「猟師になりたいけど、実際の生活がイメージできない」
狩猟に興味を持った多くの人が、最初にぶつかる壁がこれだ。ネット上の情報はキラキラした体験談か、逆に「専業では食えない」という極端な否定論に二分されていて、実態がつかみにくい。
農林水産省の野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)によると、国内のジビエ販売額は54億円(約5,400百万円)に達し、2016年比で約1.8倍に成長している。シカだけで全搬入量の79.3%を占め、業界は着実に拡大中だ。一方で、狩猟者数は長期的な減少傾向にあり、担い手不足が続いている。
この記事では、猟師の生活を「1日の流れ」「年間サイクル」「収入の実態」「コミュニティ」という4つの軸で整理する。猟師志望者が「自分がこの生活を送れるか」を具体的に判断できる情報を届けることを目的としている。
猟師の生活とは?まず全体像を把握する
猟師の生活を理解するうえで、最初に押さえるべき前提がある。それは「猟師という職業は、単一の働き方ではない」という事実だ。
猟師は大きく3つのタイプに分けられる。
| タイプ | 主な収入源 | 特徴 |
|---|---|---|
| 副業・兼業猟師 | 本業(会社員・農家等)+狩猟 | 猟期だけ狩猟。週末ハンターが多数 |
| 委託型猟師 | 有害鳥獣駆除の行政委託 | 年間を通じて自治体と契約。安定収入あり |
| 専業猟師 | 駆除委託+ジビエ販売+観光等 | 複数収入源を組み合わせる。少数派 |
どのタイプを目指すかによって、生活スタイルは大きく変わる。多くの人が最初は副業・兼業からスタートし、経験を積みながら委託型へ移行する。
また、猟師の生活には「猟期」と「非猟期(オフシーズン)」という明確な区分がある。この季節の区切りが、猟師の年間スケジュールを決定的に左右する。
- 猟期(本州・九州・四国): 毎年11月15日〜2月15日(約3ヶ月間)
- 猟期(北海道): 毎年10月1日〜1月31日
- 有害鳥獣駆除: 通年(知事の許可が必要)
猟期の3ヶ月が猟師にとっての「ハイシーズン」であり、残りの9ヶ月は有害鳥獣駆除や農作業、狩猟具の整備、技術習得などに充てられる。この非猟期の過ごし方が、猟師としての実力と収入を大きく左右する。
詳しいキャリアパスについては猟師になるには?完全ガイドも参照してほしい。
猟師の1日の生活パターン(猟期中)
猟師の1日は、一般的なサラリーマンとは根本的に異なる。自然のリズムと動物の行動パターンに合わせた「早朝スタート・昼過ぎ終了」のサイクルが基本だ。
わな猟師の1日(猟期中の典型例)
| 時間 | 行動 |
|---|---|
| 5:00〜5:30 | 起床。天候・気温・風向きを確認 |
| 5:30〜6:30 | 猟場へ移動。軽食を車中で済ませることも多い |
| 6:30〜10:00 | わな(くくり罠・箱罠)の見回り。掛かっていれば止め刺し・搬出 |
| 10:00〜12:00 | ジビエ処理施設への搬入・解体作業 |
| 12:00〜13:00 | 帰宅・昼食 |
| 13:00〜16:00 | 罠の再設置・修理・記録作業。ジビエ販売の手配も |
| 16:00〜18:00 | 家事・農作業(兼業の場合)や休息 |
| 18:00〜21:00 | 夕食・情報収集・猟友会員との交流 |
| 21:00〜 | 就寝(翌朝に備えて早寝が基本) |
銃猟師(忍び猟・巻き狩り)の場合
銃猟師の場合、早朝の「薄暗い時間帯」が最も重要だ。シカやイノシシが活発に行動するのは夜明け前後と夕暮れ時で、この時間帯に山に入ることが多い。
- 夜明け前(4〜5時)に猟場入り
- 日の出から2〜3時間が勝負
- 獲物を仕留めた場合は即座に解体・搬出
- 午後は整備・記録・情報共有に充てる
巻き狩り(複数人での組織的な狩猟)では、事前の打ち合わせと配置確認が欠かせない。参加者の安全確保と役割分担が成果を左右する。
詳しいスケジュールについては猟師の1日のスケジュール完全解説を参照してほしい。
