用職員として年間を通じた業務に従事する。「狩猟」が副業・ボランティアではなく、公務員としての本業になるという点が最大の特徴だ。
なぜ今ガバメントハンターが必要なのか
日本では鳥獣保護管理法に基づき野生鳥獣の保護と管理が行われてきた。しかし、シカ・イノシシ・クマといった獣種の個体数増加と、これに対応すべき猟師の高齢化・減少が同時進行し、深刻なミスマッチが生じている。
| 課題 | 最新データ・状況 |
|---|---|
| 狩猟者の担い手不足 | 実猟人口は実質10万人以下(農水省・環境省) |
| 農業被害額 | 鳥獣害による農作物被害は年間約155億円(農水省令和4年度) |
| クマによる人身被害 | 2024年度は記録的な水準。過去最悪を更新 |
| シカ個体数目標 | 半減目標が未達成のまま2028年に延長 |
| 鳥獣対策予算 | 国家予算は年間約99億円規模で継続投下 |
| ジビエ市場の成長 | ジビエ販売金額が7年で1.8倍(農水省令和5年度調査) |
農林水産省の令和5年度ジビエ利用状況調査(e-Stat統計表ID: 0002119974)では、全国のジビエ販売額は54億円で、そのうち食肉が81.5%を占める。捕獲した鳥獣の食肉活用まで一気通貫で担える専門職員の配置は、ジビエ産業の振興という観点からも意義が大きい。
2025年の制度的転換点:緊急銃猟制度の施行
2025年9月、改正鳥獣保護管理法が施行され「緊急銃猟制度」が導入された。これにより、人身被害が発生またはそのおそれがある場合に、市町村長の判断・指示のもと委託を受けたハンターが夜間・市街地など通常禁止されている場面でも緊急に猟銃を使った捕獲を行えるようになった。
この制度は、専門的知識と経験を持つガバメントハンターの重要性をさらに高めた。一般の猟師ボランティアでは対応が難しい複雑な緊急対応を、専門職員として訓練されたガバメントハンターが担うことが想定されているからだ。
ガバメントハンターの仕事内容

ガバメントハンターの具体的な業務は自治体によって異なるが、主要な職務内容は以下のとおりだ。
| 業務区分 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 日常的な捕獲活動 | シカ・イノシシ・クマの捕獲(銃・罠の設置・管理・回収) |
| 緊急対応 | 市街地・農地への出没時の緊急捕獲支援(緊急銃猟制度の活用) |
| 技術指導 | 地域の猟師・農家・自治体職員への技術的助言と研修 |
| 調査・モニタリング | 野生動物の生息状況調査・個体数推定・カメラトラップ運用 |
| 農業被害防止対策 | 電気柵・防護柵の設置指導・維持管理支援 |
| 行政連携 | 環境省・農水省・都道府県との連絡調整・報告書作成 |
| ジビエ活用 | 捕獲した鳥獣の食肉利用・ジビエ処理施設との連携 |
特に「技術指導」と「調査・モニタリング」は、民間の猟師では担いにくい業務だ。公務員ならではの立場(中立性・継続性・法的権限)が、地域の鳥獣管理を体系的に支える柱となる。有害鳥獣駆除の報奨金制度と組み合わせることで、自治体が捕獲活動にかかるコストを抑制しながら成果を上げる仕組みが機能する。詳しくは有害鳥獣駆除の報奨金はいくら?都道府県別一覧と申請方法を参照されたい。
ガバメントハンターの1日のモデルスケジュール
長野県小諸市(全国先駆けのガバメントハンター採用自治体)の事例をもとに作成したモデルだ。
- 08:00 出勤・業務連絡(農家や地域住民からの出没報告確認)
- 09:00 罠の見回り(設置した箱罠・くくり罠の状況確認)
- 10:30 捕獲個体の処理(止め刺し・解体・処理施設への搬送)
- 12:00 昼休憩
- 13:00 農家への被害防止指導(柵設置の相談・現地確認)
- 15:00 生息状況調査(フィールドでの痕跡調査・カメラトラップ確認)
- 16:30 記録整理・報告書作成・翌日の業務計画
- 17:15 退勤
緊急出動がある日は、通常業務を中断して対応することもある。正規職員の場合は時間外手当が支給されるケースが多いが、会計年度任用職員では条件が異なる場合がある。天候や季節によって業務の比重は大きく変わり、秋冬の猟期には捕獲活動が主業務となる。