体験談:猟師の朝は「読む」ことから始まる
現役猟師の多くが口を揃えるのが「天気と動物の行動を読む力」の重要性だ。前日の気温・降水量・風向き・月の満ち欠けなどから、獲物がどこに集まっているかを推測する能力は、何年もの経験の積み重ねから培われる。猟師の朝は、山に入る前から始まっているのだ。
猟師の年間サイクル(4つのフェーズ)
猟師の生活を理解するうえで最も重要なのが、この年間サイクルだ。猟期の3ヶ月だけでなく、残り9ヶ月の過ごし方が猟師としての成長と収入を決める。
フェーズ1:猟期(11月〜2月)
猟師にとっての本番。週5〜6日、早朝から山に入る。
主な活動:
- わな猟・銃猟による野生鳥獣の捕獲
- ジビエ処理施設への搬入と解体
- 猟友会での情報共有・組織行動(巻き狩り等)
- 狩猟者登録の手続き(例年11月に更新)
収入の面では: 猟期中は報奨金収入とジビエ販売収入が集中する時期。わな猟師が1日に複数頭を捕獲するケースもあり、最も稼げる季節でもある。
フェーズ2:有害鳥獣駆除シーズン(通年・特に3月〜10月)
猟期が終わっても、有害鳥獣駆除は続く。農家の田植えが始まる春から収穫期の秋にかけて、シカやイノシシによる農作物被害が深刻化するためだ。
自治体や農家から駆除の依頼を受けた猟師は、知事許可のもとで捕獲活動を行う。捕獲1頭あたりの報奨金は地域差が大きく、シカで8,000〜27,000円/頭という幅がある(高知県仁淀川町が全国最高水準の一つ)。
有害駆除で収入を安定させるには:
- 自治体・農協・猟友会とのネットワーク形成が不可欠
- 捕獲実績を積み上げることで次年度の委託に繋がる
- 報奨金以外にジビエ販売権を獲得することで収入を上乗せできる
フェーズ3:整備・準備期(6月〜10月)
夏から秋にかけては、猟師にとっての「仕込み」の季節だ。
主な活動:
- 猟銃・わなの点検・修理・更新
- 猟場の下見(藪の状況・動物の足跡・フン・食痕の確認)
- 射撃練習(銃猟師は義務)
- 狩猟免許更新(3年ごと)
- 猟友会での勉強会・交流
この時期に猟場の地形と動物の行動パターンを把握しておくことが、猟期の成果を大きく左右する。
フェーズ4:農業・林業・副業との組み合わせ
猟師の多くは、猟だけで生計を立てているわけではない。農業・林業・観光業・飲食業などと組み合わせた「複合生業」が現実だ。
| 組み合わせ例 | 概要 |
|---|---|
| 猟師×農家 | 農閑期に猟、農繁期は農業。農地防衛も兼ねて効率的 |
| 猟師×林業 | 山での活動が重なる。木材収入+駆除委託 |
| 猟師×ジビエ事業 | 捕獲した肉の処理・販売・飲食店経営まで一気通貫 |
| 猟師×自治体職員 | ガバメントハンターとして公務員と猟師を兼業 |
新しい形として注目を集めているのが「ガバメントハンター」という働き方だ。自治体に雇用された公務員猟師で、安定した給与と引き換えに有害鳥獣対策の最前線を担う。2026年8月時点で全国各地の自治体が採用を進めており、猟師のキャリアの新たな選択肢として注目されている。
猟師の収入と生活費の実態
猟師の収入は「いくら稼げるか」ではなく「どう稼ぐか」が問いの本質だ。収入源が多様なため、単純な年収比較は意味をなさない。
収入源の種類と金額感
| 収入源 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 有害鳥獣駆除の報奨金 | 8,000〜27,000円/頭(シカ) | 地域差大。自治体との契約が必要 |
| 駆除委託料(行政) | 月10〜25万円 | ガバメントハンター・地域おこし協力隊等 |
| ジビエ販売 | 1頭あたり1万〜5万円(鹿) | 処理施設・販売先との契約による |
| 狩猟目的での捕獲 | 0〜数十万円 | 販路があれば高収入も可能 |
| 農業・林業収入 | 組み合わせによる | 多くの猟師が副収入として活用 |
猟師タイプ別の年収モデル
農林水産省統計とジビエ市場データ、実際の猟師へのヒアリングをもとに試算した目安を示す。
副業・週末猟師の場合:
- 有害駆除報奨金: 年間20〜80万円
- ジビエ販売: 年間10〜50万円
- 合計目安: 年間30〜130万円(本業収入は別)
委託型猟師の場合:
- 年間を通じた駆除委託: 150〜240万円
- ジビエ販売や副業: 50〜100万円
- 合計目安: 年間200〜340万円
専業猟師(フル回転)の場合:
- 委託+ジビエ+観光体験等: 280〜500万円以上
- 販路開拓・加工販売に積極投資した場合は上振れも
詳しい年収分析は猟師の年収リアル事情を参照してほしい。
生活費と猟師暮らしの経済性
猟師は住居費の安い農山村に暮らすケースが多い。食費の一部を自分で獲った肉で賄えること、農地や山林があれば野菜も自給できることなど、貨幣経済に依存しない生活コストの低さが特徴だ。
- 農山村での家賃: 2〜6万円/月が相場(都市部の半分以下)
- 自給率が高い生活スタイル: 肉・野菜の自給で食費を大幅削減
- 初期投資: 狩猟免許・猟銃・わな・車両等で50〜150万円程度
「都市部で年収500万円の生活」と「農山村で年収250万円の猟師生活」では、可処分所得と生活の豊かさが必ずしも前者に軍配が上がらないことを理解しておきたい。
猟師のコミュニティと人間関係
猟師の生活において、「つながり」は収入と同じくらい重要な資産だ。孤独に山を歩くイメージがあるかもしれないが、現実の猟師社会は密接な人間関係のネットワークで成り立っている。
猟友会という組織
日本の猟師のコミュニティの核となるのが「猟友会」だ。市町村・都道府県単位で組織される任意団体で、情報共有・技術向上・有害鳥獣対策の中心的役割を担う。
猟友会で得られるもの:
- 猟場・獲物の情報(どこに何がいるか)
- 巻き狩りのチームへの参加機会
- 有害鳥獣駆除の委託情報
- ベテランからの技術指導
- 狩猟保険への加入(猟友会経由が一般的)
入り方や具体的なメリットは猟友会の入り方・メリットを徹底解説を確認してほしい。
地域コミュニティとの関係
農山村に暮らす猟師は、地域コミュニティと深く結びついている。農家から「裏山のシカが増えた」と相談を受けて駆除に出動することは日常茶飯事だ。猟師の存在が地域の農業を守っている側面は大きく、地元での信頼と感謝の源となっている。
一方で、銃器の扱いや獲物の解体作業など、猟師特有の活動に対する周囲の理解を得ることが課題になるケースもある。近隣住民への丁寧な説明と安全管理の徹底が、良好な関係を維持するうえで欠かせない。
SNSとオンラインコミュニティの台頭
近年、YouTubeやInstagram、X(旧Twitter)での発信を通じて、猟師同士が全国でつながる文化が広がっている。都市部の会社員が地方の猟師と交流し、共同で猟に出るケースも増えた。猟師人口が減少する中で、オンラインコミュニティが担い手確保の新たな回路になりつつある。
現代の猟師が選ぶ3つの生き方
猟師の生活スタイルは多様化している。かつての「山里で代々受け継ぐ猟師」という像から、現代の猟師は3つの方向へ進化している。
生き方1:週末ハンター(副業型)
会社員・公務員・農家などの本業を持ちながら、猟期の週末に狩猟を行うスタイル。初心者が最もハードルを低く始められる。週末猟師として経験を積み、徐々に有害駆除の委託を受けるようになる人も多い。
生き方2:地域おこし協力隊×猟師
移住希望者の間で人気が高いのがこのルートだ。農山村に移住し、地域おこし協力隊として月16〜23万円の給与を受けながら、猟師としてのスキルを磨く。任期(最大3年)終了後に独立するパターンが多い。
生き方3:ジビエ事業家型
捕獲→解体→加工→販売→外食という一連の流れを自ら手がける6次産業化猟師。農水省によれば、国産ジビエ認証を取得した食肉処理施設は年々増加しており、生産者として直接消費者に届けるモデルへの関心も高まっている。
猟師から事業家へのキャリアチェンジについては猟師への転職・キャリアチェンジ完全ガイドでも詳しく解説している。
FAQ:猟師の生活でよくある疑問
Q1. 猟師だけで生活できますか?