全国のガバメントハンター採用状況
先駆例:長野県小諸市
長野県小諸市は2011年に全国で初めてガバメントハンターを採用した先駆的な自治体だ。当時は農業被害増加とハンター不足が深刻化しており、市職員に狩猟免許を取得させ専門チームを組成するという先進的な判断が下された。
FNNプライムオンラインの報道によると、小諸市モデルのメリットとして現場から挙げられるのは主に3点だ。
1. 専門的知識の蓄積:年間を通じて野生動物を管理することで、生息動向・行動パターンの知識が深まる
2. ハンター目線の行政:「捕る側」の視点が施策に組み込まれ、机上の計画で終わらない現実的な対応が可能になる
3. 捕獲までの流れがスムーズ:報告→判断→出動の意思決定が庁内で完結するため、迅速に対応できる
2025年には「全国ガバメントハンター協議会」が小諸市で初会合を開くなど(信濃毎日新聞報道)、「長野モデル」の全国展開が本格的に議論されている。小諸市では現在、複数名体制でガバメントハンターチームを運営しており、後継者育成にも着手している。
秋田県の現状:3自治体のみが採用
2026年7月25日のFNNプライムオンライン報道が明らかにした最新状況によると、秋田県内25市町村のうちガバメントハンターを採用しているのは秋田市・鹿角市・東成瀬村の3自治体のみ(全体の12%)。6割の自治体が採用意向なしと回答しており、導入の壁として以下が挙げられている。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 人材確保の困難 | 銃猟免許所持者の絶対数が少なく、公務員として採用できる人材が見つからない |
| 銃管理の問題 | 庁舎内での猟銃の保管・管理には特別な設備・規定が必要 |
| 予算制約 | 専門職員を確保・維持するためのコスト負担が課題 |
| 制度の不確実性 | 緊急銃猟制度が始まったばかりで運用実績が蓄積されていない |
一方、秋田市では2025年に県職員として初のガバメントハンターを採用(秋田テレビ報道)。麻酔対応などクマ出没時の補助的な支援を担う形で、新制度の先行事例として注目を集めた。
北海道の取り組み
北海道では「指定管理鳥獣対策専門員」という名称でガバメントハンターに相当する職員募集を行っている(北海道環境生活部自然環境局公告)。採用条件には第一種銃猟免許・普通自動車免許に加え、ヒグマの銃による捕獲経験が求められる場合がある。ヒグマは北海道にしか生息しないため、北海道固有の専門要件として設定されている。
群馬県の先進的な受験制度
群馬県は2025年、狩猟免許試験においてガバメントハンター受験枠を設置した(群馬県自然環境課)。自治体が採用を前提とした候補者を推薦し、優先的に試験を受けられる仕組みを整備することで、採用側と受験者双方の負担軽減を図っている。採用が決まってから免許を取得するというルートが制度化された点で画期的な取り組みだ。
採用条件と必要資格
ガバメントハンターへの採用を目指す場合、一般的に以下の要件が求められる。
| 要件区分 | 内容 |
|---|---|
| 必須資格 | 第一種銃猟免許(網・わな猟免許も有利) |
| 運転免許 | 普通自動車免許(AT限定可のケースもあるが、MT推奨) |
| 実績・経験 | 実猟経験・捕獲実績(自治体によって重視度が異なる) |
| 体力・健康 | フィールドワーク・重量物運搬に耐える体力 |
| コミュニケーション | 農家・地域住民・行政機関との折衝能力 |
| 年齢 | 各自治体の公務員採用年齢制限に準じる(一般的に59歳以下) |
重要な注意点として、ガバメントハンターは一般的な公務員採用試験(筆記・面接)を経て採用される場合が多い。狩猟の腕だけでなく、公務員としての基本的な資質(文書作成・法令遵守・住民対応など)も評価の対象となる。
狩猟免許の取得方法については狩猟免許の取り方・申請から合格まで完全ガイドを、公務員身分のまま猟師活動ができるかについては公務員でも猟師になれる?副業規制と3つのルートを徹底解説を参照してほしい。
給与・待遇の実態