完全な専業猟師として生計を立てている人は少数です。ただし、有害鳥獣駆除の委託契約やジビエ販売、農林業との組み合わせで年収250〜400万円程度を実現している事例は増えています。住居費の安い農山村での暮らしと自給率の高いライフスタイルが鍵です。
Q2. 猟師の休みはいつですか?
猟期中(11月〜2月)は週5〜6日の活動が多く、休日は少なめです。一方、オフシーズンの3〜10月は有害駆除対応以外の時間は比較的自由で、農業や旅行に充てる猟師も多くいます。
Q3. 猟師の生活に必要な資格・免許は?
最低限必要なのは「狩猟免許」(わな猟または第一種・第二種銃猟)と「狩猟者登録」です。銃猟の場合は別途「猟銃所持許可」が必要です。有害鳥獣駆除の委託を受けるには猟友会への加入と実績が求められます。
Q4. 猟師の生活で体力的に大変なのはどの作業ですか?
「山岳地帯での獲物の搬出」が最も体力を要する作業として挙げられます。鹿1頭で46kg、イノシシ1頭で37kgが平均重量(農水省令和5年度データ)。傾斜地を担いで下山する作業は、相当な体力と慣れが必要です。
Q5. 猟師と一般の会社員では、どちらが生活の自由度が高いですか?
一概には言えませんが、猟師(特に自営の場合)は時間の自由度が高い反面、収入の安定性は低い傾向があります。委託型やガバメントハンターは安定収入がある代わりに行動に制約が生じます。どちらが合うかは個人の価値観次第です。
Q6. 女性でも猟師として生活できますか?
はい。近年は女性猟師が増加しており、特にわな猟分野では体力差が生じにくいことから参入しやすい環境が整いつつあります。猟友会や猟師コミュニティへの女性参画も拡大中です。
Q7. 猟師は移住しないとなれませんか?
必ずしもそうではありません。都市近郊の里山でも狩猟は可能で、週末ハンターとして都市部に住みながら猟を続けている人も多いです。ただし、専業を目指すなら農山村への移住が現実的です。
関連記事: 道の駅でジビエを食べる!全国おすすめスポット15選と賢い楽しみ方ガイド【2026年版】
まとめ:猟師の生活は「選べる時代」に入っている
猟師の生活は、かつての「専業・地方・代々継ぐ」という固定モデルから大きく変化した。週末ハンター、地域おこし協力隊×猟師、ガバメントハンター、ジビエ事業家——選べる生き方は確実に多様化している。
農水省のデータが示すジビエ市場の拡大(7年で1.8倍)や、東京都クマ狩猟解禁(2027年度予定)に象徴される社会的需要の高まりを見れば、猟師という職業の将来性は決して悲観的ではない。
猟師の生活に興味を持ったなら、まずは猟師の仕事内容を徹底解説した記事や猟師数・担い手の推移レポートで業界の現状を把握するところから始めてほしい。
参考情報
- 農林水産省 野生鳥獣資源利用実態調査(令和5年度)— ジビエ食肉処理施設の解体実績・販売金額
- 農林水産省 有害鳥獣の捕獲等に関する調査 — 報奨金の地域別データ
- 環境省 鳥獣の保護及び管理に関する法律(鳥獣保護管理法)— 猟期に関する規定
- 広島県公式ウェブサイト「狩猟者登録と狩猟期間について」
- ジビエポータルサイト「ジビエト」— ジビエ流通・販売情報


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