具体的な給与額は自治体・雇用形態によって大きく異なるため一概には言えないが、以下を参考の目安とされたい。
| 雇用形態 | 給与水準の目安 | 主な福利厚生 |
|---|---|---|
| 正規職員(正職員採用) | 一般的な地方公務員の初任給基準(月給約18〜22万円・自治体による) | 社会保険・共済年金・退職金あり |
| 会計年度任用職員(フルタイム) | 条例に基づく報酬(一般非常勤職員と同水準) | 期末手当・勤勉手当あり・退職手当は任期次第 |
| 会計年度任用職員(パートタイム) | 時給制(各自治体の条例による) | 勤務時間次第で社会保険対象 |
正規職員として採用された場合は、一般的な地方公務員と同等の待遇(各種手当・退職金・共済組合加入)が保障される。一方で多くの自治体では現状、会計年度任用職員として非常勤採用するケースが多く、待遇面での安定性は正規採用に比べると低くなる場合がある。
危険業務の性質上、特殊勤務手当が加算されるケースも存在する。猟師の収入全般については猟師の年収・リアルな収入事情を徹底解剖も合わせて確認されたい。
ガバメントハンターになるためのロードマップ
「将来ガバメントハンターとして働きたい」という人向けに、現実的なステップをまとめた。
Step 1:わな猟免許の取得から始める(目安:3〜6ヶ月)
まずわな猟免許を取得し、実猟経験の第一歩を踏み出す。わな猟は比較的取得しやすく(合格率70〜80%台)、実際の猟師活動を経験する入門として最適だ。
Step 2:猟銃所持許可・第一種銃猟免許の取得(目安:約1年)
ガバメントハンターの核心は銃猟だ。猟銃所持許可は都道府県公安委員会の審査・教習・試験を経て取得する必要があり、申請から所持まで約1年を要する。教習射撃・審査・試験の全工程を計画的に進めることが重要だ。
Step 3:実猟経験の蓄積(目安:2〜5年)
猟友会に加入し、ベテラン猟師に師事しながら実猟経験を重ねる。捕獲実績(何頭捕獲したか)・止め刺し・解体技術・罠の管理など、現場で身につく技術は採用審査でも重視される。
Step 4:自治体の求人情報を継続的に収集する
総務省・農林水産省・環境省・各都道府県・市区町村のウェブサイト、ハローワーク、「緑の雇用」等の情報を定期的にチェックする。「指定管理鳥獣対策専門員」「有害鳥獣対策専門員」「鳥獣被害対策実施隊員」などの名称で公募されることもある。
Step 5:採用試験・面接の対策
公務員採用試験(教養試験・面接)の対策を行う。鳥獣保護管理法・有害鳥獣対策・環境行政の知識があれば専門試験・面接で有利に働く。
| ステップ | 目安期間 |
|---|---|
| わな猟免許取得 | 3〜6ヶ月 |
| 猟銃所持許可・銃猟免許 | 約1年 |
| 実猟経験の蓄積 | 2〜5年 |
| 自治体採用試験・採用 | 公募から3〜6ヶ月 |
ガバメントハンターの将来性
国の財政支援が拡充の方向
環境省は2026年度以降の予算措置として、ガバメントハンター採用に向けた交付金制度の整備を検討している。「都道府県での専門人材雇用」「緊急銃猟実施対応実務者の育成」「市町村での専門人材配置」という3事業が新規要素として盛り込まれており、国の財政的支援が拡充されれば採用意向がある自治体での導入障壁が大幅に下がる可能性がある。
担い手不足の深刻化が「希少価値」を生む
狩猟者の高齢化と減少は今後も続く見通しであり、実猟技術を持つ人材の市場価値は上がり続ける。ガバメントハンターという「公務員ハンター」のポジションは、技術と安定を両立できる数少ない選択肢として注目度が高まっている。
猟師の後継者不足の深刻な現状については猟師の後継者不足はなぜ起きる?担い手募集の最前線と解決策で詳しく解説している。
移住・地方創生との接続
ガバメントハンターの採用は地方の農山村自治体が主体となるため、猟師移住・地域おこし協力隊との親和性が高い。実際、有害鳥獣対策を担うことを目的とした地域おこし協力隊の公募は全国で増加しており、ガバメントハンター的な役割を担う事例もある。猟師として移住を検討する際のルートとして猟師移住・自治体支援制度の完全ガイドも参考にしてほしい。
よくある質問(FAQ)
Q. ガバメントハンターの求人はどこで探せますか?
A. 各自治体(市区町村・都道府県)の公式ウェブサイト、ハローワーク、農林水産省・環境省のポータルサイト、「林野庁 緑の雇用」等で公募される。「有害鳥獣対策専門員」「指定管理鳥獣対策専門員」「鳥獣被害対策実施隊」などの名称で掲載されることもあるため、複数のキーワードで定期検索することをすすめる。
Q. 猟銃を庁舎に持ち込んで保管できますか?
A. 自治体によって異なる。庁舎内に専用の保管設備(銃器保管庫)を設置するケースもあれば、職員が自宅保管するケースもある。銃刀法および各都道府県公安委員会の指導に基づく手続きが必要だ。採用前に自治体の担当部署に確認することをすすめる。
Q. わな猟免許だけでもなれますか?
A. 自治体によってはわな猟専門員として採用しているケースもある。しかし多くのガバメントハンター職は緊急対応も想定するため、第一種銃猟免許の所持を採用条件とする場合が多い。わな猟免許は付加資格として評価される。
Q. 女性でもガバメントハンターになれますか?
A. なれる。性別による制限はない。近年、女性猟師の増加を背景に女性のガバメントハンター候補者も増えている。体力要件を満たし必要な資格を持っていれば、応募資格に性別制限はない。
Q. 給与は一般公務員と同じですか?
A. 正規職員として採用された場合、原則として一般職員と同じ給与表が適用される。危険手当・特殊勤務手当が加算されるケースもある。会計年度任用職員の場合は条例に基づく別の報酬体系となる。詳細は採用先の自治体に確認すること。
Q. 今から目指すには何から始めればいいですか?
A. まず「わな猟免許の取得」から始めることをすすめる。その後、猟友会での実猟経験を積みながら第一種銃猟免許の取得を目指す。並行して、居住または希望する地域の自治体がガバメントハンターを採用しているか・採用予定があるかを確認しておくと、スムーズにキャリアプランを立てられる。
関連記事: 浅草でジビエを食べる【2026年版】雷門そばで楽しむ野生食文化と厳選レストランガイド
まとめ:ガバメントハンターは「猟師×公務員」の最前線
ガバメントハンターとは、狩猟技術と公務員としての安定性を両立する、今の日本で数少ない「野生動物管理の専門職」だ。秋田県の最新調査が示すように全国的な普及はまだ道半ばだが、国の制度整備・財政支援の拡充・クマ被害の深刻化という3つの追い風が、2026年以降の急速な拡大を示唆している。
長野県小諸市という先進事例が証明したように、ガバメントハンターは「猟師でいることが本業になる」というリアリティを持った職業だ。現在の担い手不足の時代において、その希少価値は増し続けている。
「猟師になりたいが収入面が不安」「有害鳥獣対策に携わる仕事がしたい」というあなたにとって、ガバメントハンターは検討に値するキャリアパスの一つだ。まずは狩猟免許の取得から始めてみよう。
参考情報
- FNNプライムオンライン「進まぬ『ガバメントハンター』採用 秋田県内25市町村中3自治体のみ クマ被害深刻化でも6割が採用意向なし」(2026年7月25日報道)
- 秋田テレビ(Yahoo!ニュース経由)「県職員初の『ガバメントハンター』採用 麻酔対応などクマ出没時の補助的な支援担う 秋田」(2025年報道)
- 信濃毎日新聞「『全国に先駆け長野モデル確立を』ガバメントハンター協議会が小諸市で初会合」
- NBS長野放送「クマ被害が深刻化 『緊急銃猟制度』で注目の『公務員ハンター』 全国で先駆けの長野・小諸市」
- 北海道環境生活部自然環境局「指定管理鳥獣対策専門員(ガバメントハンター)の募集について」
- 群馬県自然環境課「銃猟免許試験におけるガバメントハンター受験枠の設置について」(2025年)
- 農林水産省「令和5年度 ジビエ利用状況調査結果」— e-Stat 統計表ID: 0002119974
- SOMPOインスティチュート・プラス「アーバンベア対応の新たな転換点〜ガバメントハンターは『銀の弾丸』か〜」(2025年10月)


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